「そうか。もう一年になるんだ。」
「必ずしも・・・?」
そのときの僕の表情は多分、とても怪訝そうに桜さんからは映っていた事でしょう。それでも彼女は態度を崩さずに続けました。しかも・・・。
===== そう。だけれども努力は裏切らない。 =====
「へ?」
思わず気の抜けた相槌を打ってしまった僕なのでした。何故なら自分からしたら、桜さんの言っている事は矛盾しているからなのです。
必ずしも報われない、裏切らない・・・。
・・・もしも桜さんの言うことが本当なら、努力とは何という二重人格なのでしょうか。
・・・それとも何かの謎かけなのでしょうか・・・。
===== でもね。いつか分かるときがくると思うの。それがどんなカタチかは言えないけど、貴方ならきっと・・・ =====
「きっと・・・。」
僕は桜さんに続くように呟いたのでした。
「桜さん・・・。」
もうそこには彼女はいません。
工場の一室には1人寂しく男が佇んでいたのでした。
~~~~~ その翌日から ~~~~~
僕は闇雲に頑張ったのでした。工場内でのテニス、レストランでのアルバイト・・・。
それが今の自分の生活の全てなのでした。悪く言えば単調、しかし良く言えば効率的な日々です。
充実した時間は早く流れるのは、どうやら本当だったようです。
~~~~~ そして確かに月日は過ぎていきました ~~~~~
その日もいつも通りにサニーと練習をしていました。
「試合が近いんだ。」
「うん。」
プロとなったサニーが頻繁に試合に出ているのは分かっています。しかしあえて彼がのべた理由は明白なのでした。
「そうか。もう一年になるんだ。」
それは僕の独り言でした。
そうなんです。もう僕はここニューヨークにきて、早くも一年が経過しようとしているのです。そしてその節目となる時期の試合となると答えは明白なのでした。
~~~~~ 全米オープン ~~~~~
今の自分にとっては、とても重い響きなのでした。そして実際に僕の運命はこれから大きく動き出すのでした。しかも思いもよらない方向に・・・・。
===== カチャカチャ =====
もう手慣れた感じで食器を洗っていました。何も言わないし何も考えません。そこに異物が入り込む余地は無いのでした。
明日は休日です。
それは日曜日を意味しています。
ちなみにアルバイトも休みなのです。
だがしかし、そこで僕は身体を休める訳にはいかないのでした。
人と同じ様にして人よりも抜きん出ようなどとは、余りに虫の良い話なのです。
今の僕にはプラスアルファが必須なのでした。
それは自分自身を超スピードで成長させるためです。時間は有限です。この状態を何年も続ける事はできないのです。やがて若者は中年になります。それはそう遠い未来ではありません。
だからいつまでも努力させてくれるとは思ってはいけません。
それに対する施策を打って出るのです。それは・・・。
~~~~~ 翌日の日曜日 ~~~~~
===== パカーン =====
力強くラケットがボールを叩く音が響き渡ります。それは青空のもとなのでした。
そうなんです。この僕は室内ではなく、お外でテニスをプレーしているのです。
「はあっ!」
「ふう!」
最初は肩慣らし程度だったラリーの応酬が、次第に力強いものとなっていったのでした。
よし。サーブ・リターンをしよう。
「うん。」
僕は彼のいう通りに、その練習メニューに移行したのです。彼のサーブが放たれます。
===== シュッ =====
===== パァン =====
それにあわせて僕はリターンをしていました。彼のサーブは正確にサービスエリアに入っていました。そして間髪をいれずに連続でサーブは放たれてきます。しかも毎回違うコースにきています。そのコースに合わせてリターンが出きるように、僕はフットワークを駆使して食らいついていくのでした。だか自分には分かっていたのです。それは決して彼のサーブのコントロールの精度によるものではないということを・・・。どうも左右前後を自在に振り分けている様なのです。重ねていいますが、サービスエリアに入っていることがその証です。
===== パァン =====
段々とタイミングが合い始めました。
===== パン! =====
やがてクリーンヒットのリターンができたのでした。
しかし事はそんな簡単ではないのです。
これまでのサーブはフラットサーブ・・・、野球ピッチャーが投げる球で言う所のストレートなのです。
「よし、次だ。」
その彼の言葉でボクは緊張を高めたのでした。
===== バシュッ =====
彼の放つサーブの音に明らかな変化がありました。
そこにはガットはボールを擦り上げるものがありました。
擦る・・・、英語で言う所のスライス・・・・。
そう・・・、スライスサーブです。ラケットを斜め気味に当ててボールの軌道を曲がるようにする。
そして野球のピッチャーが投げる球で言う所のカーブなのです・・・。
そしてそのスライスサーブの使い手は、クライミト・チェンジ。このアカデミーの練習生なのです。




