~~~~~ 話は一週間前に遡ります。 ~~~~~(4)
シオンさんは右人差し指を口に当てて、まるで重大な秘密を述べているような仕草をしていました。でもそれはなんだかおふざけが入っている、気がするのです・・・。
「最先端ですよ。うふふ。」
「えっ?」
「センサーですよ。」
「セ、センサー?」
最先端、センサー・・・、僕には理解が出来ません。
そんな僕の心中を察したのか、彼女は言いました。
「じゃあ、試しに部屋を出ましょう。」
「え?」
訳が分からないままに、僕はシオンさんの言う通り部屋を出ました。
===== カチッ =====
「あっ!」
僕たちが部屋を出た瞬間に照明は消えました。そこには薄暗く不気味な空間が広がっていたのです。
でもそれで話が終わる訳ではありません。
シオンさんは右掌を部屋の方に向けて差し出していました。
「またお入りになって。」
「え?」
出たとも思ったら、また戻る・・・。
すぐにまた僕たちは入室しました。
===== カチッ =====
再び照明が灯りました。
「お分かりになりましたね。」
シオンさんは顔を左に10度程傾けて、スッキリとした表情をしていました。
そこで僕は正直に答えました。
「いや、分かりません。」
===== ガクッ =====
そんな擬音が聴こえてきそうです。
そしてシオンさんはスーツの襟を正して、気を取り直そうとしている様子でした。
===== コホン =====
そんな咳払いを彼女はしたのか、しなかったのか・・・。
「夏目さん。この部屋にはセンサーが設置されています。そして人、つまり私達が入室したことによってセンサーが反応して照明が入るのです。」
「なあるほどー!!」
そこで即座に納得した僕は、ポンと手をグーにして掌を叩いたのです。
そんな僕をみてシオンさんは、安堵感の滲み出た表情をしているのでした。
確かに最先端です。恐らくこの機能が一般化するのは、昭和から次の元号に代わってからではないでしょうか。
「いかがですか?」
「ん?」
彼女に言われて僕は改めて今、自分がどこにいるのか気がついたのでした。
「こ、これは・・・。」
そうこれは紛れもない、間違いない・・・、テニスコートなのです。
「な、何故・・・。」
「うふふ。驚いたでしょう。」
確かにシオンさんの言う通りでした。今頃になって、この僕は気がついたのです。
工場の中にテニスコートが設けられている、と言うことを。
「テ、テニスコートが、、、。」
それは四角い、しかし広い空間にあったのでした。そして気がついたのです。自分の足元の感触に・・・。柔らかいのです。これはやはり芝なのでしょうか。だとしたらここは室内。芝の手入れは大丈夫なのでしょうか。
「気になるでしょうね。」
シオンさんは僕が何を考えているのか、全て分かっている様子でした。
「大丈夫なんですか。これ。」
その足下の芝と思われし緑色を見下ろし、僕はポツリと呟くくらいの声で言いました。でもそんなことは、心配ご無用なのでした。
「最先端ですよ。」
シオンさんが繰り返し、この単語を出してきました。
「やはりそういうことですか。」
ここにも自分の知らないものが隠されている様です。
「これは芝であって、芝ではない無いのです。」
「は?」
シオンさんは何をいっているのでしょうか。何かの謎かけ、かトンチの類いなのでしょうか。
「ご安心ください。これは人工芝といって、文字通り作り物なのですよ。」
「人工芝?」
そうです。流石に本物の芝と全く同じとはいきませんが。完成度の高さは保証します。
改めてその場にしゃがみ、それを確認した僕は思いました。
(言われないと分からない・・・。)
凄いです。こんな施設があるとは・・・。しかもカムフラージュの為に工場の中にあるとは。
そしてコートを見回しました。すぐに分かりました。
新しい・・・。恐らく全てが新しいのです。
その人工芝を初めて目にする僕でも分かります。これはほぼ使い込まれていない状態です。
しかし、ここである疑問が生じたのです。
なんでここまでの施設が作れたのでしょうか。こんな素晴らしい設備は、巨額の予算がないと実現できないでしょう。
果たしてそれには、明確な答えはあったのでした。
「そろそろ来られる頃です。」
「え?」
一体、誰がくるというのでしょうか・・・。
ガチャ
反対側からの出入口が開きました。
勿論、そこから誰かが出てきました。
それは誰かと訊ねたら・・・。
「ああっ!!」
もう僕はビックリする他、無いのでした。
「やあ。」
恐らく話はついていたのでしょう。匂やかな表情で、彼は語りかけてきたのでした。
「お世話になります。」
そこでシオンさんは彼に対して、感謝の意を表したのでした。
「うん。困ったときは助け合うものだから。」
どうやら今回の件は、彼の好意によるものだった様です。
もう暫く彼とは会うことはない、と思っていたのですが・・・。
「元気かい?ミナミ。」
彼は右手を挙げて、屈託のない笑顔を浮かべていたのでした。
サニー。彼は嘘のない男なのです。




