~~~~~ 話は一週間前に遡ります。 ~~~~~(3)
恐る恐る僕は彼女の立つ廃工場の入り口に近づきました。
「そんなに警戒為さらずに。」
そんなシオンさんの表情は、どうにかして僕をリラックスさせようとしているように見えるのでした。そしてさらに彼女は続けたのです。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ。」
ここで日本のことわざを出してくるとは・・・。やはり彼女は日本に精通しているのでしょうか。でもまさに、シオンさんの言う通りです。確かに何の危険も無しに自分の欲しいものを手に入れようなど、虫の良い話はあるはずがありません。ちょっとずれているのかも知れませんが、鉄道やバスに乗るのに料金が発生するのと同じことではないでしょうか。
という訳で、このボクは腹をくくることにしたのでした。僕はシオンさんに導かれるままに、廃工場へと入ったのでした。
「はっ。」
やはりその中は暗いのです。通路やドアは認識できるのですが・・・。
しかし僕は後悔というものをしました。安易にシオンさんに導かれて、この空間に入ってしまったのです。
これは今更なのですが事態が急速なもので、直ぐに気が付きませんでした。そもそも僕はシオンさんを知らないです。
だから改めて感じたのです。この状態がまずい図であるということを。本当に彼女に自分の運命を委ねてもよいのでしょうか。今の自分は完全に支配される立場にあるのです。
===== 自分を信じて ====
(えっ・・・?)
まさかまさかなのです。久々に桜さんの声が自分の頭の中に響いたのでした。そしてその事によって気づかされたのです。そうなんです。すでにこのボクは人に運命を委ねていたのです。
刻露清秀・・・、そして秋原紅葉・・・・。
だからこのボクは今、アメリカでテニスをしているのです。
「失礼。」
「えっ。」
いきなり彼女の顔は、僕の顔に接近してきたのです。こんな暗い場所に二人きりでなにを・・・。まさか彼女は・・・。
「うわわ・・・。」
シオンさんの髪が僕の頬に触れそうになります。
「え・・・。」
そこで動揺の中に新たなる発見がありました。でもそれは悪いものではありませんでした。
それはそれは、とてもいい匂い。シオンさんの香水の香りでしょう。厳密にいうと彼女の体臭もブレンドされた・・・。
ここまで言うと大変、変態的な考察に陥りそうなので、この辺で止めておくことにします。
でもいきなり何を・・・。
===== カチッ =====
途端に辺りが明るくなりました。シオンさんは壁際に設置された照明のスイッチを入れてくれたのでした。どうやら僕の取り越し苦労だったようです。それと同時にちょっと残念な気持ちになりました。恐らく僕は手品の種明かしをされた子供の様な表情をしている事でしょう。
(ん?)
そう僕が考えているせいなのか、気のせいなのでしょうか。
そこでシオンさんの意味深な笑顔が見えました。それはまるで弟をからかっている様な、お姉さんのほような・・・。
「こちらです。」
僕はシオンさんに導かれるがままに、寂しい廃工場の通路を歩きました。そして率直に思ったのです。
(これのどこが最先端なんだろうか。)
どこか機能的に素晴らしいものがあるのでしょうか。それともシオンさんは僕の事を、単純におちょくっているだけなのでしょうか。
しかし道は開かれたのです。
===== ガチャ =====
「ああ!!」
それ以外の言葉は、自分の口からは出しようが無かったのでした。
「こ、これは・・・。」
今、自分のいる、これは全くの別世界。
===== パッ =====
まさにそのような言葉がピッタリの、明るさでした。どうやら外の明るさを、この室内に取り入れている様子です。それは今までの薄暗い廃工場のイメージを払しょくする美しさなのでした。
その余りのギャップに、僕は驚きを禁じ得ません。
「うふふ。」
そんな僕の心情を察してか、シオンさんは微笑みを隠しません。
「はっ。」
気がつくと照明がついていました。僕はキョロキョロと周りを見回りました。ところが僕たち二人以外の誰の姿も確認できません。どうしてなのでしょうか。
そんな僕の姿をみて、またしてもシオンさんは笑みを浮かべています。でもその笑顔は決してからかわれているものではなく、極めて優しいものなのでした。
「なんで勝手に証明が・・・。」
シオンさんに率直な疑問を投げかけました。そしてそれに対して彼女は、明確な答えを提示するのでした。
「ご安心ください。今この空間には他の誰もいません。それは私たちが入室したからですよ。」
・・・いや確かに明確な答えです。少なくとも誰かが潜んでいる訳では無い事が分かっただけでも・・・。しかし肝心な事が分かりません。
どうして誰もいないのに証明がついたのでしょうか。ましてや僕とシオンさんは至近距離を保っており、シオンさんが証明のスイッチを入れるなど不可能なはずです。
(・・・・。)
まさか、まさかです・・・。
彼女は超能力者なのでしょうか・・・・。




