昼食は、autumn original(オウタム オリジナル)
ロビーで、とても恥ずかしいやり取りをしてしまった僕と紅葉さんは、控え室に入りました。
「んー。うかつだったですね・・・。紅葉さん・・・・・。」
僕はちょっととまどいながら、紅葉さんに声をかけました。
「・・・・・・・・。」
紅葉さんは僕に何も答えずに、黙っていました。
「え・・・?どうしたんですか、紅葉さん・・・・?」
紅葉さんは、うつむいたままで相変わらず黙っています。
「大丈夫ですか?紅葉さん・・・・!」
僕は、紅葉さんの顔をズイッとのぞき込みました。
「・・・・・・・!!!いやっ!!」
何故か紅葉さんは、とっさに僕に対して顔を背けました。
「ええ??本当にどうしたんですか・・・紅葉さん・・・・!」
僕は、紅葉さんをまじまじと見つめて問いました。
「見つめないで・・・・・・・。」
紅葉さんは、両手で顔を隠し、僕に背中を向けました。
僕は、やっと紅葉さんの態度の理由に気がつきました。
(そうか、紅葉さんはさっき僕が紅葉さんの気にすることを言ったのをまだ根に持っているんだ・・・・。)
「紅葉さん、さっきはごめんなさい。紅葉さんが気にしているのを無神経にふれてしまって・・・。」
僕は、いいわけをせずに正直に謝罪をしました。
「・・・・・違うもん・・・・・。」
紅葉さんは、相変わらず僕に背を向けていました。
「もう、そんなことなんか気にしていないもん・・・・・・。」
紅葉さんは、どうしたのでしょうか?
「紅葉さん、じゃあどうして僕に背を向けているのですか?」
僕は、どうしていいのかわからなくなってきました。
「だって、恥ずかしいもん・・・・・。」
(え・・・・?)
僕は、不意をつかれた様な感じで言葉が出ませんでした。
「巳波君が、アタシをみてそんな風に考えていると思うと、とても恥ずかしいもん・・・・。」
紅葉さんは僕を振り返り、そう答えてきました。
その時の紅葉さんの仕草をみて、僕はとても可愛いと思ってしまいました。
「紅葉さん、気がついてなくてごめんなさい。さっきのは、勢いで言ったわけで紅葉さんに対してそこまで僕は考えているわけじゃないから・・・・・。」
僕は、紅葉さんを傷つけないように言葉を選びながら発言しました。
「ふーん・・・・・。」
急に紅葉さんは僕の方に向きなおしました。
「そこまでって・・・・。考えてる訳じゃないって・・・・・・。巳波君にとってアタシは、どうでもいいことなんだ・・・・・。」
そう言い放つと、紅葉さんはしゃがんで体育座りをしてしまいました。
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
(まずい!!なんとか、話題をそらさねば・・・・!!)
僕はとっさに目に入った、紅葉さんが持っているレジ袋らしきものを題材にしようと試みました。
「も、紅葉さあん・・・。」
「・・・・・なあに・・・・。」
「紅葉さんが持っている袋には何が入っているんですか?」
「・・・・・アタシの実家のパン屋さんのパンよ・・・・・。」
「それは、美味しそうですね・・・・。」
「・・・・・・一緒に食べる・・・・・?」
「有り難うございます!!もうお昼だし、一緒に食べましょう!!」
僕と紅葉さんは、一緒にパンを食べることになりました。
「これは、クロワッサンですね。ちょんどよいくらいのパサパサ感が絶妙ですね・・・。」
僕は本当にパンを美味しいと思ったので、感想が自然にでてきました。
「このドーナツもちょうど甘過ぎもなく、堅さもほどほどの柔らかさでいいですね。」
料理評論家が憑依したように、僕の舌は忙しく回り出しました。
「僕、ミルクフランス好きなんですよ!!最近、柔らかいのもあるけれど、やっぱり堅い方がいいですよね!!」
僕は、紅葉さんの実家のパンが本当に美味しいので、次から次へとパンを褒め食いちぎりました。パンだけに・・・・。
「この、袋に書いてあるautumn originalって、お店の名前ですか?」
僕はさっきから気になっていました。
「そうよ、和訳直訳すると、秋、原、だよ・・・・。」
(とてもわかりやすい、お店の名前だなあ・・・・。)
僕が忙しそうに、食べながらしゃべっているのを見て紅葉さんは、クスクス笑っていました。
(紅葉さん、もう許してくれたのかなあ・・・・・・?)




