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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第一章 旅立ち
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紅葉さんの、秘密

 (そんな・・・・。そんな・・・・・やっぱり紅葉さんは、薬物に依存していたのか・・・・。)

僕は逃げ場のない、絶望にうちひしがれていました。


 「この薬を服用したら、試合のドーピング検査で引っ掛かるんだ。」

紅葉さんは、覚悟を決めた表情で淡々と僕に語りかけました。

 「う・・・・・・・・!!!!」

(やはり噂はほんとうだったのか・・・。)

真剣に話す紅葉さんに、僕は批判の言葉をかける事はできませんでした。


「でも・・・・。それでも巳波くんには、アタシの話を聞いて欲しいの・・・・。お願いだから・・・。」

紅葉さんのこの言葉に、僕はこの話が単純な事ではないと直感しました。

「アタシは、小さい頃から内臓の病気を抱えているの・・・・。それは、体に必要な成分を、内臓が生成できないという事・・・・。一言で言うと、内臓の機能不足なの。」

紅葉さんは、とても辛そうな顔で呟くように僕に言いました。

(ええ・・・・・!?)

それは普段の紅葉さんからは、想像もできないような告白でした。


 「アタシは小さい頃は体も大きくて、運動も得意だったんだけど・・・・。不自然な位にスタミナのない子供だったそうなの・・・・。外で遊んでいるときに倒れちゃって、病院で検査したら内臓が悪いことが判明したわ。無理をしなければ、通常の生活は間違いなく送れるわ。だから、お医者さんからは激しいスポーツはやめるように言われたの。アタシ、とても辛かったのよ・・・・。その頃は。」

 僕は若干、紅葉さんの言わんとしていることが、わかってきました。


 「でもね、そんなアタシに手をさしのべてくれた、お医者さんが現れたのよ。」

 紅葉さんの、話の核心に迫ってきている事が、僕には感じとれました。


 「若い二人のお医者さんが、アタシの為に薬を開発してくれたの。当時、とても優秀な女医さんと、若い男のお医者さんだったわ。」

(あ・・・。やはりそうか・・・・)

やはり、今プロ活動を休止しているのは、怪我でなく内臓の状態が悪くなったからだったのでしょう。

僕は不安から、解放されていく自分にきずいていました。

 「この薬はアタシの内臓が十分に生成できない、成分を補う働きがあるらしいんだ。それでね、この薬ではプロテニスの試合のドーピング検査にひっかかるんだ。」

(え!?紅葉さんは、ドーピングしたことになるの・・・・?)


 「やはり、この薬が紅葉さんのプロ活動休止にかかわっているんですか。」

僕は、不安ながら紅葉さんに問いかけました。

 「でもね巳波君、この薬にはもう一つのバージョンがあってね、この別のタイプではドーピング検査にひっかかる成分がないんだよ。」

紅葉さんは、薬の袋を手に取りながら説明しました。 

「じゃあ紅葉さん、そのタイプの薬を使用すれば、問題はないんですね。」

僕はホッと、胸をなで降ろしました。

「ううん実は、ドーピング検査はパスできるけど問題はあるの。それは、このタイプの薬は効き目がとても弱いの。だから、アタシはテニスの試合では体にとても負担がかかるのよ。」

(そうか、全てが納得できた。紅葉さんが国内の試合をメインにしていて、あまり海外の試合にいかない理由・・・。やはり体調の管理が難しいからなのだ。本来ならプロテニス選手であること自体、紅葉さんにとって大変な事なのだ。なんせ、プロテニスの試合は2時間や3時間は普通にかかる。それがトーナメントとなると、連日の疲労が蓄積する。紅葉さんにとっては非常に過酷な条件での戦いになるであろう・・・・。)


 僕は誤解とはいえ、紅葉さんに抱いた怒りの感情に対してとても後悔しました。

紅葉さんの明るい表情は、病で苦しんでいることの裏返しだと思うと・・・・。

とても、僕は紅葉さんが不憫に思えてきました。

 「アタシが内臓の病気で、治療と薬の投与を継続していることは支配人も日向コーチも知っているわよ。」

 「そうなんですか・・・!」

 「それに、薬の使用はプロテニス協会にも申請はしているし、ドーピング検査にも問題なしとなっているよ。」

 「それなら、紅葉さんはなにも悪いことしていないじゃないですか。どうして、マスコミに叩かれなければいけないんですか。」

 「雑誌の記事は、アタシが薬物を投与していると書いているけど、ドーピングしてるとは書いてないわよ。」

 「え、じゃあ・・・・?」

 「巳波くんをはじめとして、記事を読む人は先入観があるからね。厳密に言うとこの記事は嘘は書いていないことになるわよ。」

 (たしかに、僕は勝手に紅葉さんがドーピングをしていたと決めつけていた・・・・。この記事は紅葉さんが、病気の為の薬物投与をした事を差しているのだ。)


 「この雑誌は巧みな表現で読者に、アタシがドーピングしたと誤解させるように誘導したのよ。」

紅葉さんは、この話の真相をまとめてしまいました。


 「それと・・・。こんな事には、沈黙するしかないんだよ・・・。」

紅葉さんは若干遠い目でいながら、かたりました。

 「紅葉さん、僕は心配です・・・・・。」

僕は、心から率直な気持ちをだしました。


 「ありがとう・・・・。巳波君・・・。」

紅葉さんはフウっと、小さなため息をつきました。

 「でもね、アタシはやられっぱなしじゃないんだよ。アタシは、秋原紅葉は、必ずそんな噂なんてはねかえしてやろうと思っているんだ。」

 紅葉さんの目は、何かを狙っているような輝きを見せていました。

 (紅葉さん、やぱっり、紅葉さんは紅葉さんだ・・・・) 

僕は紅葉さんのその言葉を聞いて、少しだけホッとしました。

紅葉さんらしいところは、ちっとも変わっていない・・・・。


 「もみじさん・・・。」

僕は、安心したところで先ほどから、気になっていることを表明しようと試みることとしました。

 「何?巳波君」

紅葉さんも、なんだかスッキリした表情をしていました。

「あの紅葉さん・・・。できたらその・・・。パジャマかスウェットとかを着ていただきたいのですが。」紅葉さんは、白のバスローブ1枚だけを身につけているだけのようでした。

だって、なんだかボディラインが露わになっているのですから。

「紅葉さん、風邪をぶり返してもまずいでしょうし・・・・・。」

「あら、そう・・・?」

目のやり場に困っている僕を見て、紅葉さんはとても満足そうでした。

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