ナイフを持った、紅葉さん
紅葉さんは、僕の背後に腕を組んで仁王立ちでした。
何なのでしょう、紅葉さんにはまったく動揺した様子が見られません。
あまりの紅葉さんの堂々とした態度に、僕の不信感はマックスに達しました。
「紅葉さん、これは何なんですか!?」
僕は我慢できなくなって、激しい口調になりました。
「何って、これは薬と注射器よ。」
紅葉さんは、あっけらかんとした表情をもって僕に返答をしました。
「真面目に答えてくださいよ!なんでこんな物をもっているのですか!?」
僕は、紅葉さんの ひょうひょう とした態度に対して、フツフツとした苛立ちを隠すことをやめました。
「巳波君には是非とも、このことは誰にも言わないで欲しいなあ。」
紅葉さんは、とても胡散臭そうな表情で、僕をたしなめるような物言いででした。
(!!!!!!!そんな・・・)
僕は、紅葉さんの態度に対して、為す術もなく絶望感を感じるしかありませんでした。
「質問に答えてください!!」
もはや僕には、彼女に対して強く物を言うしか道は残されていませんでした。
「だって、アタシにとってこれは大切なものなんだもん。」
紅葉さんはとても困ったように、ごまかすように笑っていた。
「なんで、これが必要なんだ!!!どうして、これが大切なんだよ!!!」
僕は瞬間湯沸かし器のように、彼女に対する憎しみに近い感情がこみ上げてきました。
「だって、だってえ・・・。これがないと、あたしは死んじゃうだもーん。」
紅葉さんは右手の人差し指を口に当てながら、とても可愛い感じで答えた。
紅葉さんは僕の怒りと憎しみを、さらに刺激した。
僕は、絶望に怒りと憎しみを交えて、ワナワナと肩を震わせていた。
紅葉さんは、フウーッと息をつきました。
「いい加減に、落ち着いてくれないかなあ。巳波君。」
紅葉さんは、この状況にも関わらず、とても優しい笑顔を見せました。
「この状況で、どう落ち着けと言うんですかあ!」
(バン!!)
僕は、両腕の拳を床に叩きつけました。
「そうかあ。うーん、こうなったら、実力行使だ・・・。」
紅葉さんは、さらに不敵な笑みに表情を変化させてきました。
(何なのだろう・・・。この違和感は・・・。)
僕は、かすかな違和感に気がついていた。
それは、その違和感の正体とは・・・。
紅葉さんの手には・・・・、とても小さなナイフが握られていた。
紅葉さんは、僕には残酷な薄ら笑いを浮かべていた・・・・。




