楽しみにしててね!!
僕はムーンに注視しつつ、ゆっくりと繁華街に向かって歩いていました。
「・・・・・・・・」
内容は分からないものの、話し声が聞こえてきます。
それだけ、彼女の声量は大きいのでした。
だから僕はなおさら、ムーンの声が気になって仕方がないのでした。
「・・・・いつ・・・・・・」
(うーん・・・・・、何を言っているのかは分からないなあ・・・。)
僕はどうしても内容が知りたいと思いました。
だから自然と、ただでさえ遅い歩みが、どんどんと鈍化していったのです。
(知りたい・・・、ムーンが何を話しているのか・・・。)
彼女は僕がどう思っているのか、知っているのか知らないのか、黒い電話ボックスで黒い受話器を持っていました。
「・・・・ロウィン・・・・・・」
(ん?
ロウィン・・・、ハ・ロウィン・・・?)
ムーンの一部の発音が、聞き取れたのかも知れません。
ハロウィンの話をしているのでしょうか?
でも夜に電話ボックスで、そんなことを会話するのも不自然です。
(ひょっとして、隠語か何かなんだろうか?)
当然たったそれだけの単語だけでは、手がかりとしては不十分で全く会話の内容はつかめません。
「・・・・その時期に・・・・・・」
また一部の言葉が聞き取れたのですが、「ハロウィンの時期に」何かがあるとでも言うのでしょうか・・・。
これだけではあくまで推測の域を脱し得ない訳で、僕は会話の内容を解読するのを諦めかけていました。
================= ガチャン ====================
「はっ!!」
ムーンが、受話器を置く音が聞こえました。
僕は慌てて視線をそらして、彼女に背を向けて歩きました。
そしてムーンの電話を傍受(?)しようとした後ろめたさもあって、僕はスタスタと早足になっていたのでした。
(ああ・・・・・。)
気がつけば、一緒に歩いてるはずのサニーと不自然な距離がついてしまっていました。
(これはまずいなあ・・・・。)
これでは彼女から見れば、僕が立ち止まっていたと思われても仕方がありませんでした。
「なにがまずいの!?」
「うわああ!!!!」
後ろからムーンに肩を叩かれ、僕はビックリしました。
それは自分自身が、彼女に対して内緒事をしていた、という証明の材料となってしまうのでした。
「ふーん」
狼狽する僕の顔を、ムーンはとても大きな目で見つめていました。
「う・・・ん・・・?」
そんな彼女に対して、僕はどのようにリアクションを取れば良いのか分かりませんでした。
「ひょっとして、ワタシの事を心配していたの?」
ムーンは後ろに腕を組んで、僕に顔を近づけてきました。
彼女の思いも寄らない台詞に対して僕は、戸惑い半分、安心半分の気持ちなのでした。
「そうだよね!
気になるのも無理もないよね!」
「は、はあ・・・・。」
ムーンは、今度は後頭部に手を組んで、勝手に盛り上がっている様子なのでした。
そんな彼女を見て、僕はホッとしたのでした。
「でもね!
心配ご無用!!」
「う、う・・ん」
さらにムーンは何故か、右手に力こぶをつくるポーズを取り、左人差し指を添えていました。
そんな彼女の行動は、自分にとっては意味不明に感じられるのでした。
============= ワタシは黒だから!! ====================
ムーンは、再び謎の言葉を発したのでした。
な、謎です・・・。
僕にとって、色々な意味にとれる、その台詞は謎以外の何物でもないのでした。
(黒って・・・・、一体・・・、ムーンの何が黒なんだろうか・・・・。)
僕はゴクリと唾を飲み込み、彼女の全身に視線を走らせてしまったのでした。
その瞬間、自分はやっては行けない事を、やった気分に陥ったのでした。
とても気まずいのでした・・・。
でも・・・・・。
「楽しみにしててね!!」
「は?」
ムーンは、僕の左肩にポンと手を置き、大きな右の瞳をウインクしていました。
彼女のその振る舞いによって、ますます意味不明な迷宮に入り込んだ僕は、クラクラと目が回りそうになってきました。
しかし・・・。
「あっ!!」
いきなりムーンは、大声を上げたのでした。
「うわわわっ。」
僕はまたまたビックリしてしまいました。
とことん彼女は、落ち着きのない娘なのでした。
「さ!
いくよ!」
ムーンは、僕の腕を強く引っ張りました。
そして、この会話でますます引き離されたサニーに追いつくために、僕たちは足早に繁華街に向かったのでした。




