ハードボイルド・サニー
その日は、早朝から異変を感じたのでした。
今日も終日、アカデミーでの練習です。
「おはよう。」
「うん。おはよう、」
いつもは陽気なサニーは、なぜか落ち着いた雰囲気を醸し出していました。
その様子を言葉で表すと、重厚さ、というものがふさわしいのではないでしょうか。
(今日のサニー、なんだか違うなあ。)
「じゃあ、また後でね。」
「うん。後で。」
別に素っ気ないというわけではないのだけれど、杓子定規を感じるようなサニーの受け答えなのでした。
もっともサニーとは部屋がとなり通しなのですが、食事などは一緒に取っていません。
ここは学校ではないのです。
一緒に練習しているメンバーは、実はライバルなのです。
だから必要以上のなれ合いは、禁物なのでは、と僕は思うのです。
サニーも、そのことはお互い分かり合っている、としているのではないでしょうか。
だからひょっとしたら、彼は気持ちを引き締めるために、僕とは必要以上に接するのを押さえようとしているのでないか、と推測します。
「今日も、いらっしゃい!」
いつも通り、アカデミーのウェイトレス、ムーンが元気よく接客をしてきました。
僕はいつも通りに、パンを中心とした朝食を取ることにしました。
ここに来てからは、めっきり米類を取ることは少なくなっていました。
それに日本でいたことが、だんだんと遠い過去のように錯覚する位になってきています。
自分は、いまの環境に順応して、完全に慣れている様なのでした。
ここの水にあっているのかという安心感がある反面、故郷を思う心が薄まっている事に少し申し訳ない気持ちが芽生えて来ました。
「緊張してる!?」
「は!?」
いきなりムーンに、よく分からない質問をされて、僕は戸惑いました。
「心配ないようね!」
朝食メニューを持ってきた彼女は、そんな捨て台詞を置いていきました。
(な、なんなんだろう。
まあ、ムーンのよく分からないところは、今に始まった事じゃないけれど・・・。)
ひょっとして、これから何かが始まるのでしょうか。
そんな疑問を持った自分なのでしたが、彼女もこれ以上は何も触れなかったので、このままレストランを後にしたのでした。
今日、アカデミーの練習が始まりました。
僕はサニーを相手に、ヒッティングをしていました。
(んんー・・・・。)
なんだか、練習しても腑に落ちません。
サニーは相変わらず、落ち着いた感じがするのです。
それどころか、その立ち振る舞いに老獪ささえも感じ得るのでした。
(な、なんなんだ。
今日のサニーは・・・。)
なんだか、とてつもない大人の雰囲気を醸し出すサニーに、僕は焦りを覚えました。
とくに意味は分からないのですが、とにかく差をつけられた感覚に襲われそうになる程なのです。
・・・・・・、そうこうするうちに午前の練習が終わりました。
昼食は、サニーとアカデミーのレストランでとりました。
今日はムーンは、決まり通りの対応で個人的な事は、話しかけて来ませんでした。
そしてサニーも、とくに世間話をしようとしませんでした。
そんな彼に対して、僕も壁のようなものを感じて、とりとめのない会話に誘導する気が起こらなかったのです。
昼食後のお昼休みに、サニーとベンチに座りました。
(・・・・、駄目だ、間がとても持たない・・・。)
僕は、これまでの彼との最低限のやりとりに、我慢が出来なくなっていたのでした。
「サニー・・・。」
ついに僕はサニーに、今日の態度について言及しようとしました。
しかし、そのとき・・・・・
=============== ガラガラー!!! ===================
やけに生きのいい騒音が、あたりに小玉してきたのでした。
(ま、まさか・・・。)
ボクの脳裏に、ある走馬燈がよぎったのでした。
それは自分にとっては、危険と期待(!?)が入り混じったのもだったのです。
そして僕は、チラッとサニーの横顔を見やりました。
相も変わらず彼は、凛とした表情を維持していたのでした。
=============== ガラガラガラ=!!! ==================
(くっ・・・・!
このままでは・・・。)
僕は、とりあえず行動を起こす事にしました。
「サニー、ベンチを離れよう。」
ボクは、すぐに訪れるであろう危機を、回避しようとしたのでした。
それもサニーを、なるべく刺激しない形で・・・。
しかし・・・。
サニーは不動でした・・・。
その無言の表情は、とても少年とは思えないダンディズムを感じるのでした。
「あ、危ないよ!
サニー!!」
たまらなくなった僕は、サニーの腕を引っ張りました。
その瞬間が、訪れました。
「ぎゃあああ!!!!」
「どわああああ!!!!」
危機が訪れたのは、サニーではなく、僕の方だったのでした。
「いたた・・・・。」
幸い今回も(?)、お互いに大事に至る怪我では無かったようでした。
今回も僕の期待通り(!?)に、ローラースケートのソバカス娘がベンチの下で、尻餅をついて転んでいました。
(うう・・・・、全くあの時と同じ状況だ・・・。)
そして、全く同じ展開が・・・。
ローラースケートのソバカス娘は、起き上がって僕に食いついてきました。
「みたの?」
「はい!
みました!」
=============== ズコッ!!! ======================
僕の素直な返答に対して、ローラースケートのソバカス娘は、拍子抜けしてる様子でした。
「ちょっと!
少しは否定しないの!?」
今回も彼女は、僕の胸ぐらを掴んできました。
「だって、どうせ結果は同じだし・・・。」
ボクは、あえて冷めた対応をしました。
「なっ・・・!!
なんとも思わないの!?」
彼女は怒り出しました。
そんな女の子に対して僕は、ちょっと困られてやろう、という考えが生まれてきたのでした。
「だから何を見たって?」
ボクは、逆に彼女に問い詰めました。
「なっ・・・・、女の子のにそんなことを言わせるの・・・?」
彼女の、鼻もとのソバカスのあたりが赤くなりました。
ローラースケートのソバカス娘は、まさに面食らった表情を浮かべていました。
バツが悪くなった女の子は、プイッと僕から顔を背けました。
そして自然と成り行き的に、彼女はサニーと視線が合うことになったのです。
「くっ・・・。
アンタは、何とも思わないの!?」
今度は彼女は、サニーに攻撃対象を変更したようでした。
「・・・・・・・・。」
サニーは、まるで上の空で、女の子の言葉に反応を示していませんでした。
「なにー!?
アンタ!
その態度はなにー!!?」
怒り心頭のローラースケートのソバカス娘は、サニーの胸ぐらを掴みました。
それは100%完璧な、彼女の八つ当たりなのでした。
しかし・・・、事態は思わぬ方向に向いていたのでした。
「・・・えっ!?」
ローラースケートのソバカス娘は、またしても気勢を削がれたのです。
それは何故かと言うと・・・・
今日の男前のサニーは、まったく動揺をしていないのでした。
そんなサニーに対して、彼女は胸ぐらを掴む手を緩めてしまったのでした。
「くっ・・・・くく・・・・!
アンタ等、あくまでもシラを切り通すつもり・・・!」
まさに暖簾に腕押し状態の僕たちに対して、女の子は追い詰められたかのように、肩を震わせていました。
「こっ・・・!
これでもーーー!!!」
いきなりローラースケートのソバカス娘は右手で、そのミニスカートをたくし上げて彼女の右フトモモを、僕たちに見せつけてきたのでした。
「ほらっ!
ほらっ!!」
向きになっている彼女は、完全に自分と見失っている様子でした。
「な・・・!」
ボクは彼女の血迷ったかと思えない暴挙に、体を巡る血液が沸騰するかと思ったのでした。
しかし・・・、女の子は全く僕の事には無関心でした。
と、いうかローラースケートのソバカス娘の意識は、僕の隣に向かっているようでした。
その事に気がついた僕は、サニーの方を目をやると・・・。
(な・・、なな・・・・・。)
僕は、驚愕しました。
こんなダンディーな少年が、実際に存在するのでしょうか。
いや、今まさにここにいるのでした。
まさにサニーの佇まいは、「お嬢さん、パンツは見せびらかすものじゃないよ。」と言わんばかりの老獪な落ち着きを払っていたのです。
独り相撲とは、今まさにこの、ローラースケートのソバカス娘の為にある表現と言えるのではないのでしょうか。
「こっ、こっ・・・・・・!」
そんな彼女は、ちょっと涙目になっていました。
「これじゃワタシがまるで、ヘンタイ娘みたいじゃないのー!!
おっ、覚えてろー!!!!」
================ ガラガラガラーーーー!!!! ================
そう言うと彼女は、右手で顔を隠して一瞬で走り去っていきました。
ポカーンと、呆気にとられていた僕は、ハッと気がついて彼の方に振り向きました。
「サ、サニー・・・・。」
やはり、サニーは、若干うつむきつつも平静を保っているのでした。
そして結果的に強敵(?)を撃退したサニーは、原因不明のダンディズムに目覚めているのでした。




