私も、貴方を同じだから・・・
「ここには慣れた?」
「ええ、もう慣れましたよ。」
「敬語じゃなくてもいいよ。
従兄弟なんだから。」
「ええ、は、はい・・・。」
「だから、敬語じゃなくてもいいから・・・。」
僕は雪乃さんに対しては、どうしても敬語が抜けきらないのでした。
ボクは確かに、昔から自他共に認める内気な性格でした。
但し、そんな性格の人間だったから、今まで相手にしてくれる相手がいたのも、又事実なのでした。
それともう一つ、彼女にタメ口がいえない理由があると思われるのでした。
それは自分が、テニスプレーヤーとして同じ立ち位置にいないという遠慮の会ったのかも知れません。
「早く、私たちのステージに上がってね。」
(う・・・・。)
まさに今、自分が気にしている事を雪乃さんは言葉にしたのでした。
それ故に、僕は彼女に相づちを上手く返すことが叶わなかったのです。
「それじゃあね・・・。」
あっさりと雪乃さんは、後ろ姿を見せて去っていきました。
その潔い去り際は、彼女の性格そのものでした。
実は雪乃さんは、全米オープンの本戦に進出したものの、一回戦で惜敗をしたのでした。
少なくとも四大大会の予選を突破して、本戦に進出するのだから、彼女のテニスのレベルは世界のものでしょう。
勿論、彼女は、これからも海外転戦を続けて行くことでしょう。
そうです今年の全米オープンの全日程は終了したのです。
そして、極めて優秀な諜報員、我らがムーンの活躍によって、ボクはリアルタイムで気になる人たちの試合結果を把握する事が出来たのでした。
ちなみに最終結果は、四季折夫さんは、男子シングルス・ベスト8。
オウバー・キャストさんは男子シングルス・ベスト16。
・・・レイ・スプリンクルさんは、女子シングルス・ベスト8。
みんな世界の上位選手であることが、明白でした。
その事実によって、自分の中で、ある感情が芽生えてきたのでした。
(僕の周りは、凄い人ばっかりなんだ・・・。)
そう考えると、僕は寂しい、そして非常にネガティブな気持ちになりました。
何故かというと、自分に関わる人は、テニスにおいてとても素晴らしいレベルの方々です。
なのに自分自身は、それに釣り合っていない人物にしか、どう考えても思えないのでした。
自分は本当にこんな環境を与えられるような、人間なのではないのではないでしょうか。
(く、苦しい・・・。)
ボクは、ほとんど自己嫌悪と自信喪失が合わさったプレッシャーに陥り、この世に居づらくなる感覚に襲われたのでした。
しかし、そんな自分に救いの手をさしのべる人が、いたのでした。
そう、あの人が・・・。
「そんなこと無いよ。」
ハッとして横を振り向くと
(え、雪乃さん・・・?)
いえ、雪乃さんではありません・・・。
彼女は・・・。
「なんですか・・・。」
彼女の名は、桜さん・・・。
なんだか久々の登場の様な、気がします。
「なんでって?
貴方が困ったときは、私が現れるのよ・・・。」
「そ、そうなんですかあ?」
今ひとつ言葉の意味が分からないのですが、とりあえず彼女の事は否定しないことにしていました。
今のボクは、女性の言葉に下手に逆らわない事にしているのです。
「悩んでいるのね・・・。」
「え、まあ・・・。」
それに・・・、桜さんはボクの事は全てお見通しなのです。
だからといって、特に不快さを感じないのが、彼女の凄いところなのですが・・・。
「それは貴方の取り越し苦労だと思うわ・・・。」
「と、取り越し苦労・・・・?」
やはり彼女は、僕の心の中が見えるのでしょうか。
それとも桜さんは実は・・・・・・・
「そう、心配ご無用・・・。」
「心配・・・、無用・・・・?」
「心配ご無用、心配ご無用。」
安心させようとするワードを連呼した桜さんは、軽くボクに向かって手を振っていました。
そして彼女の、どこか余裕を含んだ表情は、僕に底知れない安心感を与えてくれていたのでした。
「でも、僕の周りの人たちは、レベルがとても高くて・・・。」
そうはいっても、腑に落ちない点が自分の中にあるのです。
自分の不安を、彼女に対して吐き出したかったのですが、あまり言葉が続きませんでした。
「確かに、今の貴方から見たら、レベルは高いかもね・・・。
高すぎるかもね・・・。」
桜さんは、ボクの見解に全く否定をしていませんでした。
(やっぱり桜さんも、そう思っていたんだ・・・。)
自分は、ちょっとハシゴを外されたような気分になりました。
「どうしたの。
私に否定をしてほしかったの・・・?」
「え・・・、いや、そうゆう訳では・・・。」
自分は本当は、そうじゃない、と桜さんに否定をして欲しかったのかも知れません。
でも、桜さんはボクの現状のテニスの技量と、周りの人たちの技量が離れている事をハッキリと言葉にしました。
自分だって、それが事実なのは百も承知です。
でも・・・・。
「引け目を感じているの?」
「え!?」
またしても、彼女は僕の図星を指してきました。
なんだか自分は、追い詰められているのではないか、という気分になってきました。
「だからって、なんだって言うの?」
「え!?」
さらに、桜さんは自分の予想を裏切る言葉を出してきました。
「テニスのレベルは、今後追いつければいいのよ。」
「追いつければ・・・。」
「そうよ。
追いつければ・・・。」
そのとき僕は、彼女が言わんとしていることに、気がつき始めていると感じていました。
(桜さんは、現時点でのレベルを気にするな、と言っているのか・・・。)
「それにね・・・。」
「・・・・。」
桜さんは、改まった感じで少し間をおきました。
「類は友を呼ぶ、と言うじゃない。」
「る、類は・・・?」
ボクは、彼女の顔をジッと見ました。
桜さんは、微笑を浮かべていました。
「折夫さんも、雪乃さんも・・・」
彼女は、ボクが思っている人の名前を出してきました。
「オウバーさんも、レイさんも・・・」
彼女は、何を言いたいのでしょうか。
「みんな、貴方と同じ種類の人たちなのよ。」
「お、同じ・・・?」
「そう・・・、みんな同じなのよ。
だから、現時点でのレベルに悲観的にならないでいいわ・・・。」
桜さんは、今回の話の確信を述べた様子で、一息ついた様子でした。
「それに・・・。」
「そ、それに・・・。」
また、彼女は間をおきました。
「私も、貴方を同じだから・・・。」
桜さんは、軽く頬を緩めた感じで、ボクの目を見つめていました。
(さ、桜さんも、僕と同じ・・・。)
そう彼女に言われると、正直照れくさいです。
(ん・・・?)
気がつくと、彼女の姿は見えませんでした。
いつもの事だから、僕はあまり気にしていませんでした。
しかし・・・
=============== 別の視線を感じる =====================
(あ・・・・!)
僕が感じる視線の方向に振り向くと、男性の後ろ姿がありました。
彼はサングラスをかけて、ラッパーの様な服装をしていました。
あえてボクは、その男性に声をかけることはしませんでした。
(お、折夫さんも来ていたのか・・・。)




