マジシャン・ムーン
「それでね!」
ムーンは、話を続けました。
僕は彼女が何を言うのかは、予想はしていました。
ただ、それは二通りのパターンが用意されていました。
「ユキノは1回戦は突破したよ!」
ムーンはボクの目の前で、パーの手のひらを突きつけて報告しました。
「おお・・・・!」
実は雪乃さんは、今日は午前中に試合があったのでした。
「と、いうわけで・・・・。」
彼女は両手を腰に当てて、大得意なポーズを取っていました。
「毎日、食べに来てね!」
ウェイトレスは、堂々と営業トークに結びつけたのでした。
(・・・・・。)
僕は返答をするのに、困ってしまいました。
でもまあ、ムーンのニュースがとても速いのは、恐らくほんとうだと思いました。
まあ、その根拠に具体的なものは無いのですが。
彼女の雰囲気から、そう察するのでした。
そして間もなく、それはまさに現実となるのでした。
そして、雪乃さんの予選二回戦の日です。
僕は昼の練習の途中の三時の休憩で、ベンチに座っていました。
僕はドリンクを取りながら、荒くなっている呼吸を整えていました。
「ピンポン♪パンポーン!!」
「のわああ!!!」
いきなり耳元で、大きい声をかけられたので、ボクはビックリしてしまったのでした。
「ユキノは、二回戦も突破よ!」
見上げると、まさに得意げなムーンが、仁王立ちで僕を見下ろしていたのでした。
「急に、ビックリするじゃないか!」
ボクの心臓の鼓動は整えるどころか、バクバクと落ち着きが有りませんでした。
「どこよりも速いニュースだよ!」
彼女は全く悪びれた様子は有りませんでした。
(・・・・・。)
こうなったら、もう何も申しますまい・・・。
僕は、一抹から十抹までの不安を抱えつつ、練習に戻ったのでした。
そして、またまた次の日ー。
僕は練習を終えて、ラケットにガットを張りに行きました。
ガット張り機のテーブルの前に立ったとき・・・・、異変は起こったのでした。
強烈な視線を感じるのです。
しかも、普段あり得ない方向から・・・。
「今日もユキノ勝ったよ!」
(・・・!!!)
ボクは周りを見回しました。
でも、あの女の子の姿はいません。
「え・・・、ええ?」
訳の分からない僕は、うろたえていました。
「こっち、こっち!」
自分の目線よりも、かなり下の方から声が聞こえてきたのでした。
============= ヌッ ==============
「どわああ!!!」
なんとムーンは、ガット張り機のテーブルの下から、姿を現したのでした。
ボクは、久々に恐怖に近い感情を感じました。
「言ったでしょ!どこよりも速いニュースだって!」
今度は僕を見上げて、しゃがんでいるにも関わらず、彼女は相変わらずも得意げな様子でした。
(・・・・・・!!!!)
やはり僕は、ただ絶句するだけなのでした。
そしてー、その後もー。
ボクはいつも通りに、アカデミーの練習をしてました。
ふと視線を感じると、テニスコートのフェンスの外には、ムーンが立っていました。
しかも、その彼女の出で立ちは・・・!
何故か、ムーンはシルクハットを被り、ステッキをもっていたのです。
(な、なんなんだ、あの格好は・・・・、あれはまるで・・・・。)
僕は、これから何が起こるのか期待(不安!?)の心持ちなのでした。
動きがありました。
彼女がシルクハットを上げると、白いものが宙を舞いました。
どうやらそれは、生き物の様でした。
その結果、彼女の肩には、意外(予想通り!?)すぎるものが乗っていました。
(あ、あれは・・・・・、鳩・・・・?)
そうです、ムーンの右肩には、鳩が乗っていたのでした。
シルクハットに、ステッキ、肩の鳩・・・・。
何かを、おっぱじめようとしているのは、ほぼ間違いないと思えます。
そして僕はとても、いやな予感がしていました。
彼女は、ボクと目が合うとウインクしました。
僕は、ドキッとしました。
自分の推測が当たっていると、確信したのです。
そしてムーンは、白い紙切れを鳩に加えさせたのでした。
そして、その鳩は彼女のの右肩から飛び立ちました。
その鳥は、ボクの方向に向かってきます。
そして・・・・。
鳩は、僕の腕に乗ってきたのでした。
(わわっ!!)
全く持って初めての体験なので、自分としては狼狽える事しかできなかったのです。
(ま、まさか・・・。)
ボクは導かれるように、右手を鳩のクチバシに伸ばしたのでした。
そして鳥は、フッと紙切れを離しました。
(こ、これは・・・。)
この紙切れは、何なのでしょうか・・・。
鳩はスッと、再び飛び立ちました。
そして程なく、ムーンの右肩に戻ったのでした。
(ムーン・・・、彼女は一体何者なんだ・・・・。)
多彩な才能を感じさせるムーンに対して、僕は興味を持ち始めました。
それから冷や汗をかく、自分に対して・・・・。
「こら!練習をさぼるな!!」
サンダー・ライトコーチの怒声が容赦なく、飛んできたのでした。
「は、すいません!」
(悪いのは自分じゃないのになあ・・・。)
勿論、自分としてはこの状況は、納得していませんでした。
そして、再びチラッとフェンスの外に目をやると、ムーンは右目をつむって、舌をペロッと出していました。
その彼女の顔は、まさにテヘッと言っていました・・・。
(くっ・・・、くうっ・・・!)
ムーンは、全く悪びれのない態度でした。
少し悔しい自分なのですが、手元にある紙切れをみました。
============== ユキノ予選突破! 決勝トーナメント進出! ===========
「おお!!」
僕は、驚きの声を上げました。
「こら!!練習に集中しろ!!」
またしても、ボクは容赦ない怒声を背中に受けたのでした。
(どこよりも速いニュース・・・、その言葉に偽りは無し・・・・!)




