僕の誕生日
あのひとは、今どうしているのでしょうか…
お昼の休憩中、僕はテニスコートの近くのベンチに座って、考えに耽っていました。
あの女性から頂いた、真っ赤なカニのキーホルダーを眺めていると、故郷の国を思い出してきました。
===========あれは僕の誕生日でした==================
それは八月の上旬ー。
ボクはまだ、そのとき日本にいました。
残り少ない日本での生活を、自分としてはあまり実感できずにいました。
そして仕事の後、最近毎日通っているところに、足を運んだのでした。
いつも通りにドアを開けました。
しかし・・・・・。
(あれ・・・・?)
いません・・・!
あのひとの姿が、見えないのでした。
(トイレでも行っているのかな・・・。)
仕方なく僕は、とりあえず待っていることにしました。
ところがその静寂は、永くは持たなかったのでした。
=============== バアーーー!!!!!!! ===============
「どわあああ!!!!!!!!!!!!」
背後からの不意打ちに、ボクは遠慮無く、驚きの声を上げてしまいました。
「あっははは!」
パジャマ姿の女性は、お腹を両手で押さえて、大きく口を開けて笑っていました。
「驚かさないでくださいよ!
紅葉さん!」
彼女のふざけた行為に、自分としては慣れていたつもりでしたが、まだ十分に理解しきっていなかったのかも知れません。
「このパジャマ可愛いでしょ。」
紅葉さんは、右手で襟をピラピラさせていました。
それにしても彼女には、全く悪びれた様子が感じられません。
(くっ、本当に紅葉さんは病人なんだろうか?
しかも完全に、胸元が見えているし・・・・・。)
「う、うーん。」
紅葉さんは右目をつぶって、ちょっとだけ顔を横に背けました。
「へ?」
僕は彼女に取っている態度が、今ひとつ理解しかねていました。
「あんまり見つめないでよー。
はずかしいわよー。」
(は?
何を言っているんだ、この人は・・・。)
唐突によく分からない台詞を出されて、自分としては、どの様に対処したら良いのか答えは窮しました。
ボクは紅葉さんに対して、特に相づちを打ちませんでした。
「んー・・・・。」
なんか彼女はまだ、不自然な様子でした。
「どうしたんですか?
紅葉さん?」
そこで僕は我慢できずに、彼女から何かを聞き出そうと試みたのです。
「だって巳波くんが、ずっとアタシの胸を見つめているんだもん・・・。」
============ !!!!!!!!!!!!!!!!!! ============
「そっ!
それは大きな誤解ですよ!
紅葉さん!!」
全く自分が意図していない事なので、誤解を解こうと慌ててしまいました。
そしてボクは、さらに言葉を続けました。
「だって、紅葉さんは大きいから!」
「え!?」
なんと紅葉さんは、若干僕に対して横気味になり、胸を両手で押さえました。
しかも慌てた表情で、ちょっと顔が紅葉色なっているように見えます。
「ちっ、違いますよ!
紅葉さん!
紅葉さんの背が高いから、僕の視線がこの高さになっていると言うことなんですよ!!」
ボクは彼女に対して思う限り、分かるように説明したつもりでした。
その結果・・・・・
「そうかあ・・・・。
巳波君は、アタシのおっぱいに、見とれていたんじゃないんだね・・・・。」
「いや、まあ仕方なく見ていたというか・・・。」
うっかりした僕は、言葉を選び間違ってしまいました。
「え・・・・・・。」
そこで、紅葉さんの言葉が詰まりました。
「いや、だから・・・、嫌らしい目で見てた訳じゃないって意味で・・・。」
焦ったボクは、即言葉を付け加えました。
そして、彼女はうつむいて黙り込んでいました。
(ま・・・・、まずいぞ・・・。)
紅葉さんの性格を有る程度わかってきていたボクは、危機感を覚えていました。
そして自分の思いつく限りの、なりふり構わない台詞を吐いたのでした。
「いや、とってもラッキーでしたよ!
紅葉さん!!」
何故か自分は、彼女に向けて親指を立てて、引きつった作り笑い(?)をしていました。
気がつけば、我ながら後戻りの出来ない表現を使用していたのでした。
「ふ、ふーん・・・。
そうなの・・・・・。」
僕の言葉に反応した紅葉さんは、ガバッと顔を上げていました。
そしてサラサラの髪を右手でなでて、照れ気味の表情を見せていたのです。
「ま、まあ110話は、サービス回らしいからねー。」
言葉の意味はよく分からないのですが、とにかく彼女は、まんざらでもない様子でした。
「ふうっ・・・」
今度は紅葉さんは、まるで暑さを和らげているかの如く、両手で両襟をパタパタとさせていました。
(ああ・・・、そんなにさせたら・・・みえちゃう・・・・・。)
それでもそんな彼女から、ボクは安心感を与えられていたのでした。
(な、なんとか上手く切り抜けられたな・・・。)
「今日は巳波君の誕生日だよね。」
そして紅葉さんは、気を取り直した様に、堂々と胸・・・を張っていたのです。
「は、はあ・・・・。」
彼女の切り替わりの早さに、僕はついて行きかねていました。
「これあげる。」
紅葉さんは、僕の様子など全く気に留めていない感じです。
いつどこから仕入れたのか、彼女はボクにプレゼントリボンをつけた箱を手渡してきました。
「こ、これは・・・・。」
「お誕生日のプレゼントだよ!」
紅葉さんは、とてもテンションが高かったのでした。
「あ、ありがとうございます。」
ボクは軽くお辞儀をして、彼女に対して感謝の意を伝えたのです。
「知りたい?」
「え?」
紅葉さんは、ズイっと僕に顔を近づけてきました。
「中身だよ!」
「え、そりゃあまあ・・・。」
とりあえず、相づちを打ったのですが・・・。
「うーん・・・。
教えようかなー・・・・・?」
そう言いながら、紅葉さんは右手で胸のあたりを、左手で腰のあたりをさすって、怪しげな表情をうかべていたのでした。
「な、なな、何をしてるんですか!?」
彼女の行動に、ボクは大あわてでした。
「だって知りたいんだよね?
アタシのナ・カ・ミッ!」
================ !!!!!!!!!!!!! ================
「何を言ってるんですか!!
これ、これの事でしょう!!」
僕は持っている、プレゼントをガシッと掴み直して、紅葉さんの眼前に差し出していました。
「だって、110回記念なんだもーん!
サービス回なんだもーん!」
なんと紅葉さんは、パジャマのボタンを外そうとしていました。
「な、何をやっているんですか!?
それに110回って、その微妙な数え方は何なんですか!?」
ボクは焦りと、驚きと、怒りと・・・、喜び・・・が入り交じった、叫びに近い言葉を出していました。
「アハハッ!
冗談だよ!」
ニッコリ笑った紅葉さんは、ポンッと僕の肩を叩いてきたのでした。
・・・・・ボクはホッと安心したのと、また別の心で・・・、複雑な気持ちでした。
「これだよー!!」
「えっ?」
なんと紅葉さんは、勝手に中身を取り出していたのでした。
「ね、ここで着てよ!」
「ええっ!!」
「サービス!
サービス!
110回記念!!」
(なんか紅葉さんに、そんな言い方をされると恥ずかしいなあ・・・・。)
そして僕はプレゼントを、身につけたのでした。
「似合うよ!
試合にも使えるよ、これ!」
「は、はい。」
紅葉さんが僕にくれた誕生日プレゼントは、白いポロシャツでした。
しかし、普段なら抵抗ないのですが、この雰囲気でシャツを着替えるのは恥ずかしい気分でした。
そして、彼女をしばらくの会話をしてから、無事(?)にボクは病室から出ました。
(そう言えば紅葉さんは、当たり前のように、僕の誕生日を知っていたなあ・・・。)




