ひとめぼれ
バスの窓際に座っていた。
ゆさっ
バスは乱暴に車線を変更して、一台の車を追い抜かす。
珍しい。追い抜かされた車は制限速度に抑えて走っているようだった。中には白いファーを付けたツンとした女性がいた。
「初心者マークが付いていなかったな。」
となりに座っている恋人未満、友達以上の関係の子に言った。
「変な人だね。危ないよね。」
「うん。左側で走ればいいのにね。」
美奈子は何か思いだしたかのように言葉を繋げる。
「ねえねえ、それよりさ。この前のテレビで.......」
会話に対して適当にうなずきながら今さっきの女性を想像する。
きっと性格は優しくはないだろう。そして自分に対しても一定の厳しさを持っているはずだ。会話は最初は固くて、段々と柔らかくなっていく感じだろうか。それとも初めから話しやすいのか。喋ってみたい。笑ってる姿が見たい。心の安息を保てれる同士になれるかもしれない。
惹かれる。もし、誰かの女性であるなら素直に落胆する。これは恋だろう。恋だが、その男性にも興味がある。あのような人と一緒に居れるのだ。何かしらの共通が見つかるんじゃないかと思える。自分の意図や人生観を変える出会いになるかもしれない。
トントン
「ねえ、啓太。そろそろ降りるよ。」
「うん。ああ。そうだな。」
バスから降りて少し歩いて駅で解散する。財布を覗いてみると、もろもろの必要経費を除いて2000円程度しかない。それが増える見込みはこれからもない。
わたしは大学生だ。それもアルバイトも行わない。交通費以外のおこづかいを貰うこともない。実家生だからだ。
人によっては働いて好きにお金を使って遊べばいいのにと言う人いるだろう。それは既にした。1年と少しをそれに費やした。けれど、自分の中には何も無かった。好きに曲を作って歌を歌っているときの方が楽しい。
2年後には廃棄するだろう、使い勝手の悪い自転車に乗る。暇でありながら貴重な時間を消費して帰路につく。
いつまで、このループの中に居なくてはならないのだろう。ループの抜け方は知っている。だけど、それを行うには時間と知識と運を信じなくてはならない。結局は宗教やパチンコと似たようなものだ。