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5-18

前回はお休み頂きすみませんでした。m(__)m

「で? その魔術師団の団長様はどこに居るんだ?」


 私の後ろからニャスビィシュが声をかけながら追いかけてくる。

 

「一応基地内に居るのだが、正直かなり地下深くに居てな。会いに行くだけでも面倒な場所なんだ」


「それはまた、偏屈な奴なのか?」


「いや、まぁ、なんだ。変わっているのだが、変わり方が明後日の方向に言っていてな……」


 私がそう言い澱むと、彼は「要領を得ない、ハッキリ言え」と急かしてきた。


「まぁまず彼の固有能力だが、催眠なんだ」


「催眠? それはまた微妙な魔術の使い手だな。炎とか氷とかみたいな派手なのじゃないのか? 師団長ってのは」


「うむ、確かにそうだ。そうなんだが、その催眠がかなり強力で、特殊なんだよ」


 そう、彼の能力は、指向性のある遠隔催眠術だ。

 離れる距離は約100m~500mほど。

 個人を判別できる程度に見える距離であれば、問題なく催眠をかけられる。


「それはまた、とんでもない能力だな」


「あぁ、かなり特殊な力だが、そのリスクも大きいのだ」


「リスク? 普通魔術のリスクは、魔力の枯渇くらいだろ?」


「確かに一般的な魔術師はそうだし、彼の魔術もその問題は付きまとうが、それ以上のリスクだ」


 彼の魔術のリスクは、簡単に言うなら、精神汚染である。

 自分の自我よりも強い者に術をかけた場合、術者が負けて精神崩壊を起こす可能性があるのだ。


 ただ、精神的に弱い者に使えば良いし、別段精神的に弱くなくても肉体的に弱ければ大丈夫なのだ。


「それはまた、かなり大きなリスクだな」


「かなり大きいのだが、それを彼はある特殊な方法で精神崩壊しないですむようにしたんだ」


 そこまで話すと、彼の部屋の前に到着した。


「それが、このバカでかい扉なのか?」


 私たちの目の前には、高さ約3メートルの巨大な扉がそびえたっていた。


「あぁ、これは外の音を遮断するための扉でな。中は空気穴以外は全く穴が無い」


「こんな場所で食事なんてどうするんだ?」


「食事は一日2回、守衛の者が届け、外で食べて部屋に戻っていく。音も光もない部屋で彼は一人延々と引き籠る事で精神を鍛えているんだ」


 私がそこまで言うと、体格の良い守衛の3人が扉に手を当てて押し開けた。

 扉はゆっくりと軋みを上げながら開ききると、部屋の中央に座した男が見えた。


「ハインツ、仕事だ。出てきてくれ」


 私がそう呼びかけると、ハインツはゆっくりとこちらを見て一言返してきた。


「……いやだ。私はこの部屋から出たくない」


「…………」


 私たち3人の間に沈黙が流れる。

 私は、この気まずい空気を少しでも払拭すべく交渉を試みた。


「何を馬鹿な事を言ってるんだ? 仕事がある時は出てくる約束だったじゃないか?」


「いやだ、太陽は私の敵だ。私はこの部屋で一生を過ごすんだ」


「……なぁ、ボリス。本当にこいつ強いのか?」


 私とハインツのやり取りに、呆れた様子でニャスビィシュが声をかけてきた。

 その声が聞こえたのか、ハインツは目を吊り上げて、ニャスビィシュを睨みつけている。


「精神操作系の魔術師は、貴重だし強い。そして、彼自身は精神を鍛え、相手よりも確実に上に行かねばならないから、常人なら1瞬でも入るのを躊躇する無の世界で暮らしているんだ、だから、その、人よりもこだわりが強いだけな、はず?」


 どうにか弁護しようと言っているものの、私自身が自分の言葉に疑問を持ってきてしまった。

 ただ、事実ではあるのだ。

 

「はぁ、わかった。ボリス、依頼はなんだ? そこの不届き者の為にも一肌脱いでやろう」


「おぉ、そうか。依頼内容だが――」


 それから私は、彼にアニエスの細かな状況と、ニャスビィシュの知っている彼女の様子を伝え、現在の状況も伝えた。


「――なるほど、要するに彼女の精神に何者かの術が入り込んでいる、と仮定されるのだな?」


「あぁ、その通りだ。そして、それをハインツ、君の手で開放してほしい」


「わかった。どれくらいの精神系魔術か知らんが、泥船に乗った気で居てくれ」


「…………」


 こいつ、最悪逃げる気じゃないだろうな?


 私とニャスビィシュの心の声が重なった様な気がしたが、気にしても仕方ないので、とりあえず作戦について話し合う事にした。


「で、その泥船だか、ボロ船としては、どんな作戦がある?」


「は? 今すぐ作戦なんてあるわけないだろ?」


「なっ! てめぇ今さっき広げた風呂敷をもうたたむ気か!?」


 ニャスビィシュとハインツがぎゃあぎゃあと言い合っている横から、私は思った事を口に出した。


「それは、情報が足りないからか?」


「ん? あぁ、その通りだ。流石はボリスだな。どっかの筋肉馬鹿より柔軟な思考をしている」


「けっ! それならそうと言いやがれってんだ」


 それから私たちは、彼に対して知りうる限りの情報を提供した。

 彼女の現在の様子と昨夜の様子。

 そして、これまでの彼女の略歴に癖、性格などありとあらゆる知る限りの情報をだ。


「……なるほど。それは確かに、協力している状態すら怪しいものがあるな」


「協力している状態すら怪しいという事は、昼間も操られていると?」


「まぁ聞く限りの様子から考えるなら、完全には操られていないだろう。というよりも操り切れていないから、夜に報告させていると考えて良い」


「それはどういう事だ?」


 私たちが質問すると、彼は少し考えてからおもむろに説明を始めた。


「そうだな、例えば、湖を汚そうとしたら、少々の血やゴミでは無理だろ? それこそ莫大な量の血やゴミが必要になる。これは自我の強い人間に精神系魔術を使う時にも言える事なんだ。人の心と言うのは湖よりも広く、大河の様に流れている。そこに多少の汚れがあった所で、すぐに浄化され消えてしまう」


「そうなると、お前ら精神系魔術の使い手は用なしになるんじゃないのか?」


「うむ、確かにそのままならな。だが、別に人を操るのに全てを変える必要は無い。簡単な認識錯誤を植え付けてやれば良いのだ」


「簡単な認識錯誤、とはどういったものだろう?」


「そうだな、好きなものを嫌いや嫌いなものを好きと勘違いさせるのは、意外と簡単でな。例えば、野菜嫌いの子供に肉で覆った野菜料理を出すと、高確率で食べるだろ? あれと一緒だ。あれは、野菜=嫌いを肉=好きで覆い隠しただけなんだ」


 彼の話を要約すると、要は気持ちの問題という事らしい。

 嫌いなものも、好きなものもその認識を変えるだけで対応が変わるのだ。


「となると、アニエスにかかっているのは、どんな命令だと考えている?」


「そうさな、その人にかかっているのは、恐らく前国王への思いだろう。嫌悪を敬愛に変換して、睡眠時に自動発動する魔術式を体内に埋め込んで、動かす。と言ったところかな?」


「それは解除できるのか?」


 私とニャスビィシュの問いに、彼は少し瞑目して考えながら答えた。


「正直どのレベルかにもよる。私の使う精神系魔術は、正直かなりレアな力だ。その為魔術師の間でレベル差も激しく、顕著に表れる。相手のレベルが高ければ、確実に解除する事は約束できない」


 そう言うと、彼はどうする? とばかりに私たちの方をジッと見てきた。


「それでも、アニエスを開放できるなら頼むしか無かろう。政敵とは言え、元は同じ国の民であり、王国軍に所属していたのだ。せめて生き恥だけは晒させてやりたくないからな」


「ハインツ、私からも頼む。これ以上彼女を放置するわけにはいかない。それが、例え彼女が我が軍を抜けようともだ」


 それから、私たちは細かい作戦内容を詰めていくのだった。


作品の更新情報なども活動報告 (以下割烹)に乗せておりますので、もし今後更新どうなった? と言うことがありましたら、割烹をご覧ください。


では、今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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