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5-16

元ニュールンベルク首都 サントス ボリス


 アニエスが来て、1週間。

 彼女の動向を探っているが、特段おかしな素振りを見せる様子はない。

 もちろん、彼女が来てから報告事項はマルボルク伯のみに報告し、彼女が聞いていない所で個別に話し合いをしている。

 それもこれも、初めて会ったあの日、ニャスビィシュと話した内容が頭にあるからだ。


「ニャスビィシュ殿、気になる事がお互いあるようだが、貴方は何を気にしておられる?」


「知れた事、アニエスの事だ。お前だって怪しいと思ったから報告を止めたのだろう?」


 流石は、名将と言われるだけある。

 武勇一辺倒に見えて、その辺の勘はしっかりとしている様だ。


「えぇ、私も彼女についておかしいと感じました。ただ、その違和感が何かわからず、貴方と話しているのです。貴方が感じた違和感を教えてもらえませんか?」


 私がそう言うと、彼はおもむろに話し始めた。


「ボリス、我が祖国がつい先日内戦を行ったと君は言っていたね?」


「えぇ、私たちが帝国の相手をしている間、恐らく帝国の間者によって引き起こされたものですね」


「そうだ。そして、その内戦は王女派と王弟派という2つの勢力による争いだったのも事実だな?」


「えぇ、それは間違いないでしょう。内戦に関わっていた人物や諜報員全員が証言していましたので」


 これまでの事から推測して、我が国の諜報部が出した答えだ。

 当時指揮していた人物と会って、直接聞いていないものの、信頼に足る人だし、何よりも嘘を吐くメリットがない。


 そして、ハイデルベルク国を2つに分ける事で得をするのは、帝国だけ。

 そこから考えれば、帝国の介入があったと考えるのが自然だろう。


「そうか、ならアニエスは敵の間諜の疑いが強い」


「その理由をお聞かせ頂けますか?」


「理由は単純だ。彼女は〝王弟派〟だからだ」


「な!? 彼女は王家筆頭の魔術師では無いのですか?」


「あぁ、確かに彼女は王家筆頭魔術師で、王国軍の魔術師団団長だ。だが、同時に王弟派の筆頭でもあるんだ」


 どういうことだ? 普通側近などは自勢力で固めるのが一般的で、他勢力の人間を近づけるメリットなど無い。

 ましてや、魔術師は側仕えするものだ。

 それを他勢力に任せるなど。


「そう、思うだろうな。ただこれは、国王にもう1つの切り札があったからこその人事だったんだ」


「もう1つの切り札?」


 私が尋ね返すと、彼は頷いてその切り札の名を告げた。


限定思考操作マインドコントロールだ。我が王は、魔術師限定で思考を操作する事ができるんだ」


「魔術師限定で思考操作できる? という事は、アニエスを裏切れなくしていた、という事ですか?」


 私の疑問に彼は頷きながら、続きを話し始めた。


「その通りだ。そして、その呪いとも呼べる術は、王の死、命令と行動の齟齬の2つのうちどちらかが行われる事で、解除される」


「王の死、命令と行動の齟齬……、はっ! そうなると今の彼女は王弟派の状態!?」


「あぁ、だから彼女の〝国王を殺され、仇を討たねばなりません〟は、明らかに矛盾しているんだ」


「なぜそれをあの場で言われないのですか!?」


 あまりにも衝撃的な事を言われた私は、大きな声を挙げてしまってから、その理由に思い到ったのだ。


「あの場で言えば、全員消し炭だ。彼女は炎魔術のエキスパートだ。私でも彼女が魔術を発動するまでに息の根を止められる保証は無かった。それに、隙を窺っていたが、全く見せてもくれなかったからな」


 彼はそう言うと、両手を挙げて降参のポーズをした。

 

 正直彼は、かなり強い。

 少なくとも、現在騎士団の指揮をとっている団長よりは数十倍は強いだろう。

 それが、敵わないというのだ。

 化け物の領域を通り越している、としか思えない。


「それに、まずは彼女を見極めなければな」


「見極める? どうやって見極めるというのですか? 彼女の事を知っているのは、貴方だけ。その貴方が彼女相手だと負けるという。どうやってそんな化け物を見極めるのですか?」


「まぁ、その点はお前に任せる。私は主に肉体労働をしていてな。頭脳労働は向いておらん。だからよろしく頼むわ」


「はぁ!? ここまで来て私に全てを丸投げする気か? 私はお前の様に腕っぷしに自身がある訳じゃないんだぞ!?」


「なに、そっちの方が、アニエスも油断する。それにつかず離れずでお前の事を俺が見守っている。だから安心しろ」


 彼は、そう満面の笑みで言っていた。

 

 全くもって、無理難題を持ってくる。

 私は私で忙しいというのに……。


 そう思いながらも彼女を見張る事を止めない私も私で、どうなのかと思うが。


「これは、ボリス殿。先ほどから私の方を見ておられるが、どうされたのですかな?」


「あぁ、その、あれです。ここにも馴染まれたかな? と心配して見ていただけですよ。ハハハ……」


 乾いた笑いも出るってもんだ。

 あまりむやみやたらに見ていると、彼女に勘付かれる。

 だからって見なければ、私には彼女が何をしているのか分からない。


 もうね、どうしたら良いんだろう。って感じですよ。


「それは、ご心配痛み入る。お陰様でどうにか馴染み始めております」


「そ、それは良かったです。アニエス殿は期待の新戦力ですからな。よろしく頼みますよ」


「それは、過分な評価ありがたい事です。期待に応えられる様にしましょう。おっと、そろそろ魔術師に稽古をつけねばなりませんので」


 彼女はそう言うと、サッと身をひるがえして去っていった。

 本当に様になるな。

 しかし、話してみると普通、いやむしろ好意的すぎるくらい丁寧だ。

 そして、あの対応は、疑惑を持ちにくい。

 私やニャスビィシュの思い違いだったのだろうか?

 

 私が1人悶々と悩んでいると、後ろから突然声をかけられた。


「甘い! 甘すぎるぞ! お主は」


「うわぁ! ってニャスビィシュ殿か。突然なんだ、後ろから叫んで」


「いやなに、主の悩みが見えるようでな。甘すぎると釘を刺したくなっただけだよ」


 彼はそう言い残して、私の元を去っていくのだった。


「はぁ、どうしろと言うのだ。まったく……」


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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