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5-15

 帝国との戦いの準備を進めるある日。

 エレーナが、嬉しそうに俺の元に新しい図面を持ってきた。

 

「これ! これ見てよ! 新作の兵器! これを造ればまた防衛力が増えるよ!」


 そう言って彼女が見せてきた図面は3つあった。

 1つは大砲。

 エレーナの話では、鉄砲を見て、構造を単純化しながら大きくしたらできたと言っていたが、そんな簡単に設計できるものではないと思う。


 なぜなら、大砲と鉄砲では耐久力に大きな違いがあるのだ。

 鉄砲は現代の自動小銃の様に何発も撃てない。

 それは、鉄が火薬の熱量に負けてしまうからだ。

 熱量に負けるとどうなるかというと、砲身が曲がり、弾が真直ぐ飛ばなくなってしまうのだ。


 もちろん現代の銃器でも同じことが起こるが、火縄銃と比べると耐久力は格段に上なのだ。


 そして、大砲はというと。

 使う火薬の量が多い事もあり、かなりの熱量が砲身を襲い、すぐに冷却しなければならなくなる。

 耐久性は、3発程度撃ったら一回休みくらいでないと、砲身が曲がる可能性が出てくる。

 この差はかなり大きいはずなのだが、エレーナの設計図では、使用する金属すら変えて持ってきたのだ。


「これ、これ! ここ見て! 砲身をね鉄鉱石から青銅にしたの。これなら鉄不足でもどうにかなるでしょ?」


「確かに砲身はこれでどうにかなるが、砲弾はどうするんだ? 火薬の爆発にある程度耐えられないと意味ないだろ?」


「砲弾については、これみて。これならいけると思うの」


 そう言って彼女が見せてきたのは、大きい器に小さい弾がいくつも入った、所謂ブドウ弾だ。

 歴史上の物と違う点と言えば、円柱形の形ではなく、球体だという事だろう。


「確かにこれなら外側だけを鉄にして、中身を別の物にしてしまえば、問題はないか……」


 確かに材料面での問題はカバーされているが、これはかなりの犠牲を強いるものになるのは間違いない。

 そう思いながらも、とりあえず俺は、大砲の案を受け取り、次の案を見てみた。

 

「こっちの案は、巨大機械式連続弓バリスタだよ。この兵器の特徴は、弓矢=1射だったのが、一回の射撃で5本の矢を飛ばせるんだ!」


 そう彼女が嬉しそうに見せてきたのは、所謂連弩だ。

 構造上あれと似ている、というよりあれその物だ。

 ちなみに、連弩は、中国で出来たバリスタ型の兵器で、三国時代にはすでに使われていた。

  

 それとほぼ同じ物の図面を彼女は嬉しそうに説明してくれている。

 確かにこれなら、巨大な杭を発射する様なものなので、弾さえ整えれば、どんな鎧だろうと関係なく突き破るだろう。


「うん、まぁ、その、1個だけ問題があるとすれば、〝大き過ぎる〟だろ。これ」


「……うん、それは考えながら思ったけど。ほら、こう言うじゃない? 〝大きいは正義〟って」


 うん、それを言うなら〝可愛いは正義〟だったと思うな。

 

 まぁ、そんな事をおいておいて、この兵器の難点はもう一つある。

 それは、矢が大きすぎるという事だ。

 少なくともそこいらの柵の杭ぐらいの太さが必要になってくるので、人一人で持てるかどうかの大きさなのだ。

 そして、これを運用するのは、柄の大きなおっさん……じゃなくて、比較的大柄な〝女性〟である。

 この世界の女性は、機械が無い分力強いが、ハッキリ言ってそれでもかなり厳しい大きさだ。

 

「これは、保留だな。運用方法を考える前に、矢の候補を考え直さないと作れない」


「うん! わかってた!」


「なら持ってくる前に考え直してくれ」


 そんなやり取りをしながら、最後の案を彼女が出してきた。


「最後は、これね。」


「これは……」


 彼女が出してきた図面には、見た事のある図面が出てきた。


「さっきの図面の間違いじゃないのか?」


「違うわ! 寸法を見直して、す・ん・ぽ・うを!」


 そう、先程の巨大機械式連続弓だったのだ。

 ただし、寸法が先ほどの5分の1。

 手持ちサイズになっているのだ。


「どう? この弓。弾込めしたら、誰でも簡単に威力のある矢を連続で5本まで撃てるすぐれものなんだよ」


「確かに、だがこれ、実際に作れるのか?」


 俺の疑問は色々あるが、中でも製造上の疑問が大きかった。

 その理由は、弩とは一つの矢を勢いよく飛ばすもので、連弩は大きさがあるが故に何本も一気に飛ばせるのだ。

 難しい話をすると、形が大きくなる事で張力が比例して大きくなり、その結果発射される矢の初速が速くなる。

 そうする事で、弩は簡単に強弓を射れる様になるのだ。

 だが、その連弩の良さでもある大きさを小さくしては、正直あまり意味がない。


 大きさが小さくなれば、張力は落ち、1~2本の矢を発射するのが精一杯になってしまうのだ。


「確かに弦を引く力は弱くなるけど、その点は大丈夫。材料にこだわったからね」


 そう言われて、俺が再び図面に視線を戻すと、材料には牛蜘蛛の糸、デビルウッドの幹と書いてあった。

 

「…………こんな魔物、近くに居たっけ?」


「……まぁ、その、2国くらい西に行ったら居たと思うよ?」


 それ、材料手に入らないんじゃないか?

 俺が疑問の表情をしていると、彼女は慌てたように付け足しの説明を始めた。


「で、でもね。ほら、ドローネだっけ? あなたの奥さんが商人でしょ? 取り寄せとかできないのかな?」


「ドローナ、だ。……それはいくら何でも難しいんじゃないか? ゴブリンとか低級の魔物ならいざ知らず、牛蜘蛛にデビルウッドがそんなに安いとは思えないのだが……」


「と、とりあえず、見積もり出してみてよ。できたら絶対に便利だから」


 まぁ、確かに連弩が出来ればかなり助かるし、小型化できるならそれはかなり嬉しい。


「まぁ、見積もりだけなら、出してみるよ。それよりも、1つの矢を発射する弩を開発してくれないか?」


「う、うん。そっちは任せて。だから、絶対に見積もり出してよ? 絶対だよ? 私絶対にこれ作りたいんだからね?」


 うん、最後に願望を言いやがったな。

 まぁ、そんな事だろうとは思っていたが、これで防衛力が上がるなら、万歳と言ったところか。


 その後、ドローナに見積もりを出してもらうと、とてもじゃないが出せない金額が出てきた。

 どれくらいかって? 軽くうちの規模の城が2つは作れるくらいだった。

 お陰で、連弩小型化計画は開発のかの字も無く、構想段階でとん挫するのだった。



「まぁ、大型連弩と、大砲が出来そうだからそれで良しとしようかな?」


「どちらも、財政的にはかなりの痛手ですけどね」


 俺の横で、眉間にしわを寄せたコーナーが仁王立ちしていたのは、ご愛敬だ。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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