5-13
城は山の中腹で築城している。
所謂山城だ。
平城や平山城を作りたかったのだが、立地を考えた結果、山城にした。
交通の便が多少悪いものの、金銭的にもそこまでかからないので、丁度良い。
平城や平山城は、確かに近世城郭として交通の要所などに沢山作られたが、あれは金がかかり過ぎるのが難点だ。
特に平城は、山城と同程度の防衛力を持たせるために、幾重にも堀を造り、水を流し、石垣をできる限り高くしなければならない。
そんな事をしていたら、うちの財政では一瞬で破綻するだろう。
ちなみに平山城は少し悩んだ。
山城よりは費用がかかるが、今後の発展を考えると、欲しい所だった。
だが、平山城に適した地形が少なく、城としてはかなり小規模にならざるを得ない現状があったので、泣く泣く山城に決定したのだ。
俺は、現場監督をしているマルコの所へアンドレアと行った。
「ロイドさん、私が造った土台を、縦に掘って造っている筋は何ですか?」
「あぁ、これは竪堀という防衛施設で、敵を一直線に並ばせる効果がある」
「一直線に……。なるほど、鉄砲隊を有効活用するのですね」
流石はアンドレア、効果を説明しただけで何が一番役に立つかすぐに理解したな。
「石垣については、もう知っているな?」
「えぇ、私の方で土台を造って土を固めましたからね」
石垣の積み方は色々あるが、作り方は一つだけだ。
土台を造ってその前に石を積み上げ、土を被せて固める。
この作業のうち、アンドレアには土台作りと、固める作業を行ってもらった。
ちなみに土台には、食物繊維を含んだ土にしてある。
これは、ヘドロに食物繊維を混ぜると固くなるという理論を土にも期待して行った事だ。
もっとも、アンドレアの水魔術で、土の水分をしっかりと抜いているのが、固くなった一番の理由だろうけど。
「とりあえず、後は城壁の部分だな」
現在の工事は、基礎工事である。
今後、この上に二層天守を建て、城壁を造り、櫓などを設置する予定だ。
なぜ、三層天守が無いのかと言うと、金が足りないからだ。
本当なら連立式という櫓がグルッと城壁を囲って、三層天守や四層天守がそびえたつ城を造りたかったのだが。
三層、四層になるとお金も三倍、四倍と増えてしまい、とてもじゃないけど作れる額では無かったのだ。
その為、泣く泣く三層以上を諦め、最低限度の2層天守にした。
そのお陰で、完成予想図では、グルッと櫓が囲っているだけにしか見えないなんとも言えない城になってしまっている。
「おう! 村長! タテボリ、だっけ? もう少しかかりそうだわ。あと、石垣は完成してるから見てってくれ」
俺達が近づいてくるのが見えると、村時代からの棟梁であるマルコが声をかけてきた。
彼の中では相変わらず俺は村長らしい。
まぁ、疎遠になるよりもよっぽどマシだし、変わらず接してくれるのは、ありがたいと思っている。
「相変わらず威勢が良いな。案内を頼むよ」
「おう! 任しとけ!」
彼の案内で、石垣の視察を開始した。
石垣については、切込み接ぎの乱積みになっている。
「うん、綺麗に隙間なくいけているみたいだね。角も出ているし、算木になっている。流石は棟梁だな」
「おう! ちゃんとできていたなら良かったぜ。エリシアの嬢ちゃんが送ってくれた奴が石の再加工を手伝ってくれたからな!」
うん、マルコは長さとか感覚だからな。
しっかりと計算しなきゃいけない石垣積みは、技術者の方が得意だったのだろう。
「それじゃ、この調子で作り続けてくれ」
俺はそう言うと、城建設地をあとにした。
次の視察地は、銃器工場だ。
と言っても、鉄製部品を造る所、銃床を造る所、組み立てる所と3か所に分かれている。
これは、それぞれの工程が見えないようにする事で、情報漏洩がしにくい形をとっているのだ。
まぁ、かなり効率の悪い方法だが、致し方ない。
「このように鉄器の工場で筒を造って、水車でライフリングをしております。エレーナさんが作ってくれたこの回転式の掘削機のお陰でかなり楽になりましたよ」
工場の人間がそう言って案内をしていると、アンドレアは、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな微妙な表情をしていた。
まぁ、そのなんだ。
夫婦仲が良くて俺は安心だよ。
「で、こちらが火薬精製所となっております。備蓄量ですが、順調に増えております。また、材料についても分からないように生木を工場に入れてから裏の山で炭にして硝石と共に運び込んでいます」
「くれぐれもこの施設だけは敵の間諜が入り込まないようにしてくれ。工場内の人間もしっかりと身元の分かる者たちだろうな?」
「はい、工場内の従業員は全員身元保証人の居る者たちで、その保証人も第二次流民までに入村した者たちが保証人です」
第二次流民とは、階級ではなくいつ来たのかが分かるように戸籍に書かれている呼び方だ。
ちなみに、最初から居た人たちは、何も書かれておらず、飢饉の初期に流れてきた人たちが第一、飢饉終盤で流れてきた人たちが第二、その後は第三で、先の戦争で下ってきたニュールンベルク兵は、一応戸籍上登録されているが、亡命と書かれている。
それは、彼らの大半が母国に戻る事を夢見ているので、いつか戻れる日が来たら、戸籍を破棄して母国に戻ってもらう為だ。
そして、第二までを信用している理由だが、第二までは元々の村民と繋がりのある人が多いのだ。
血縁とは、それだけで信頼に値するものなのだ。
「では、今後も増産に励んでくれ。敵は必ずここを狙ってくるから気を付けてくれよ」
「はい!」
仕事次第だと思いますが。
多分、次回遅れると思います。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m