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5-12

 次の日、間諜の男の処刑が準備された場所で行われる。

 場所は、城柵を造った堀の前で、堀の水に血が入らないように囲いもつくってある。

 そして、男は猿轡を外されており、十字架にはりつけられている。

 手足が縛られて動かない彼は、先程から呪詛の言葉を何度も叫んでいた。


「貴様ら! こんなことをしてただで済むと思うな! 我らが皇帝陛下の怒りを買えばどうなるか!」


 そんな男の様子を民衆は、この国始まって以来初の処刑が行われるという事もあり、手の空いている者は、皆集まっていた。

 俺はそんな群衆を前に事前に用意していた演説を始めた。


「この者は、帝国の間者である。この者がした事は、みんなも聞いた事のあるあの噂を流した事だ。その噂とは、俺が帝国に身売りし、自分の生命の安全を確保したというものだ。だが! それは断じて違う! 俺はこの国を守る唯一の方法は、ハイデルベルクと……、エリシア女王と手を取り合っていく意外に無いと考えている! それはこれからも変わる事は無い! その意思を示す意味も込めて、この者をここで処刑する! これが意味するのは、帝国への徹底抗戦の意思を示す事だ!」


 俺がそこまで言い切ると、民衆がワッと沸き上がった。

 恐らくかなり不安があったのだろう。

 ここで帝国に入るのか、ハイデルベルクと組んだまま残るのかで国を2つに分裂させかねない状況でもあったからだ。


「みんなにはこれから大変な事に巻き込むと思う! だが、力を合わせてこの困難を乗り切れば、俺たちの自由を侵す奴は居なくなる! 今こそ一つになり、最後まで徹底的に戦おう!」


「ロイド! ロイド! ロイド!」


 俺の名前を民衆が唱和し始めた。

 うん、まるで独裁者だな。

 ちなみに言い始めたのは、サクラだ。

 この辺の演出は、コーナーが昨晩考え指示をしていたのを見てしまったのだ。


「では、これからこの男の処刑を行う! 執行人! 刑を執行せよ!」


 俺の宣言と同時に、両脇に控えていた槍を持った兵が男の両脇を刺し、心の臓まで突き刺し処刑を完了させた。

 それを見ていた民衆は、ある者は息を飲み、ある者は目をそらし、ある者は狂気を目に宿していた。


 これで、帝国とは完全に交渉の余地を絶った事になる。

 少し早計だったかもしれないが、噂の対処を早くしないと内部分裂を起こしかねない状況だったから、致し方ないとしか言えない。

 なにせ、この国の約半分が元ニュールンベルクの人間なのだ。

 彼らにしたら帝国は憎き仇である。

 それと一緒になるなど考えられないのだ。

 だが、元々の国民は今の暮らしが保証されれば、正直どっちでも良いのだ。

 この考え方の差をできるだけ早く一個の方向にもって行かねば、国が空中分解する未来しか見えなかった。


「さて、これで暫く大丈夫かな?」


「そうですな、後は間諜がどれだけ潜んでいるか、ですな。正直彼が知らされていないだけかもしれませんからな」


 そう俺の横から爺さんが助言してきた。

 まぁ、その辺は仕方ないだろう。

 敵も馬鹿ではない。

 スケープゴートを用意している可能性もある。

 ただ、向うから手を出してこない限りは、基本的に防御しかできないので放置するしかない。


「あぁ、それとロイド様、帝国へ向かう街道沿いに諜報員を配置してよろしいですか? こちらの情報漏洩を少しでも防ぎたいので」


「わかった、御用商人であるスフォルツァ商会とその顔なじみの商人には、暫く帝国に近づかないように通達しておこう」


「後は、戸籍登録している国民の皆さんもですな。万が一通って消されでもしたら大変ですからな」


 サラッとこの爺さんは怖い事を言ってくれる。

 まぁ、そのお陰で敵が知りたがっている鉄砲と火薬の生成方の機密を守れているのだ。

 暫くは、爺さんに頼まざるを得ない。

 いつかこちらの諜報機関が作れるだけの規模になったら、だな。


 俺と爺さんが処刑場の近くでそんな会話をしていると、コーナーが早速紙束を持ってやってきた。

 

「さ、一大イベントも終わったので政務の時間です。決済案件が大量にあるので早く戻ってきてください。あ、あとこれは、至急の案件ですので、戻る間に目を通してくださいね」


 こいつの切り替えの早さは何と言うか、流石だな。

 しかし、帝国が来る前に俺が忙殺されかねない量の仕事になってきた。


「なぁ、コーナー。いい加減官吏を増やしてくれないか? 俺とお前の二人では正直無理が来ている」


「それは、今案件を練っている所ですからお待ちください。機密が多すぎて滅多な人を雇えないんですよ」


 確かに俺の知識とかやっている事って、殆ど機密扱いになっているもんな。


「それよりも、念願の城と防衛施設の増強についてですが、予算ができ始めたので再開しますので、再度計画を考えてください」


「おぉ! それは嬉しいな。頑張って政務を終わらせて考えないとな」


 俺はそう言うと、手渡された書類を見ながら政務室に戻るのだった。




 数週間後、城と防衛施設の計画を再度練り直す事ができたので、工事を再開した。


 外堀については、延長しようかと考えたが、止める事にした。

 理由としては、これ以上伸ばしてしまうと、主要街道が使いにくくなるという問題が発生するからだ。

 流石に前の道が使いにくくなっては、流通の面で打撃を受けるので没案となった。

 そこで考え直したのが、土塁の内側を作り直すという方法だ。

 土塁の内側は、現在平たんな場所になっていて、街も迫っていないので、これを少し作り直そうと考えている。

 土塁の内側にさらに土塁を張り巡らすのだ。

 土塁は、左右はそれぞれ分離しているものの、堀の近くの土塁から地続きとなっており、中は最初真直ぐだが、魔術師が各所に土魔術で壁を作ると、迷路のように入り乱れる作りになっている。


「しかし、これだけの土をどこから持ってきたのですか? 魔術では無から有は出ませんよ」


 そう、魔術は無から有を生み出す事はできないのだ。

 火であれば、空気中のリンを集めそれを核として、原子をぶつけて熱量を作り出して日のボールとする。

 水であれば、空気中の水素を集めて、形態を維持させながら相手にぶつける。

 雷は、空気中の静電気と言う風にアンドレアの魔術は、実は元素を用いているのが最近やっと理解できてきた。

 なぜここまで理解に時間がかかったかと言うと、彼は原子を〝魔素(マナ)〟として理解しており、説明もかなり抽象的だったのだ。

 そのうえ、俺は文社系の人間だったので、理数系の知識がほとんどなかったのも理解を遅らせるのに拍車をかけていた。


 なので、材料が無ければ魔術は使えないのだ。

 特にそれが顕著に表れるのが、この土魔術だ。

 なにせ、材料が無限にある火、水、雷とは違い、有限なのだ。


「土は、城の建造で出た土砂を流用しているからな。特に城には城で堀切に竪堀を造っているからな、土砂が大量に余って仕方ないんだ」

 

 そして、余った土砂はその都度持って降り、この外堀の土塁制作に使っている。


 ちなみに、堀切とは人口の谷で、竪堀とは、敵を強制的に直線に並ばせる仕掛けだ。

 どちらも山城特有の攻めにくく、こちらが守りやすくなる防衛施設だ。

 

「で、この迷路に出口はあるのですか?」


「ん? そんなもの作ってるわけないじゃないか。お前が閉じたら最後、穴掘って土塁壊さない限り出れないようにしてある」


「それはまた、底意地の悪い仕掛けですね」


「まぁ、戦争なんて相手にいかに消耗を強いるか、という戦いの積み重ねだからな」


 そんな事を話しながら俺は、外堀の視察を続けた。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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