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5-9

「それで、噂の出どころの目星はついたか?」


 俺は報告を持ってきた自警団長のバリスに話をふると、彼は肩をすくめながら話し始めた。


「残念ながら、噂の出どころは全く分かっていません。ただやはり気になるのは――」

「ハリスの言っていた幽霊か?」


「えぇ、それが一番怪しいと私は思っています」


 やはりそこか……、まぁ何かしらの陰謀が働いているのは理解できる。

 あとは、それがハイデルベルクなのか帝国なのかという所だ。

 ハイデルベルクだとするなら、王弟側に居た貴族たちだろう。

 彼らは領地の削減をされ、今また帝国との戦いでかなり疲弊している。

 俺の国が手に入れば自分たちが恩恵にあずかれると思って短絡的な行動に出てもおかしくない。

 

 逆に帝国の場合は、ハイデルベルクとの仲を裂いてくる離間の計と言った所だ。

 俺が帝国側に寝返るか、帝国に中立宣言を出させる為と言うのが濃厚な線になる。

 

「ただな~、どっちもありそうだから困るんだよな」


「確かに、どちらにも恨みは買っていそうですからね」


「まぁ、悩んでも仕方ない。とりあえずその幽霊騒ぎを起こしている奴を捕まえてくれ」


「捕まえてくれ、は良いのですがどうやって捕まえましょう?」


 まぁ、確かに幽霊なんてどうやって捕まえるんだって話だろう。

 だが、この幽霊が他国の間者の可能性が高い。

 

「諜報部に援軍を要請して街の中を見張らせる。後は街の各店舗の家主に情報提供を呼び掛けてくれ、犯人逮捕に一番有効だった証言に賞金を出すと言えば、大量に情報は集まるだろうから」


「しかし、それでは賞金欲しさに誤報が流れるのではないですか?」


「それは、仕方が無い所だ。とりあえず証言を集めて、信頼性の高い所から当たっていくように諜報部と協力して行ってほしい。後、誤報かどうか判断してから賞金を払う様にな。間違った情報で賞金を払ってはこちらの財政が持たなくなる」


 一通り指示を出すと、バリスは急いで諜報部を統括している爺さんの所に行った。


「さて、後はどこの国かという所もあるが、ハイデルベルクには弁明の使者を送っておかないとな。遠からず向うにも噂は流れるだろうから」


「使者は誰にしますか? 面識があるもので、現場を離れられる人物が少ないのですが」


「そこなんだよな、誰に行ってもらうのが良いか……」


 俺とコーナーが使者の人選に迷っていると、メリアが後ろから服を引っ張ってきた。


「ん? どうしたメリア? 何か困った事でもあったか?」


 俺が訊ねると、彼女は首を振って話し始めた。


「私、エリシアとあう」


「…………」

「…………」


 メリアの一言に俺達は互いの顔を見合わせて悩んでしまった。

 確かにメリアは、エリシアと顔見知りだし、向うに敵対的な貴族が居ても気づかないだろう。

 だからと言って、10にも満たない女の子を使者にするのもどうかと思う。

 

「ほかにいる?」


「いや、居ないけど……、どうしような?」


「私に聞かれても困りますよ。それにメリアが言い出した事を曲げますか?」


 そう、メリアはこれで意外と頑固なのだ。

 言い出したら絶対に諦めないし、泣きべそかいても止めないのだ。

 そういった意味では使者には向いているのだろうけど……。


「ぜったい、あう!」


 ダメだ、この子もう会う気でいる。

 こうなっては折れないので、仕方なしに条件付きで送り出す事にした。


「わかった、だけどメリア一人で行くんじゃないよ。しっかりと守ってくれる人と一緒に行ってもらうからね?」


 俺がそう言うと、彼女は渋々といった表情で「うん」と頷いてきた。


「コーナー、すぐに護衛の人選にかかるように自警団に通達を、あと手紙を書くから紙と筆も用意してくれ」


「かしこまりました」


 とりあえず、これでハイデルベルクは大丈夫だろう。




 数日後、とある居酒屋の前に俺はアンドレアとバリス、そして諜報員を連れて張り込んでいる。

 ここ数日、見慣れない男が現れては噂話をして、去っている様なのだ。

 そして、噂話をする相手は決まって気分よく酔っている客で、店の前なのだという。


「適度に酔った客と噂話をする、そしてその客が注意を逸らした隙に消えるように退店する、か。確かにそれなら消えたように感じるな」


「えぇ、それに酩酊状態でない客を狙っているのも噂話を広げやすくする為でしょう」


 確かに、酩酊状態の客に何を言っても、次の日忘れられていては意味が無い。

 となると、適度に酔っていて警戒心の薄れている人物に呼びかけるのが一番だろう。


 ちなみに、最近の噂話はより嘘の割合が大きくなってきている。

 曰く、俺が帝国とすでに密約を交わし、攻めて来たタイミングでハイデルベルクを裏切る。

 曰く、俺がすでに帝国の属国となる事を了承し、約定を交わしている。

 曰く、俺は好色家だ。

 曰く、俺は裏切りを平気でする奴だ。

 等々、噂はどんどん多く、そしてどちらかと言うと誹謗中傷に近い物になってきている。


「好色家は、間違っていないような……」


 俺の隣でアンドレアが呟いているのを、自警団の面々が頷きながら聞いている。

 この、裏切り者たちめ。


 そんな事を考えていると、店からほろ酔い気分の人が出てきた。

 

「程よい感じに酔っていそうだな」


「えぇ、後はあの人に釣られて敵が出てくれば、と言う所ですね」


 ちなみに兵達の配置は、十重二十重に囲むようになっている。

 これで、敵が来ても取り逃がす心配はほぼ無い。


「来ました。酔っぱらいに近づく人影があります」


 自警団員が声を殺して報告をしてきたので、視線を見せの前に戻すと、1人の人物が話しかけていた。


「踏み込みますか?」


 俺は隣で囁いてきたバリスに首を振って待つように指示を出した。


 少し様子をみなければならないし、1人とは限らない。

 できる限り引き付け、相手が動き出した瞬間に捕らえるのが良いと考えたのだ。


 暫く二人の話している姿を観察していると、酔った男が違う方向を向いた瞬間、先程の男が離れ始めた。


「奴で間違いない! 捕まえろ!」


 俺の合図で、周囲に隠れていた兵達が一斉に飛び出し、男を拘束しようと動き始めた。

 もちろん、先程まで話していた男も一応確保されている。

 一気に酔いが醒めたのか、かなり狼狽しているが、無関係だったら今日の飲み代くらいは置いて行ってやらないと可哀想な気がする。

 そんな事を考えていると、アンドレアから突然信じられない方向が飛んできた。


「ロイドさん! 敵が居ません!」


「はぁ? 消えたというのか?」


 怪盗ルパンじゃあるまいし、人が簡単に消えてたまるか。


「総員集合! それぞれの部署で点呼しろ!」


 俺の指示が入るのと同時に点呼が始まった。

 が、誰一人欠けず、誰一人増えても居なかったのだ。


「ほ、本当に幽霊じゃ」

「いやいや、そんな、まさかな?」


 この事態に流石に兵達も動揺を隠せないでいた。

 というか、俺自身が一番動揺している。

 

「おかしい、普通は紛れてほとぼりが冷めたらさようなら、がお約束なのになぜ居ないんだ!?」


「ロイドさん……、お約束って……」


「あ、いやすまん。少し動揺していたようだ」


 さて、これでまた振出しに戻ってしまったぞ。

 少なくとも敵は居る。

 ただし、一斉にかかっても消えてしまう特殊な力を持っている可能性が高い。

 そして、噂話作戦が失敗し始めた事に気づいた敵が次に起こす行動は……。


「とりあえず、主要人物の身辺警護をしっかりとしないと拙いな」


「そちらに関しては、私の方で手配します!」


 俺は、身辺警護の計画をバリスに一任してもう一つの方を考えた。

 

 敵は消える事ができると仮定する。

 となるとどこまで消えるかだ。

 単に夜陰に隠れるだけなのか、肉体が消えたように見える猛スピードなのか、はたまた存在自体が消えるのか。

 その辺りの予想をアンドレアに尋ねた。


「いえ、その中で可能なのは、夜陰に隠れるくらいでしょう。ただ、そうなると先程の突入時に我らも闇に包まれるはずです。ですがそれは無かった」


「となると、何かしらの方法でこちらの視線を狂わせた、もしくは見えないように魔術を展開した?」


 確か、元の世界で考えられていたものに、光学迷彩というものがある。

 ただ、これは実用化には至っていなかったし、この世界の人でその理論を考える人が居るかどうかだ。


「なんにしても、警戒は怠らないように。アンドレアも警備はまわすが、自分でも気を付けておいてくれ。恐らく魔術の様な気がする」


「わかりました。私とエレーナでも姿を消す方法、探ってみます」


 そう言って、お互いに頷くと、俺たちは再び捜索を始めるのだった。


※以前から割烹でもお話しておりますが、次回更新から不定期になります。

 理由は、私が再就職するからです。

 一応今日、明日でストックをできるだけ作る予定ですが、どれだけできるかは不明ですので、不定期とさせて頂きます。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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