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1‐2

 ドローナと俺は机を挟んで対峙し、商談を始めた。

 

「まず、水をと言う事ですが、ご覧の通り我が村では井戸の水以外は谷の下まで汲みに行かなければならず、しかも川の水は衛生上あまり良くありません。ですので、それなりに値が張る事を覚悟頂かなければなりませんが宜しいですか?」

 

「値が張るのは致し方ありません。全ては水を無くしてしまった我らの責任です。どれくらいの値になるのでしょうか?」

 

 俺は手を開いてドローナに見せた。

 

「銀5枚ですか?」

 

「いいえ、金です」

 

「っ!法外な!銀5枚でもかなりの高値なのに金5枚は無茶です!」

 

 この世界では金1枚で家が建つ値段になる。

 現代日本の感覚で考えると、家一軒が約1000万円と考えると約5000万円という法外な値段を要求したのだ。

 

「ですが、命を救うのに金5枚でも安いと思いますが?」

 

「うぅ!た、確かにそうですが、他に何か手は無いのですか?流石に即金で金5枚なんてとてもではないが払えません」

 

 そう言ってうなだれるドローナを見ながら俺は次の案を提案した。

 

「仕方が無いですね。でしたら手形を書いて頂きたい」

 

「手形?ですか。何を約束させて頂ければよいのでしょう?」

 

「今後隊商がこのルートを通る時に必ず私の村に寄り、物資を購入、販売すると言う事を約束して頂きたい」

 

「それは隊商としても吝かではありませんが、それを約束したら水を頂けるのですか?」

 

「えぇ流石にタダと言う訳にはいきませんが、銅10枚までまけましょう」

 

 俺の一言にドローナは考え込んでいた。

 隊商としては素早く大きな街を行き来するのが、一番利益率が良いのだが、ここで断って水を売ってもらえなければ全員が次の街までに干からびてしまう。

 そして手形で約束をしてしまった場合、商人としては守らなければ信用がガタ落ちになってしまう。

 このルートを通らなければと一瞬思ったが、実はこの村の場所は少し外れているがかなり重要な道が近くにあり、どうしても通らなければならないのだ。

 

 これらの事からドローナは非常に迷っていた。

 正直この村はかなり小規模で他の村に比べても旨味が少なすぎるのだ。

 だが、今を生き延びなければならないと判断したドローナはこの提案を条件付きで飲むことにした。

 

「失礼ながらこの村はかなり小規模で、売り上げがあまり見込めると思えません。ですので、2ヶ月に1回立ち寄る事でご勘弁願えませんか?」

 

 ドローナの提案は俺の予想通りの内容だった。

 この村の規模なら2~3ヶ月に1回来てくれたら良い方だと思っていたので、この条件を俺は承諾する事にした。

 

「わかりました。確かに村の状態はまだまだ小さいので仕方ないですね。では2ヶ月に1回必ずお立ち寄りください。恐らく次お越しになられる時には特産品もでき始めるでしょう」

 

「わかりました。その特産品は見させて頂いてから、考えさせていただきます」

 

 こうしてドローナと俺の商談は終わった。

 そう思っていると、ドアが勢いよく開いたかと思ったらコップに水を入れて持ってきたマリーが立っていた。

 

「お水をお持ちしました!村長!」

 

 何を一体怒っているのか分からないが、もの凄く俺を睨んでくるマリーに戸惑っていると、向かいに座っているドローナが俺とマリーを交互に見てからくすくすと笑っていた。

 

「別に!私怒ってなんかないもん!」

 

 どう見ても怒っている様にしか見えないが、兎に角商談は終わったので、村民に3樽分水を詰めて渡す様に指示をした。

 

 次の日、隊商と援軍に来た兵達を見送った。兵に関してはゴードンが責任をもって領主様の所まで返しに行くと言って着いて行った。

 

 






村内 ハートレック家

 

 最近娘の様子がおかしい。

 料理の時に突然顔を赤らめながらクネクネし始めたかと思ったら、次の瞬間にはため息を吐いて物凄く憂鬱そうな表情をするし、たまにボーっとしておかずを焦がしている。

 今日も裏の川で取れた魚が配給されたので、それを焼いていたのだが、見事に真っ黒になっていた。

 

「マルシール、何かあったのか?最近様子がおかしいぞ?」

 

 俺の問いかけに対しても彼女は気づいていない。

 仕方が無いので目の前で手を振ってやると、やっと気が付いたのかハッとした表情になった。

 

「え?あ、ごめんね。頂きます!」

 

 うん、これはかなりおかしい。

 

「マルシール、体の調子が悪いならロイドに診てもらうか?簡単な治療なら出来るって言ってたぞ?」

 

「ロイド!え、あ、ううん大丈夫!大丈夫だから、体は全然元気だよ!」

 

 そう言って無い力こぶをみせようとする娘にどこか哀愁が漂っていたのはきっと気のせいだ。

 俺の心配は募るばかりだ。


ロイドがドローナに無茶な要求をしたのは心理学の一種の応用です。

余りにも無茶なお願いをした後だと、少々の事なら大丈夫と言う心理が働く事を応用して交渉しています。

これが成り立つのは、彼女の状況が苦しく、ロイドが上に立っている場合のみ有効で、そう何度も使える方法ではありません。


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