5-7
ボリスが帰って暫くしたある日、俺の元にエレーナが上機嫌でやって来た。
「ロイド! ついにできたぞ!」
「おぉ! どんな感じになるんだ? 見せてくれ」
俺が急かすと、彼女はニヤニヤしながら手に持った設計図を広げて見せた。
ちなみに彼女が持っているのは、紙だ。
本来なら高級品なので手が届かないのだが、彼女が原材料と作り方を知っていたので、現在主婦や高齢者を中心に大量生産中なのだ。
彼女が広げた設計図を見た俺とコーナーは、唖然としてしまった。
「おいおい、これは相当でっかくないか?」
「えぇ、これ、臼が3つ同時に稼働する作りになっていますよ。それも全部が独立稼働しているので、ダメになったら1つだけ止めるなんて事もできますね」
彼女が見せてきたのは、元の世界でも見た事の無い、一つ屋根の下に3つの臼を置いた「粉ひき工場」とでも形容できる建物だった。
「ダメだったか? 建物が二つにそれぞれ1つずつ石臼を置くだけの材料費が貰えると聞いていたが、この作り方なら1つの建物に3つ作れるんだよ。これすごい発見だと思わない?」
確かにこの建物の発想はすごい。
だが、問題は建設場所だ。
当初予定していたのは、街の近くに造る予定だったので、候補地がかなり狭いのだ。
「こうなると、場所の再設定が必要か……。コーナー現状、街の近くでそれなりの広さのある場所はあるか?」
「そうですね……、これだけの規模になると、郊外に造るほかないですね」
「郊外か……。まぁ、いたし方ないな」
俺とコーナーの会話を聞いていたエレーナは、首を傾げながら俺達に質問してきた。
「なんで郊外だとダメなの?」
「ん? あぁ、郊外だと麦を運ぶのが大変なんだよ。特に人力ではいくら荷車があってもそこまで大量に運べないからね」
「へぇ~、それじゃ、これはあんまり良くなかったのか……」
「いや、そんな事は無いさ。ここからは内政官のコーナーの仕事なだけだ。この発想は本当にすごいぞ。古今東西、誰も考えた事の無いものだろう」
俺がそう褒めると、彼女は嬉しそうに「そう~? やっぱ天才だからね」と上機嫌になっていた。
「とりあえず、造る場所についてはこっちで考えるよ。また実際に造る時に技術顧問として指導に来てくれ」
「わかったわ。それじゃ私は帰るね」
そう言って彼女は、俺の部屋を飛び出していった。
ちなみに、彼女は今もアンドレアの家に居候? している。
まぁ、昔からアンドレアを知っている人たちは「事実婚」と認識しており、居候と言うよりも新妻と認識しているけど。
「さて、これで水車についても上手くいきそうな感じだな」
「えぇ、あと急ぐ案件は、これくらいでしょうかね」
コーナーがそう言いながら出してきたのは、お見合いの手紙である。
「…………なぁ、これ本当に急がないとダメか?」
「えぇ、そろそろ結婚をして頂かないと、困りますからね。帝国が攻めてくるのも間諜の報告では2年は後になるだろうという事でしたので、今のうちに決めてしまって頂きたいものです」
そう言って手渡された手紙には、相手女性の似顔絵が描かれていた。
ただ、この似顔絵、明らかに盛ってるんだよな……。
だって、こんなに目のパッチリした人間居ないし、こんなに胸の大きな人間もそう居ないだろうって感じなのだ。
「なら、近場でマリー嬢やドローナさんが居ますが? あちらはロイド様に惚れているようですし、問題無いと思いますが?」
「うぅ……。わかったよ、マリーとドローナの3人で話し合いをしてくるから、それで勘弁してくれ」
「それでは、今すぐ使いを出して彼女たちを呼び出しましょう」
彼はそう言うと、自宅前で待機していた自警団員の一人を捕まえて呼びに走らせた。
それから数十分後、2人が俺の家に着いた。
あぁぁぁぁ、どうしよう、本当にどうしよう。
前の人生でも女性なんて切り捨てて、自分の道楽に生きていたのに……。
というか、こんな話2人にして大丈夫なのだろうか?
前にエリシアが来た時には殴られたからな……。
「ロイド? それで話って何?」
「私たちに話と聞いてお伺いしましたが、ロイドさん? 大丈夫ですか?」
「え? あ、あぁ大丈夫、大丈夫。ちょっと心の整理ができてなくてね……うん、2人に聞いて欲しい話があるんだ」
俺がそう言うと、2人は居住まいを正して緊張した面持ちになった。
「あの、その、こんな事を言ったら本当に怒られるかもしれないんだけど、2人とも俺のお嫁さんになって頂けませんでしょうか?」
俺は精一杯の言葉で言って頭を下げると、彼女たちのため息が聞こえた。
うぅ、ダメだったかな。
ダメだよね……、2人同時なんて。
だって、俺だって必死に考えていたんだよ?
マリーは、俺が一目ぼれした相手で、前は文字の読み書きも計算もできなかったのに、少しでも役に立とうと必死に覚えてくれてさ、その姿が愛おしくてしかたなくて。
ドローナは、容姿はもちろんだけど、それ以上にそのなんて言うのか、包み込んでくれるような愛情を俺にずっと注いでくれていて、その姿に愛おしさを覚えてしまったんだ。
「はぁ、こうなるだろうなって、なんとなく思ってたわよ」
「えぇ、ロイドさんは肝心なところで詰めが甘いですし、情を捨てきれない人ですからね」
「えっと、それは2人ともOKって事で良いのかな?」
俺がそう言って恐る恐る頭を上げると、彼女たちはニッコリ笑っ……てなかった。
「とりあえず、結論出したことは認めるけど」
「なんというか、遅すぎますよね? 待たせすぎです」
「……はい、ごめんなさい」
うぅ、ぐうの音も出ないです。
「けどね、私も、ドローナさんも、嬉しいのよ?」
「えぇ、やっと、念願、叶いましたから、ね?」
「えっと、それじゃ、2人とも認めてくれるって事で良いのかな?」
「うん」
「えぇ」
そう大粒の涙を流しながら彼女たちは頷いてくれたのだった。
やっと年貢を納めました。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




