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5‐4

 それから何時間が経過したのだろう?

 薄暗い地下室では、時の流れが全く分からず、ただただ寝るだけだった。

 

「ん~、おや? 私は寝ていたのか……」


 声がした方を向くと、技術者の彼が起きていたが、どうやらまだしっかりと覚醒していないようで、どこか、フラフラとしている。


「おはようございます」


「っ! だ、誰だ?」


 俺が声をかけると、彼は余程驚いたのかビクッと体を震わせて警戒していた。


「あ、いや、昨日アンドレアに紹介をしてもらったロイドです。ロイド・ウィンザーです」


 俺がそう自己紹介をすると、徐々に記憶がハッキリしてきたのか、彼に安堵の表情が見えた。

 と思ったら、急に目つき鋭く俺の方を睨んできた。

 俺が何をしたというのだろう?


「ロイド・ウィンザーだと? この辺りでウィンザーと言えば、ライン村の村長しかいないはずだが?」


「その村長の養子です。今は村じゃなくてウィンザー国という小さい国になりましたが――」

「国!? 国をつくったというのか!?」


「え、えぇ、まぁ、その、なりゆきで」


 俺が曖昧に返事をすると、彼は益々驚いて、俺の体の端から端までをジロジロと眺めながら周囲を歩き回った。

 まるで、獣だな。

 などと考えていると、彼は一人頷いて何か納得し始めた。


「なるほど、あの村が国か……」


 かれこれ1年近く前の情報なのだが、彼は一人でブツブツと呟いていた。


 そんな俺たちのやり取りに気が付いたのか、アンドレアも起きてきて話に加わった。


「とりあえず、この人は我らのパトロンになる人だから自己紹介くらいしてくれ」


 ん? おいおい、誰がパトロンだ?

 俺がそう思ってアンドレアにジト目で視線を送ると、彼はニッコリと笑顔で親指を立ててきた。

 お前、そんなキャラだっけ?


「何!? パトロンだと!? それは願っても無い事だ。予算はどれくらいだ? なんでも研究して良いのか? 私の知識で何が欲しい!?」


 これまでの不愛想や警戒心が嘘のように爽やかな笑顔? で彼は俺に問い詰めてきた。

 とりあえず、こいつらの仲が良い理由は良く分かった。

 

「私が欲しているのは、あなたの知識全般です。特に最近作りたい物で〝水車〟があります」


「水車? そんなものどこかに適当な大工でも作れるだろうに……」


 俺の言った『水車』という一言に彼のテンションは一気に急降下したのか、しょんぼりしている。

 もちろん、ただの水車なら大工のマルコでも作れる。


「ただの水車ではありません。石臼をそこに付けて、水車の力で自動運転をさせて欲しいのです」


「自動運転だと!? 私の得意分野では無いか、石臼だけで良いのか? 他にも機能が欲しいのか? 予算はどれくらいある?」


「とりあえず、石臼の機能ともう1つあるんだが、それは見てから考えてもらった方が早い。予算は、色々と機能を付けてもらう事を考えて、2台分の材料費がある」


「おぉ! 2台も作れるのか? それはなんと素晴らしい!」


 彼は俺との問答で、1人ハイテンションになっているが、肝心の自己紹介を一向にしてくれない。

 俺としては、いつまでも名前も知らないと会話がし難くてたまらない。


「ところで、君の名前は何というのか教えてくれないか?」


「ん? 私の名前か? あぁ、自己紹介がまだだったな。私は、エレーナ・ウォリックだ」


 ん? エレーナ? あれ、エレーナって女の人の名前じゃなかったっけ?

 俺が疑問に思って、アンドレアの方を向くと、彼も驚いた表情をしていた。

 いやだって、目の前に居るの、どう見ても無精ひげ生やしたおっさんだぞ!?


「え? つかぬ事を聞きますが、女性ですか?」


「つかぬ事というよりは、それは心外な事を聞かれたな。私は女だ」


 ダメだ、頭が混乱してきたぞ。

 俺が頭の中でなぜ? がグルグルと駆け巡って話せなくなると、アンドレアが代わりに声をかけた。


「いや、君、髭生えてるよね?」


 そうアンドレアに指摘された彼女? は、自分の顎に手をやると、髭を一気に引き抜いた。


「あぁ、これをしていたから分からなかったのか、これは付け髭だ。こんな人気のない所だから、女と思われると拙いと思って、男のフリをしていたんだ」


 そう言って、彼女は髪をかき上げてポニーテールの様に後ろで纏めると、垢などで薄汚れてはいるものの、綺麗な顔が出てきた。

 それは、まごう事無き女性の顔立ちである。


「アンドレア、まさか君まで私を男だと思っていたのか!?」


 彼女は、俺の隣で唖然としているアンドレアに憤慨していた。

 いや、それは仕方ないと思うし、アンドレアは悪くないような……。


 まぁ体つきが華奢でペッタンコなのもあって、付け髭をしたら、いかにも研究者のおっさんって感じなのだ。

 これで分かれというのは、酷としか言いようがない。


「で、予算は? 研究の予算はいくらだ? 誰も私の発明を評価してくれなくてな、そろそろ売る家財も無くなってきた所なのだ」


「予算は、うちの内務官と応相談だが、少なくとも今よりはマシな環境にはなるはずだよ」


 うん、切り替え早いな。

 一方のアンドレアは、衝撃の事実にフリーズし始めた。


「とりあえず、今作った時計などの所持品をすぐに準備してくる! 今すぐ行っても大丈夫なんだろう?」


「え、あ、まぁ用意はできるけど――」

「なら決まりだ! 善は急げというからな!」


 家、余ってたかな?

 という俺の一言は、彼女の勢いに押されて出てくる事は無かったのだった。




ウィンザー国 ボリス


 どうにか行商人として国の中に潜入する事に成功した。

 しかし、国境が緩いと聞いていた割にかなり細かく調べてくるし、流民の受け入れも厳格になっている。

 やはり、先の戦争で国境付近のチェックを厳しくしたのかもしれない。


 私は、そんな事を考えながら街の方へと向かって歩いていた。

 背中には、行商人と言い張る為の薪や野鳥などの商品が、ズッシリと積まれている。


「さて、どこを探した物か……」


 私は、当たりを見回していると、聞きなれた声を耳にした。


「おぉ~、この様な所で、美しい貴女に会えるなんて。今日の私は本当に運が良いのか、神に感謝しなければなりません――」


 あの頭に蛆虫が湧いてそうな台詞は、ワルター王子だな。

 私はそう思って声のする方を見ると、少し抑えめではあるものの、貴族と主張したそうなフリフリの襟のついた服。

 少し伸びた茶髪に、何よりも女性に膝をついて接しているあの姿勢。

 どこからどう見てもワルター王子だ。

 また綺麗な女性を見つけては、声をかけているのだろう。

 

 私は、頭を抱えたいのを堪えながら、王子の近くへと進み、蹴とばした。


「ブバッ! 何をするんだ! 君……あれ? ボリス? なんで、こんな、ところに……」


 王子は、私の姿をみとめるや、徐々にトーンダウンしていった。

 まぁ、彼が私に頭が上がるかと言うと、無理だろう。

 

「えぇ、貴方の教育係ですからね。さて、何をされていたのかしっかりとお話してもらいましょうか?」


 私がとびっきりの笑顔でそう言うと、彼は目を泳がせながらアワアワとどうでも良い事を言っていた。


「いや、その、なんだ? とりあえず元村だった場所には着いたんだ? ただな、その、羽休めというのをしてたんだよ? あ、あと、死んだと思ってたロイドも見つけて――」

「ロイドが居ただと!? あいつには、しっかりと灸を据えてやらないといけないな! あいつが居なくなってから、私がどれだけ苦労した事か!」


 私がそう言うと、目の前でさっきまでオドオドしていた王子が、首をしきりに縦に振っている。


「もちろん、ロイド共々、貴方も再教育が必要なようで」


「い、いや~、その、私は遠慮したいかな? あ、ちょ、ちょっと耳をつかまないで、ちょ引きづらないで、い、痛い、痛いです! ご、ごめんなさ~い」


 怒りに任せたまま、私はロイドの居る家に向かうのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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