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2017.1.30時計の話の矛盾点を修正しました。
「失礼、私はウィンザー国のロイドというものだが、家主の方は居られるか?」
俺は、できる限り大きな声で呼びかけた。
だが、へんじがない。
ただのはいきょのようだ。
という冗談はさておいて、これ技術者は生きているのだろうか?
「なぁ、アンドレア。その人って生活の事とか考えるタイプか?」
「……。多分考えませんね……」
俺はアンドレアと顔を見合わせると、意を決して中へと突入した。
「誰か!? 誰か居ませんか!?」
「お~い! 私だ、アンドレアだ。居ないのか?」
名前が分からないってとっても不便だな……。
呼びかけようにも、なんと言って良いのか一瞬迷ってしまう。
そんな事を考えながら家の中を見回しながら歩いて見たが、外が外だけに中も中ですごい。
何がすごいって、幽霊とか出ると言われる廃墟とほぼ同じなのだ。
唯一違うのは、床が抜けてない……んじゃなくて、所々補修されているところか。
「で、その例の人が居るのはどの辺だ?」
「多分ですが、下の方ですね。地下室を私に作らせていたので」
この家、もしかして手作りなのだろうか?
それもアンドレアが地下室を作ったって……、どれだけ便利屋なんだよ。
「あ、ロイドさん。ここです、ここ」
そういってアンドレアが指さしたのは、台所らしき場所と居間の間にある草履をはくための石だ。
「……。これ、入ったら流石に一人では、ずらせないんじゃないか?」
「……そうですね。普段は開けっぱなしにするんですが……」
おいおい、それは危ないんじゃないのか?
俺たちは、二人で力を合わせて石をずらすと、石の下に階段があった。
「おぉ~い、生きてるか~?」
俺が階段に向かって大声で呼びかけると、遠くから微かに声が聞こえてきた。
「誰だ~?」
「私だ! アンドレアだ!」
「おぉ~、今手が離せない。入ってきてくれ」
そう言われると、アンドレアは階段を降り始めた。
俺も、その後に続いて階段を少し降りると、広い空間が広がっていた。
「その辺りで適当に座って待っていてくれ、今歯車を調整している所だ。これが出来たら世界が変わるぞ! いや変えるのは私だな――」
彼は、俺達が訊いたわけでも無いのに今作っているものの話をし始めたのだ。
「これは、時間というものを正確に計る装置だ。この歯車を様々な大きさで組み合わせて、一定の間隔で動くようにすれば、今までだいたいで計っていた時間が正確に計れる。そして、この装置には日の動きから季節も読めるようになるぞ。それだけではない――」
話に聞いていたが、本当にマシンガントークとはこういう事を言うのだろう。
彼は、矢継ぎ早に話しながら、手元の歯車が正確に動くように細かく調整している。
そして、驚くべきはそこだけではない。
彼が作っているものは、時計なのだ。
それも手巻き式の機械時計なのだ。
機械時計は、14世紀ごろに作り方が考えられて、普及したと言われている。
ただ、この世界は、肥料の普及が進んでいない事から、少なくとも中世前期くらいの文明だと、俺は思っていたし、多分正しい。
なので、彼は少なくとも数世紀は時間を早送りしていることになる。
この事からも分かるように、彼は異質なのだ。
そして、人としても物凄く変な感じがしている。
暫くの間、彼の独演会と作業が続いたが、やっと作業が終わるのと、こちらに向き直った。
彼は、偏屈な博士の様な感じなのかと思ったら、無精ひげに伸び放題のボサボサの髪、そして目の下に大きなクマを作っていた。
年の頃は、30代半ばぐらいに見えるが、あまりにも見た目に無頓着なので、何歳か全く予想ができない。
「ん? 君だけだと思っていたら、もう一人居るのか、どこのどなたか知らぬが、良く来た。君は、素晴らしいタイミングで私の家を訪れた幸運を神に祈ると良い。今しがたできたものだが、これは今までの物と違い、時、分よりも早い――」
「秒、ですよね?」
俺がつい口をついてそう言うと、彼は驚いた顔をした。
「ッ! ……なぜ、私の発見を知っているんだ? 私のこの天才的頭脳をもってして初めて気づき得た〝秒〟をなぜ君如きが知っているのだ? それもその名前は、さっき私が考えだし、口に出す前に言った。これは尋常ならざることだぞ?」
しまった、ついつい知っている事だから口をついてしまった。
俺は一人慌ててどうにか言い逃れようと考えていると、アンドレアが横から助け船をだしてくれた。
「彼は、ウィンザー国の王様でロイド・ウィンザーという。若く見えるが、かなり博識で――」
「そんな事は訊いておらん! なぜ秒という名前に行きついたのかだ」
「あぁ~、その秒という名前は、なんとなく名前を出してしまっただけで、特に考えていた訳では無くて……」
俺がそう言い逃れようとすると、彼はかぶりを振って言い返してきた。
「違う! お前が言ったのは、元からある物の名前を聞く言い方だった。それがおかしいの、だ……ぐぅ……」
俺に指を突き立てようと前のめりになった瞬間、彼は電池が切れたように寝始めた。
その様子を見ていたアンドレアは、いつもの事とばかりに彼に毛布を掛けて、部屋の隅にある椅子らしき形の切り出しに腰かけた。
「ロイドさん、彼これから1日くらいは起きませんから、その辺の切り出しで寝て待ちましょう」
そう言って、アンドレアは自分の持ってきた毛布にくるまって、寝始めるのだった。
今後もご後援よろしくお願いします。




