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5-1

本日から第5部です。

 帝国を退けて、2週間。

 俺は、元村長宅の執務室で1つの事に頭を悩ませていた。


「もう一度聞くぞ、コーナー。財政状況はどうなっている?」


「はぁ……、何度聞いても同じです。財政は収入を支出が上回り、近く赤字になります」


 なぜだ?

 ここ最近街の開発も、税収も良かったはずだ。

 なのに、なぜ赤字になったんだ?


「それも何度も説明したじゃないですか。先の戦争のせいで、流通がマヒして売り上げが激減し、兵糧などの関係で国内の余剰食糧を売る事ができなくなったのです。そこに加えて、エリシア女王からの技術者支援で開発が加速、支出が一気に増えて、収入が一気に減ったのですから、仕方がありません」


 あぁ~せっかく敵を退けたのに、なぜだ?

 戦争なんてやりたくないのに……。


「とりあえず、財政を健全化しない限り、城も防衛施設も作れません」


 彼はそう言い切ると、一礼して自分の仕事を行い始めた。

 さてはて、どうしたものか。


 税収がいきなり増えるなんてことは無いし、流通が回復したと言っても恐らくそちらの売り上げも微々たるものになるだろう。


「となると、やはり新しい商売を考えるしかないか……」


 新しい商売と言っても、正直『言うは易し行うは難し』というのが現実だ。

 どっかにアイデア転がってないかな……。


 そんな事を考えながら、俺は街をブラブラと散歩する事にした。

 当初の村から街に変わって、そしてその街も発展してきたお陰で、かなり大きくなってきた。

 前から村に住んでいた人たちは、皆一様に『あの村がこんなになるなんて、信じられない』と言っているくらいだ。


 まぁ、実際に陣頭指揮をとってきた俺としても、これだけ早く大きく成長したのは、運の要素が多分に含まれているだろう。

 なにせ、干ばつの時にアンドレアと言う魔術師が居り、貴族と戦争したのに王女――いや、今は女王か――の味方になったり、難民と言う名の農民たちが多数押し寄せて来たのも運だろう。


 本当に大きくなった。

 ただ、大きくなっていくにつれて、税収こそ上がっているが、開発費も徐々に増加傾向にある。

 この辺りも、どうにかできるようにしないといけない。


「で、今年の麦の収穫量は、どれくらいになりそうだ?」


俺は、隣を歩いていたゴードンに尋ねると、彼はすぐさま答えを出してきた。

 ちなみに、彼は現在官僚としてコーナーの手伝いをしている。


「前回比で1.5倍ですね。徐々に麦畑が広がっていますので、生産量は増加の一途を辿っています」


「前回比1.5倍か……。そろそろ水車を建てても良いかもしれないな」


「水車ですか? 現在の街の状況から考えるに、水利は上手く行っていると思いますが……」


「あぁ、説明が足りなかったな。水車についてだが、水利を良くする以外にもあってな、石臼で麦を引く事ができるようになるんだ」


 ちなみに、水車は石臼だけに使うつもりはない、棒を一か所で安定して回転させることができれば、現在手作業で行っているライフリングを入れる作業も、人手を減らして簡単にできるようになる。

 まぁそれよりもまずは、麦を細かくする事だ。

 現在のパンは黒く硬いものだが、これは脱穀が上手くいって無かったり、麦を細かく潰せていないのが原因となる。

 なので、石臼を使ってしっかりと挽けば、白くて柔らかいパンも作れるようになるのだ。

 

「なるほど、麦を粉にする訳ですね。確かに白いパンは高級品で祭りくらいでしか食べられませんからね」


 もちろんそれだけではない。

 小麦粉が出来れば、水と塩で麺も作れる。

 麵が出来れば、食事の幅も広がるというものだ。

 そして、ここで生産した麺を乾麺にして、各地で売れば……。

 おそらく儲かる。


「後は、小屋を建てる技師を探さないといけませんね」


「そこなんだよな、とりあえずエリシアが寄越してくれた技師から当たってみよう。石工は何人も居たから、大きな石臼を作らせて……」


 夢が広がるというものである。




帝国 元ニュールンベルク首都サントス ???


 帝国に支配されて早1年。

 奴らの横暴な振る舞いに、我らは息を潜めて身を隠していた。


「帝国兵は、未だ1万以上が駐屯している。また、武器防具等の流れに目を光らせ続けているようで、この前も闇武器商の男が捕まっていた」


 ここ最近は、特に厳しい取り締まりを行っている。

 もしかしたら、我らの存在を奴らが知っているのかもしれない。


「このまま支配を受け続けては、我が国は本当に誇りすらも奪われかねないぞ!」


 そう言って、声を荒げているのは、背の高い厳つい顔をした男だ。

 奴は、元騎士団団長という事で、ここの軍事指揮官を務めている。


「今こそ決起の時じゃないか? 敵は1万とは言え、各地に散らばっている。サントスの司令部を叩けば勝てるはずだ!」


 若い男がそう言うと、それに賛同するかのように次々と「そうだ、そうだ」と声が挙がった。

 

「その意見には、少し待ったをかけたい」


「何故ですか!? 敵が少ない今が好機では?」


 私が口を挟むと、元団長の男が食って掛かってきた。


「確かに兵数は少なくなってきています。ですが、奴らは今現在我らの動向に注意を向けています。そんな状況下で行動を起こせば、すぐさま相手に知られ、殲滅されるでしょう」


「うッ……。しかし、――」

「しかしもへったくれもありません。我らは失敗できないのです。せっかく同士を千人集めた。恐らくこれだけの規模は、もうありません」


 私がそう断言すると、周りに居た男たちは、一様に下を向いた。

 少し言い過ぎたかもしれないが、ここで失敗しては意味がない。

 これは誰もが分かっている事だ。

 誰もが同じ思いで動いている訳では無い。

 ここに来るまでに何人もの同胞に声をかけ、何人もの同胞に断られた。

 恐らくここに居る同胞が、反旗を翻す最後の同胞だろう。


「では、ボリス。君の考えではいつなんだい?」


 私の机を挟んで正面に対峙している、白い髭を蓄えた老人が鋭い目つきで問いただしてきた。

 私は、その瞳をできる限り力強く睨み返しながら、ゆっくりと返事をした。


「私の考えでは、敵が第二次ハイデルベルク戦争を始めた時です。首都であるサントスに恐らく皇帝が来るでしょう」


 私がそう言うと、周りにいる全員が息を飲んだ。

 彼らは、精々狙いは王都奪還くらいだったのだろう。

 だが、一度落とされた王都だけを奪還しても意味は無い。

 少なくとも、国を取り戻さない限り、我々に勝利は無いのだ。


「本気、なんだね?」


「はい、それ以外に我らに生き残る道はありません」


「わかった。全員そのつもりで、行動する様に」


 老人の一言で、その場にいる全員が敬礼をして、それぞれの役割に散っていくのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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