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1-1

第一部突入です。

 次の日、堀に詰まってしまった息のある個体の止めと死体の除去を全員で行い、埋める事にした。

 魔物とはいえ一応生き物である。

 襲ってきたのも彼らにとっては生活が懸かっていたので憎いが、野晒しにしてやるほどではないという結論に到り、穴を深く掘り、その中に彼らを放り込む形で埋葬した。

 もちろん最後は火をかけて消毒してから塚を建てておいた。

 

 それからは村の復興に取り組んだ。

 柵はかなり丈夫なのか、血糊を取り、ヤスリがけを少しすると、元の状態とあまり変わらない状態になった。

 門の刃物は今後危険だと判断し、取り外す事となった。

 というかこれを外さなければ台所の包丁が無くて調理が大変だったのだ。

 

 村の復興と並行して田畑を耕し、破壊された家屋を立て直していた。

 半壊程度の家はそのまま壊れた個所を修理して使い、全壊・全焼していた家は基礎からの立て直しになったので、家の向きを変えた。

 これまでは村の真ん中を一本の道が通っており、その道に対してのみ出入り口があったが、今回の様な事が突然あって避難せざるを得ない状態になった時には逃げにくいのだ。

 なので、家の出入り口を二つに増やした。

 所謂勝手口という奴だ。

 そこを避難経路として確保して素早く逃げ出せるようにした。

 

 



 2週間後、ゴードンが援軍を連れて帰ってきてくれた。

 彼は帰ってくるなり俺に頭を下げて謝ってきた。

 

「すまない。だいぶ頑張りはしたのだが、援軍が……」

 

 彼がちらりと援軍の方に視線を送ったので俺も目を凝らして見て見ると、老人と新兵と思しき若者だけなのである。

 それもたったの20人だけだった。

 

「領主様には会えなかったのか?」

 

「あぁ、領主様は中央へ用事をされに行っているとの一点張りでこちらの援軍要請を断られてしまって、なんとか家宰様に頼み込んで出してもらった援軍もこの通り使い物になるか怪しい集団しか貸して頂けなくてな」

 

 流石に地方の一村が危機に陥っても助けてくれないか……。

 本当なら撃退したゴブリンの巣を完全に駆逐してほしかったが、来年の税を納めていたら収穫量の多さから考えも変わっていただろうけど、仕方が無いか。

 

「まぁとりあえず、ゴブリンは撃退できたし、指揮官も排除できた。だから援軍も今回は必要なったからあまり落ち込まないでくれ。それよりも村の修復が必要だし、彼らも1日くらいは接待しないといけないから、その準備を頼んでも良いか?」

 

 俺の慰めにゴードンは顔を上げて頷いてくれた。

 

「わかった。できるだけの接待をして、明日帰還できるように準備しておくよ」

 

 そう言ってゴードンは走っていった。

 その後ろ姿を見送りながら俺は物思いにふけっていた。


 恐らく領主は今回の騒動について知らないふりをする可能性が高い。

 それは、ベクターさんの日記等の資料から見る領主の為人があまり良いものではないからだ。

 特に飢饉に陥りそうな時に種籾まで持って行こうとするのは領主としてやり過ぎだ。

 恐らく我欲が強いか、上がかなり煩いかのどちらかだろう。

 今は耐えるしかないけど、村が発展したら恐らくちゃちゃを入れてくるし、最悪の場合戦争になるかもしれない。

 となると、今の防御施設ではとてもじゃないが守り切れない。

 それにボロボロとはいえ、末端の兵達でも鉄製の武器を持っている。

 青銅じゃなくて鉄と言う事は、こちらの武器は全く通じない状態と考えて良いだろう。

 どうするべきか、色々考えて行かなければならないな。

 

 俺がそんな事を考えていると、マリーが声をかけてきた。

 

「ロイド~、お客様が門の前に来てるから早く来て~」

 

「お~!今行くよ。どんな人たちだった?」

 

「ん~旅の商人って感じの人だったよ」

 

「旅の商人? ここには特産も何もないから来ても意味ないはずなんだけどな」

 

「とりあえず会って話を聞いて、私たちじゃ話を聞いてもわからないのよ」

 

 それはそれで問題だよな。

 と考えながら門の前に移動すると、約20人の隊商とその主人と思しき二十歳前後の女性が門の前に居た。

 

「初めまして? え? あなたが村長ですか?」

 

 そう言って隊商の女主人は驚いた表情をしていた。

 まぁ村長って、普通年寄りがするものだから驚くわな。

 

「えぇ、私が村長をしているロイド・ウィンザーです」

 

 俺はそんな事をおくびにも出さず、にこやかに挨拶をした。

 そんな俺の態度を見て、冗談では無いとわかった隊商の主人は商人の儀容に則り挨拶をしてきた。

 

「これは、申し遅れました。私はスフォルツァ商会、会長の娘でこの隊商の主人をしております。ドローナ・スフォルツァと申します。この度は突然の訪問、失礼いたしております」


 ドローナはそう言うと、にっこりと微笑んできた。

 マリーが可憐であれば、ドローナは妖艶という印象のある美人で笑うとより一層艶やかに見える。

 俺がドローナの笑顔に少し見とれていると、隣に居たマリーから肘鉄が飛んできた。

 

「うぐぅ!……失礼しました。それで本日はどの様なご用件で我が村へお越しになったのでしょうか?」

 

「実は、この近くを通るまでの間に水の入った樽を魔物に壊されてしまいまして、我々は現在、一滴の水も持っていないのです。ですので、水をお売りいただけないかと思いお邪魔させて頂きました」

 

「近くで魔物ですか……、それはゴブリンではなかったですか?」

 

「……っ!良く今の話だけでお分かりになられましたね。その通りゴブリン共にやられまして」

 

「そうでしたか、この村も先日襲われて撃退したところでしたので、逃げた奴らがまた徒党を組み始めたのですね」

 

 俺の言った「撃退」と言う言葉にドローナが驚いていた。

 

「失礼ですが、こんな小さい村で撃退なされたのですか?」

 

「えぇ、ギリギリでしたが、100匹ほどのゴブリンとその指揮官らしき者を撃退しました。なんでしたら村の少し離れた所に石碑があるのでご覧ください。掘り返したらゴブリンの骨が大量に出てきますよ」

 

 俺が100匹のゴブリンと言った事にまた彼女は驚いた表情をしていた。

 

「おっと、ずっと立ち話もなんですね。マリー、隊商の皆さんに水を一杯ずつ飲ませてあげておいて、俺はドローナさんと家で商談してくるから」

 

 俺はそう言うと、ドローナを家へと連れて行った。

 

「ちょ、ちょっとロイド! 私も行くからね!?」

 

「それじゃ僕らの水も用意してきてね」

 

 そう言って手を振ると、彼女は頬を膨らませながら、隊商の人たちに水を配り始めたのだった。


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