幕間 「ロイドの過去」
トップ絵は、千岩黎明さんが描いて下さりました。
本当にありがとうございます!m(__)m
話は少し遡り、ワルターが着て1ヶ月ほどした頃。
彼は、俺の過去を知っている様だったので、元村長宅に呼んで話を聞く事にした。
「申し訳ないです。こんな所まできてもらってしまって」
俺が、そう恐縮して言うと、彼は何でもないとばかりに首を振って話し始めた。
「いや、私が居候させてもらっているのだ、足を運ぶくらいなんでも無いさ」
「左様でございます。甘やかすと若は図に乗ります故、少し厳しめにされた方が宜しいですぞ」
そう、爺さんに言われたワルターは、苦笑しながら「余計な事を……」と言っていた。
こうしてみると、本当の信頼関係を築いているのだなと羨ましくなる。
「でだ、ロイドの過去の話だったな。まずはお前の名前だが、ロイド・ベルド・フォン・マルボルクという名で、私との関係は、従兄弟に当たる」
「従兄弟? という事は、俺は王族だったのですか?」
「一応そうなるな。親の関係で見るなら、俺の父の姉の子供がお前だ」
「ロイド様の父であるマルボルク様は、王国でも随一の内政官でした。数々の献策で王国の財政を豊かにされたのですぞ」
なるほど、それなら俺がここで内政に結果を出しても、彼らにしたら「流石、あの父の子だ」ってとこなのだろう。
「で、俺はどんな家庭で、どんな風に育ったのですか?」
「流石に全てを知っている訳ではございませんが、幼少期は私からお話しましょう」
「うむ、爺やは本当に俺達をずっと見守ってくれていたからな」
まぁ見た感じ50代だから、多分生まれてからずっとだろう。
「まず、ロイド様のお生まれになったマルボルク家は、先程少し話させて頂いた通り、内政手腕を持って王国で歴代の王家に仕えておりました。中でもロイド様の御父上である14代当主のアルフォンス様は、歴代最高の内政官と言われております」
「特にすごかったのは、民の事を考えて政治をすべきだと、私の祖父に対して臆さず啖呵を切った逸話だな」
「えぇ、あの時私も若くして騎士団の副団長を任せて頂いておりましたが、その私よりも若い一内政官が、国王様に対して『このままでは国が亡びる』とまで言い切りましたからな」
……、良く俺の父は生きていたものだ。
「それは、かなり危なかったのでは?」
俺が心配そうに爺さんの方を見ると、彼は苦笑していた。
その様子を見て、ワルターが続きを話してくれた。
「もちろん、最初はお爺様もビックリして唖然としたが、度量は広い方だったから怒らずに話を聞いていたのだ。で、理由がもっともと思ったお爺様は、バルトを内政官の長である宰相の補助官、宰相補に任命されたのだよ」
宰相補とは、内政の長である宰相の執務を手伝うだけでなく、政策の提案を行う実質的な権限も持ったかなり上位の役職である。
その宰相補に俺の父はなっていたそうだ。
「ロイド様は、ご記憶を失われているので良く分からないかもしれませんが、これはかなりすごい事なのですよ。普通宰相補は、何十年も勤め、実力を認められた者で、次期宰相候補なのですから」
「はぁ~、それはかなりすごいですよね? 俺の父はそんなすごい人だったのですか」
「で、そのお前の父に降嫁したのが、父王の姉である叔母だ。叔母は最初降嫁する事を嫌がったそうだが、お前の父に会ってからベタ惚れになってな。すごかったらしいぞ」
母はツンデレですか。
まぁ、降嫁を嫌がる王族なんて良く居るらしいし、むしろ父と上手く行ったのは奇跡と言って良いだろう。
「なるほど、で? 俺はどんな幼少期を過ごしていたのですか?」
「ロイド様は、幼少期は活発でした。ですが、3歳を過ぎた頃から書籍を読み漁り始め、10を数えるころには国立図書館に出入りしておられました。そこでは、学者ですら読み解くのに苦労する文献を何冊も読んでいたのです」
「お陰で私は、お前と良く比べられたよ。お父様には、『ロイドの勤勉さの半分でもあれば』と何度お小言を頂いたか」
そう言って、ワルターは悪戯っぽく肩をすくめて、舌を出した。
そんな彼の様子を爺さんは、ため息を吐き出す素振りを見せながら見て、笑っていた。
「で、お前は俺付きの従者になるべく王城に来たんだ。そこからは俺が話そう」
「では、嘘が混じらないように、私は修正をいたしましょう」
「……。全く、口の減らない爺やだ。っとそんな事は置いといて、お前が俺の所に来てからしばらくは、全くもって面白くない奴だった。なにせずっと本を片手に俺の後ろをついてくるだけだからな。まるで背後霊か金魚のフンだった」
「それは、また随分な嫌われようですね」
「まぁな、だがお前が変わったのは、13の時だ。とある流れの魔術師がお前の頭を触った時から突然お前の人が変わったんだ」
「えぇ、あの変化には私も驚きました。それまで〝大人しい〟と〝真面目〟が服を着ている感じだったロイド様が、突然幼い頃の様に活発に動き始められたのですから」
……、その魔術師って誰だろう?
まぁ、流石にアンドレアでは無いだろう。
何せ彼はハイデルベルクの魔術師をしていたはずだから。
「それからだ。私がお前と馬が合うようになったのは。特に女性関係での話はすごかったぞ」
「……その辺を聞くのは、怖いですね」
「まぁ、あまり聞かれなくても良いとは思いますが、あえてお伝えするならば、今の若とどっこいどっこいと言った所でしょう」
爺さん、それ確実にアウトな人間じゃないか。
俺落ち込んじゃうよ?
「まぁ、そう微妙な顔をするな。私は楽しかったぞ。ちなみにそれくらいの時に私と2人で『どちらがより多く世の女性を愛でるか』という話をしていたのだ」
あの出会った時の第一声は、そこからきていたのか……。
これ、マリーとかに聞かれたら嫌われるかもしれない奴だな。
「ご安心ください。マリー様や他の方には一切お話しておりませんので」
突然俺の心を読まれたので、驚いて爺さんの顔を見てしまった。
すると、そんな俺の反応に気を良くしたのか、爺さんは「ふぉ、ふぉ、ふぉ」と笑っていた。
この爺さん本当に怖いな。
「まぁそんな事もあって、私とお前は友達になったのだが、15の時に成人してすぐにハイデルベルク王国と戦争が起こった。私とお前は、初陣を果たす為この戦争に参加したのだが、俺と一緒に行動していたが、途中で伏兵に攻撃されて俺たちは混乱の中、離れ離れになったんだ」
なるほど、その後で俺はこの体に乗り移った。
恐らく目覚めた時の腹回りの血の量から、刺されたか流れ弾――魔術弾――に当たって元の人格が消滅したのだろう。
どうやって蘇ったのかは知らないが、傷が塞がっていた事から、何らかの超常的な現象が起こったのか、治療をされたのかのどちらかだ。
「それから私は、お前を散々探し回ったが、お前の事を見たという奴は1人も居なかった。その為、不本意ではあったが、私はお前が死んだものと思ったんだ」
「なるほど、それは仕方ない事です。まぁ実際に記憶が無いので死んだのと同じかもしれませんが」
俺がそう言って笑うと、ワルターは少し驚いた様な顔をして、すぐにニカッと歯を見せて笑った。
「そう言ってくれると、気持ちのつっかえが晴れるよ。でだ、ずっと気になっていたのだがな、ワルター様とかさんとか言うの止めてくれないか? 昔呼んでいた様に呼び捨てにしてくれ」
「ですが、良いのですか? 仮にもワルターさんは王族ですよ?」
「そんなこと言ったらお前だって、継承権こそ無いが王族だろ?」
「なるほど、ならわかりました。今度からワルターと呼ばせていただ……いや、呼ばせてもらうよ」
「あぁ、そっちの方がしっくりくる。よろしくな」
彼はそう言って俺に手を差し伸べてきたので、俺はその手を強く握ろうとしたら、ひっこめてきやがった。
「ハハハ、相変わらずその辺は引っかかりやすいな」
「な! どこの子供だ。全く!」
そう言って、拗ねた様な振りをしたが、お互いに顔を見合わせると、二人して大笑いするのだった。
ウィンザー国 マリー、ドローナ
「……、壮絶な好色家だったのですね。ロイドさん」
「えぇ、私もビックリしています。ロイドがそんな人だったなんて……」
「まぁでも、今のロイドさんとは違いますし?」
「まぁ今のロイドとは違うよね?」
私たちは、お互いの顔を見合わせながら考え込んでしまい、それから暫くロイドとの距離感がおかしくなるのだった。
評価p1万越えました。ありがとうございます。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




