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4-16

 どうにか敵を追い散らした俺たちは、堀の周りをしっかりと掃除して、敵兵の死体を回収した。

 もちろん敵兵の頭は首塚に埋葬し、体は硝石に変身してもらう。


「ところで、ワルター王子たちはどうされますか?」


「一応話としては、エリシア女王の所が落ち着いたら送る事になっているが……、あそこ内戦の傷も癒えないまま戦争に突入したからな……」


 普通に考えたら、王国を守り切る事なんてできない。

 ただ、普通で考えられない人も混ざっているからなぁ~。

 あいつに野戦で睨まれて怯まない奴は居ないと思う。


「では、王国が勝ったらワルター王子は王国へ。負けた場合は、逃げていただくかここに居続けるという事ですか?」


「……、それはそれで面倒そうだけど、仕方ないだろう」


 とりあえず、ワルターには人妻や恋人が居る女性を口説くのは、禁止している。

 まぁ不可抗力もあるが、それは断罪対象にしたので、下手な事はできないだろうし、爺やさんが見てくれているからな。


「その爺やさんですが、暫く療養のため動けないそうですよ」


「あぁ~、誰かあれの首に鎖つけてどっかにつないでくれないかな……」


「流石にそれは、どうなんでしょう?」


 俺の愚痴にコーナーが真面目に答えているが、顔が笑っているぞ。


「とりあえず、被害状況はどうなっている?」


「はい、敵の死体は約4千を数えましたが、まだ増えます。対して味方の被害ですが、約200という所で、死者は内50名です。結果から見れば、圧勝と言って良いでしょう」


「50名の内訳はどうなっている?」


「50名は……落馬3名、敵の反撃で死んだ者が40名、その他行方不明が7名ですね。反撃で死んだのは、大半がワルター王子麾下の兵達です」


「こちらの被害は、まぁ最小か……。とりあえず、死者の家には見舞金と税の減免を出しておいてくれ」


「かしこまりました」


 さて、後はハイデルベルク軍の動向だが、どうやって調べようか……。


「おい、ロイド。入るぞ」


 そう言ってズカズカと入ってきたのは、先程まで話題に上っていたワルターだ。


「実は、諜報の件で爺やからここに居る間、部下たちを使ってやって欲しいと言われてな」


「はぁ? なんでそんな事になったんだ? ってかお前あれだろ? 自分の国に帰りたいんだろ?」


 俺が反論すると、彼は顎に手を当てて「う~む」と考える仕草をした。

 いや、絶対仕草だけだ。

 この短い間だが、こいつは頭が下半身にあるのは明白だ。

 

「いやな、爺やがなタダで居候するのは気が引けるし、これまでの間に諜報機関がここにはないことがわかったから、ノウハウを提供したいと言っていてな。流石にお前でもそんな知識は無いだろ?」


「うッ……。確かに無いけど、だからって他国の諜報機関からノウハウ貰うのは、どうなんだ?」


 いや、無くはないのか? ただあまり例が無い話ではあるし、下手したらこちらの諜報結果が爺やにダダ漏れになる。


「なら、こちらが勝手に諜報したことを勝手に流すというのはどうだ? それならそちらにはノウハウは溜まるし、こちらはここを中心に帝国内部の情報を集められるからお互いに取って良いと思うんだが……」


 確かにそれは、嬉しい。

 というよりも、うちの事情から考えれば歓迎すべき提案だろう。

 なにせ諜報機関の諜の字すらないのだ。


 だが、この提案を受けるという事は、ワルターという迷惑材料を今後も面倒を見なければならないという事だ。

 ワルター自身は悪い奴では無い。

 だが、奴の下半身と存在は面倒としか言いようがない。

 

 俺は、様々な事を考えた結果、この提案を受け入れる事にした。


「はぁ、わかった。ではそちらで諜報した内容をこちらにリークするという形で頼む」


「そうか! 受けてくれるか! いや~これで爺やにどやされずに済むよ」


 うん、主従の関係がおかしい感じのする一言を聞いた気がするが、気にしないようにしよう。





帝国 本陣 アレハンドロ皇帝


 此度の遠征は悉く失敗した。

 その一言に此度の軍事行動の結果は、尽きるだろう。


「で? 敵が新兵器を使ったから壊滅したと? 何が飛んできたのかも分からず、轟音だけで人が死ぬなど聞いた事が無い! 世迷言を申すこ奴の首を斬って晒せ!」


「な、お、お待ちください! 私は、私の命は良いので、家族だけは! 家族だけはお助け下さい! 陛下! 陛下ぁぁ!」


 全く、使えない無能を上官に持つ事程、兵達にとっての不幸は無いというのに、図々しい奴じゃ。

 余が、衛兵に連れて行かれた奴を冷めた目で見送ると、1人の文官が目の前で片膝をついて余に進言をしてきた。


「恐れ多くも、臣が奏上いたします」


「……奴の家族の事か?」


 余がそう言うと、目の前の男は一瞬ビクッと肩を震わせたかと思うと、顔を伏せたまま意見を述べてきた。


「はっ! 恐れ多くも陛下の子たる兵達を死なせた事は、誅罰に値いたします。ですが、その子や妻には責は無く、命を取る程では無いかと愚考いたします」


 ふむ、少し胆力が足りないが、中々言いたい事をズケズケという奴だ。

 こ奴の言葉に乗ってやるのも一興、か……。


「良かろう! 主の言を聞いてやる! 奴の妻子を引き取り、養ってやるが良い」


「はっ! 陛下の寛大な処置に感謝いたします」


 さて、責任者は1人では無いが、もう一人は敗れた後雲隠れしたようだ。

 まぁ、そちらの軍に関しては、負けた原因の中にこちらの迂回攻撃が間に合わなかったというのもあるから、降格程度で済ませてやろうかと思ったのだがな。


「逃げた将軍の行方は?」


 余が訊ねると、脇に控えていた黒ずくめの男が報告を始めた。


「残念ながら、生け捕りは不可能でした。森へと逃げ込んだようで、諜報部で発見した時には魔物に襲われ、絶命した後でした」


「そうか、まぁ仕方あるまい。奴の家族を見せしめに殺せ」


「はっ! かしこまりました」


 黒ずくめの男は、そう言うと部屋をあとにした。


 さて、先程の前線指揮官が報告した戦争の顛末が本当だとしたら、面倒極まりないな。

 だが、こちらも合計で3万の大軍を用意してほぼ壊滅したせいで、全く身動きが取れなくなってしまった。


 本国の兵達を連れて来ようにも、敵はこちらばかりではない。

 

「参謀! 現状からどれくらいで次の軍事行動が可能になる?」


 軍部関係者の中から、線の細い男が一歩前に出て答えた。


「はっ! 軍事行動の規模にもよりますが、今回の倍は確実に必要になりますので、戦奴を使ったと考えても、1~2年は必要かと思われます!」


「…………」


 1~2年か……。

 一度帝都に戻るしか無さそうだな。

 余は、一時帰国する事になった。


これにて4部終了です。

あと、幕間が何話か入って、5部に入ります。


ありがとうございます。ついにジャンル別日間1位頂きました。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 失敗した者には死を! 悪の秘密結社みたいですね。帝国とやらは。
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