4-14
翌日の朝、敵軍は前日までの堅実な攻めを捨て、なりふり構わない突撃を始めてきた。
「押せ押せ! 敵は少数だ! 我らが押せば必ず勝てるぞ!」
敵部隊長の良く通る声が、こちらにまで響いてきた。
敵の主力は、約5千程度のはずなので、こちらの約2.5倍に相当する。
一応籠城時の兵力三倍の法則許容範囲ではあるが……。
「一点突破を狙ってきたか……」
「一歩でも対応を間違えれば、こちらの負けですね」
「そうだな。とりあえず、ライズの弓隊とアンドレアの魔術隊で、敵をできる限り間引いてくれ。敵の事だから石の盾とかを少しはもってきているだろうから、アンドレアは最初から矢に風魔術をかけて勢いをつけてくれ」
「矢に、ですか? なるほど、それは面白いかもしれませんね」
「バリスは、ワルターと一緒に歩兵隊を率いて両側を固めてくれ。銃兵隊は、俺と一緒に正面敵が来たら合図で一斉に撃ち抜け」
命令を下すと、全員が一斉に動き出した。
銃兵隊についてだが、彼らは現在100人で一組、計4組居る。
火縄銃等の前装式銃は、装填速度が遅く、訓練を積んだ兵でも1分間に4発撃つのがやっとだったという。
早合があったとしても、数発伸びるのが精一杯なのだ。
それを、訓練すらまともな回数もできてない兵が扱うのだ、1分間に2発撃てれば御の字だろう。
ただ、1分間に2発では、相手に立ち直る隙を与えてしまう。
そうなってからでは遅いので、ここはかの有名な三段撃ちを4段撃ちにして行う予定でいる。
こうすれば、敵兵に対して、1分1発だとしても合計で4発は撃てる。
400発撃てば、敵も驚いて足を止めるし、そう簡単にこちらに向かっては来れなくなる。
「しかし、なぜ鉄砲なのですか? 確かに弓の場合盾などを貫けませんが、音も煙も出さないので、密かに狙うには良いと思うのですが」
ライズは俺の隣で弓隊を指揮しながら、少し不満そうに尋ねてきた。
ライズとしては、自分の仕事が銃に奪われるのでは無いかと危惧しているのだろう。
「確かに鉄砲の貫通力、貫く力は武器として優秀だが、音も必要なんだ」
「音が、ですか?」
「あぁ、この銃火の音が響けば、必ず誰かが死ぬ。それが敵にもわかれば、敵は確実に足を止め、勢いを鈍らせる。それが戦では命取りになるんだ。そして、銃火の音は馬を止める。幸い俺たちは防衛主体だから騎馬を相手にする機会は少ないけど、これが分かっているだけでも相当大きなアドバンテージになるんだ」
そう、戦とは兵数、地理、大将の器など色々な条件があるが、その中に勢いもあるのだ。
勢いは時として、不利を覆す元にもなるし、有利を失う元にもなる。
って、どこかの異世界に行った信長が言っていた事は内緒だ。
説明をしている間に、敵は堀の中に入って来始めた。
そこを、ライズ率いる弓隊が矢を一斉に射掛ける。
「はんっ! そんなへっぽこ矢なんぞに当たるか!」
敵兵が何ぞ悪態を吐いているが、その悪態が終わる前に、アンドレアたちの魔術隊が矢に対して追い風を拭かせる。
猛烈な風に一瞬だけ煽られた矢は、最初のヒョロヒョロっとした軌道から一変して、凄まじい勢いで敵集団めがけて飛んでいった。
「ぎゃ!」
「ひぇ!」
「矢が、矢が途中で勢いを変えて飛んできたぞ! 盾で防げ!」
矢が着弾して少しすると、敵が盾を頭上に掲げて登ってきた。
流石に盾を掲げられると、致命傷を負わす事ができなくなり、最初の様にバタバタと倒れたり、動きを止める者が少なくなってきた。
「敵に対して何度も射掛けろ! 俺達が最後の止めを刺す!」
敵に対してこちらは、継続的に矢を射かけていた。
それに対して、敵が取ってきた作戦は、死んだ味方の遺体を盾にして登るという方法だ。
「人の体か……、酷い行為だが確かに矢は防げるな。アンドレア! 矢に対する魔術を止めて敵の正面に魔術を集中させろ!」
アンドレアは俺の命令に即応すると、敵の正面に火魔術や雷魔術を集中させた。
これには、敵も慌てて味方の死体を放り出し、別の盾を取り出した。
「ん……? 魔術が消えてる、という事はあれには、石の盾か? いや遠目に見ても鉄の盾に見えるという事は、石を取り付けたのか!?」
魔術攻撃は、敵の盾に当たると、霧散していった。
石の一部に当たるだけで魔術が霧散するなんて、初めて見た。
「ロイドさん! 敵に魔術は効かないと考えた方が宜しいかと思います!」
「アンドレアは、敵に対する魔術攻撃を中止! こちらの援護を行え!」
敵は、ついに逆茂木を越えてきた。
矢を乗り越え、魔術を乗り越え、俺たちの目の前、約8メートルと言った所まで来たのだ。
「敵は打つ手がないぞ! 我らの勝ちだ! 突っ込め! 雪崩れ込め!」
敵部隊長は、愉悦の表情を浮かべ、兵達を鼓舞していた。
だが、こちらの罠に嵌ったのは、貴様らだ!
「第一銃兵! 撃ち方用意! 放て!」
命令と同時に、100丁の火縄銃が、一斉に轟音と言えるだけの砲声を挙げて敵目がけて銃弾を発射した。
「え゛? あぎゃ」
「い、痛い、痛いよ~!」
「あ、あれ? 俺の頭の右側は? あれ゛?」
敵から悲鳴と、悲痛と、怨嗟の声が響き渡った。
あぁ、ついに、ついにやってしまった。
守る為といえ、恐らくこの世界の歴史に残る虐殺の号令を下したのだ。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
「第一銃兵下がれ! 第二銃兵構え! 放て!」
この3言だけだ。
たったこの3言で敵兵は、次々倒れ、そこかしこで阿鼻叫喚の地獄が展開された。
一発の銃弾で一人ではなく、二人、三人の首を貫き、胴にめり込み、人を糞袋に変えていった。
「ここまでとは……」
ライズとアンドレアの二人が、目の前で展開される地獄絵図に自分の攻め手を止めて見入っていた。
敵はというと、それでも退く気配を見せる事は無かった。
まるで何かに背中をせっつかれているのか、死神に魅入られたのか、恐怖しているものの、誰一人として下がっていない。
「ライズ! アンドレア! 手を止めるな! 敵はまだ来るぞ、足を止めろ!」
俺の喝に我に返ったのか、攻撃を再開した。
銃兵も最初こそ恐怖があり、硬くなっていたが、敵が混乱している事を知ってから少し動きが早くなった。
「次! 第三銃兵! 構え! 放て!」
三度目の斉射を行うと、敵兵が崩れ始めた。
やっと銃声と死が結びついたのだろう。
恐怖して後ろに崩れそうになった。
そう、崩れそうになったのだ。
なったのに、あいつら後ろから味方を刺して前に出る様に促しやがった!
「ひ、ひぃぃ!」
「や、止めてくれ! 下がらせてくれ!」
「あんなの相手に勝てねぇよ! 助けてくれよ!」
敵指揮官を追い詰め過ぎたのか、はたまたこちらを是が非でも落とさねばならない理由があるのか、恐ろしいまでの執念、いや怨念と言っても良いだろう。
だが、それもこれまでだ!
「アンドレア! 信号弾赤!」
合図を送ると、アンドレアが上空に向かって、ファイヤーボールを打ち上げた。
その合図とほぼ同時に、少し離れた場所から砂煙を巻き上げて迫る一団があった。
これが、敵にとって止めの一撃となるのだった。
次回、決着です。お楽しみに!
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