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4-13

少し長い目です。

ウィンザー国 爺や


 さて、私が託されたのは、100人の兵による敵軍への奇襲と言う名の嫌がらせです。

 戦争とは、嫌がらせをお互いにして、より相手が嫌がる事をしたら勝てる、とおっしゃっていましたが……。

 その割にあの方は、心優し過ぎるのでは無いかと心配になってしまいます。


「隊長、あと少しで敵軍の野営地です」


 私が作戦をどうやって成功させようか考えていると、少し前から元副隊長が声をかけてきました。

 彼が居てくれるお陰で、私としてはかなり助かっています。

 なにせ、物思いにふけっていても、作戦行動の基本である部隊統率をして、行軍を勝手にしてくれるのですからね。


「さて、今回の目的は、あくまで敵軍の後方かく乱です。恐らくここで指揮官を暗殺しても、意味が無いと判断されたのでしょう。我々の目標は、兵糧です」


「隊長、兵糧を狙うだけですか? そんなの我ら100人も必要ないのでは?」


「確かにそうかもしれません。ですが、敵は開けた場所とは言え、道に陣取っていますから分散されている可能性が高いのです。そして、事前の情報は皆無です」


「え……? 隊長も何も聞かされていないのですか?」


「えぇ、残念ながらあの国には、まだ諜報機関がありませんからね」


 私が肩をすくめてそう言うと、その場にいた100人全員が信じられないといった表情をしていました。

 それもそのはずです。

 防諜するにしても、なんにしても諜報機関というのは必要不可欠なものです。

 それが国家であれ、貴族領であれ、秘密保持の観点からそこそこ発達しているはずなのですが……。

 

 まぁ、国が出来て半年程度では、諜報機関を設立する事すらできていないのもわかります。

 後は、まぁハリス君などが上手く諜報員として育ってくれると良いのですが。

 彼は、私の見たところかなりの才能を持っている様に見えます。

 武術的にも、人格的にも、知能的にもです。

 懸念材料は、ちょっと忠誠心が変な方向に行きかけている所くらいですね。


「と、言う訳で、我らの任務は『敵陣営に潜入し、敵兵糧庫を全て破壊する』という事になります。任務はいつも通りの4人1チーム、5チームで行動を行います。良いですね?」


 私がそう言うと、全員が頷き拳を突き上げて唱和する。


「祖国に仇なす我らが敵に、正義の鉄槌を」


「では、散開!」


 号令一下、各チームが敵陣目がけて走り出しました。

 私のチームも遅れぬように、敵後方を目指して移動を開始しました。


 敵陣の後方に移動初めて30分、ようやく目的地に着きました。

 流石に警戒が厳重だったこともあり、後方に近づくのに苦労しましたが、前方ではすでに兵糧の焼き討ちが始まったのか、混乱が後方にまで伝わってきました。


「これは、都合が良いですね。敵は前方に集中しています。この隙に、敵の懐深くに侵入しましょう」


 私と共に来ていた隊員が、前方に見える敵兵に、吹矢で毒矢を吹きかけて倒すと、一気に雪崩れ込みました。


 さて、敵の兵糧はどこにあるのでしょうか……。

 辺りを見回すと、大きな天幕の1つに火が灯っていませんでした。

 恐らくあれでしょう。

 燃料の消費を抑えるなら、兵糧庫を一番に削りますからね。

 当たらなければ、まぁ無差別放火に切り替えれば良いだけです。

 

 私は、目標を確認したことを目で合図すると、走り始めました。

 敵兵は、ほぼ全員が、前方で起った火の手や混乱に慌てふためいているおかげで、私たちの侵入には気づいて居ないようです。

 

 兵糧庫と思われる物を確認し、周囲を見回すと、4人程見張りが立っていました。


「流石に厳重にしているようですが、まぁ大丈夫でしょう」


 私が手信号で、味方に合図を送ると同時に、敵兵4人はもんどりうって倒れました。

 さて、これで中を確認して兵糧なら燃やして終わりです。


 そう思って中に入ろうとした時、突然後ろから警笛の音が響き渡ったのです。

 えぇ、完全に油断しておりました。

 見張りの兵のうち一人が、急所が外れて生きていたのか、死んだふりをしていたのです。


「……っ! 敵兵が集合する前に離脱しますよ!」


 私がそう叫ぶのと同時に、敵の兵達が集まり始めました。

 敵を褒めたくはあまりありませんが、流石帝国兵です。

 混乱の中に在っても、警笛の音1つで異常のあった場所に隊を組んで走ってくるのですから。


「隊長! 敵は10名の小隊規模! 突破しますか!?」


 その10名を倒したとしても、意味は余り無いですね。

 恐らくまだまだ寄ってくるでしょうから、敵が集合しきる前に撤退するのが一番です。


「いえ、そちらは放って置きなさい! 一番集合の悪い所を狙って離脱しますよ!」


「はっ!」


 見張りの兵が周囲を見回して、見つけたのは、更に敵の奥地へ――ニュールンベルクの地へ――と行く道でした。


 仕方が無いですね……。

 敵兵が考えるのは、砦からの攻撃ですから、砦方面は固められるでしょう。

 

「では、敵中へ突破を試みますよ! 殿は敵の遅滞を優先してください!」


「はっ! 隊長! あの世でお会いしましょう!」


 敵中での殿は、=死ねという事です。

 せっかく助けたのに、せっかくまた一緒に仕事をできると思ったのに、致し方ないといえ本当に……。

 自分の馬鹿さ加減が憎い!






帝国軍 第二軍 ベルナンド・ヴィ・ジョルジェ


 夜、農民兵を相手にしているという事もあって、安心して眠っていたらこれだ!

 

 兵達には一応夜襲を警戒する様に通達していたが、まさか本当に夜襲があるとは私も含めて思っていなかった。


「舐めてはいけないと思って、堅実な方法をとったのに、どこかまだ油断していたところがあったのでしょう……。被害情報はまだか!」


「はっ! 敵侵入により少数の被害が出ております! 敵の数、目的は不明! なれど、糧食を狙っている様にも見えます!」


 糧食を、だと……!?


「い、いかん! 糧食だけは何としても死守せよ! 焼かれた場所は水をかけてでも守るのだ!」


 糧食が無くては兵が、士気が崩壊してしまう!

 ただでさえ皇帝陛下の不興を買いそうな状況なのに、これ以上の失態は言葉通り、首を飛ばされてしまう!


「敵の撃退、捜索を半数に! 残りの兵で少しでも糧食の保護を優先しろ!」


 その後、鎮火はしたものの、被害にあった糧食は、約半分が消失、残り半分のうち半数が生焼け、半数が水浸しという、とんでも無い状態になった。

 無事に残った兵糧は、後方の1千人分のみだ。

 現在の部隊の人数は、約5~6千人。

 1日分の食料にもならない量なのだ。


「敵に対する攻撃の断念を進言します」


 各隊長級を集めた席で、冒頭一人の男がそう進言してきた。

 その進言を聞いた他の隊長たちが、全員頷かないまでも目で彼の意見に賛成をしていた。


「我が軍は、食糧がありません。次の兵糧輸送は、早くとも1週間後です。これではいくら何でも攻勢を維持できません」


 常識的に考えれば、彼の意見は至極まともなものだ。

 ただ、ここで断念するという事は、私の命も断念せねばならないという事に他ならない。


「……いや、攻囲は続ける。相手だってそう余裕があるわけであるまい?」


 私はすがる様な想いで、彼らの意見に反対をした。

 もちろん、これが自分の抱いている妄想だという事は分かっている。

 だが、栄光ある帝国軍が、こんなちっぽけな、我が祖国の100分の1の国が、我らを退けたなどという風聞が立てば、祖国の威信にも関わる。


「それに、な、我らが一矢も報いれないとなれば、貴官らの出世にも影響するぞ?」


「…………」


 この一言には、流石に思う所があるのか、彼らは押し黙った。

 そう、こんな小国に敗れた将官の行き場など、祖国には無いのだ。


「だから、な? ここは攻囲を続けるか、撤退するにしても敵に少しでも打撃を与えなければならないと、私は考えているんだよ」


 そう、いくら負けたといっても、相手に打撃を与えたという事実があれば、最悪罷免で済む。

 死罪を免れる可能性が私には出てくるのだ。

 もちろん、ここに集まっている部隊長も、出世は遅くなるだろうが全く芽が無くなる訳では無い。


「……。わかりました。私は指揮官殿の意見に一部賛成します。敵に打撃を与えた後、すぐさま離脱し、本国に撤退する。若しくは、敵を蹂躙して食料を確保する、という事でどうでしょう?」


 おぉ、これで、どうにか、どうにか死罪を免れる可能性が出てくる。


「作戦ですが、堀は埋められていません。ですが、敵の行動から農民兵が主体なのは明らかです。ならば、兵数、質で勝る我らは、波状攻撃で敵を圧倒しましょう」


「よし! その作戦で各々異存は無いか?」


「……。かしこまりました」


 どうにか、助かった……。

 後は、どれだけ被害を出しても、敵を屠ればそれでどうにかできるはずだ……。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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