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4‐12

「敵、撤退しますが、追撃しますか?」


 敵軍の指揮官は余程慎重なのか、こちらの攻撃を見て、一瞬で判断を変えてきた。

 追撃してもう少し痛手を負わせたいところだが、多分無理だろう。

 部隊指揮官も優秀なようで、こちらに追撃の隙を見せないように、ラインを守って徐々に下がっている。


「いや、あれだけ秩序だって引かれたら無理だ。追撃はせずに敵軍が完全に引いたら、戦場掃除を行う様に通達しろ」

 

「はっ!」


 俺の命令から数時間後、堀の両側に居た数千の死傷者を運び込み、止めを刺した。

 本当なら止めを刺したくは無かったのだが、逃がしたり手当をする事は出来ないと言われ、仕方なく殺す事にした。

 

 まぁ確かに、逃がすというのは無理だが、捕虜を殺すというのはあまりいい気分ではない。

 とりあえず、彼らの首については、夜間に門前に晒す事になった。

 これで、指揮官以外が逆上して来てくれたら良いのだが……。


 しかし、今回の作戦、題して「熱湯&雷風呂」――アンドレア命名――というふざけた名前だが、敵にとっては大打撃だろう。

 熱湯をかけたのは、敵を怯ませる為、その熱湯を媒介にして雷を落とせば、あら不思議。

 熱湯を被ってない場所に居る兵達も一斉に感電するのだ。

 ただ、下が土だから大丈夫かどうか不安だったが、お湯のお陰で電気の伝わりが良くなっていた事と、正規兵が鉄製のグリーブを履いていた事が成功の理由だろう。


「敵の損害はどれくらいだ?」


 俺の隣に板を片手に近づいてきたコーナーに聞くと、彼は板に目を落として報告してきた。


「敵の損害ですが、概算で約1千5百といった所でしょう。退却する敵がそこそこの数を連れて帰ったので、まぁ全体では、2千行くかどうか、という所です」


 約2千の損害か……。

 相手が7千なら、損害約3割で退却を判断するレベルだが、多分撤退してくれないんだろうな……。


「そうか、とりあえず今日は、見張り以外皆休むように言っておいてくれ」


 俺がそう言うと、コーナーは一礼して出て行った。





 翌日、敵は昨日とは打って変わって、かなり慎重な攻めを見せた。

 まず、例の石の盾でガードをしながら歩を進めている。


「……。敵の狙いは何でしょう?」

 

 俺の横で、アンドレアが敵を凝視しながら話しかけてきた。


「前からの戦闘に比べてかなりどっしりと攻めて来たな……。指揮官が変わったのか、それとも方針転換があったのかもしれん」


 そう言いながらも俺は、恐らく後者であろうと考えている。

 その理由は、敵の戦力的な事情だ。

 恐らく本軍の方針が変わったのだろう。

 彼らが俺たちの国を狙う意味は、殆どないのだ。

 理由はいくらかあるが、最たるものが数だ。

 我が軍は今でこそ2千名程度に膨れているが、元は帝国が捕虜にしていたニュールンベルクの兵達が半数だ。

 

 そして、それを差し引いたら農民兵が1千だ。

 たった1千の農民兵が正規軍を相手に戦えるかと言ったら、残念ながら不可能だ。

 そう、彼らは本来無理攻めする必要のない所を攻めているのだ。

 恐らく昨日までの思考は、「時間が無い」だったのだろう、それがここ数日ここで足止めされると考え、「ハイデルベルク軍の壊滅よりも、この砦を落とし切ろう」という思考になったのだろう。


「さてはて、参ったものだな……。恐らく敵軍の指揮官はかなり冷静なタイプだ」


「冷静な指揮官が相手だと困るのですか?」


「正直、かなり困る。こちらがいくら殺し間(キルゾーン)を作っても、敵が来なかったり、慎重に行動されたら敵の被害が減ってしまって、意味が薄れてしまう」


 そう、それが意味するのは……敗北だ。

 こちらの切り札である火縄銃は出来る限り見せない、出すなら虐殺するくらいの一方的な戦果と引き換えにしなければならない。

 そうしなければ、恐らく敵は何度も攻めてくる。

 それも短い間隔で……。

 そうなれば、体力的に厳しいのはこちらだ。

 墨家の二の舞になる事はほぼ確実だろう。


「敵第一波が、堀まできました!」


 見張りの兵からの報告があったので、敵軍をもう一度見て、俺は寒気が走った。

 敵は、堀を埋め始めたのだ。

 それも味方の死体から衣服を剥いだのか、ボロボロの布に土を溜めては落とすという、土嚢による穴埋めだ。

 

「拙い! アンドレア、穴を広げる事は出来るか!?」


「無理を言わないでください! 広範囲の土魔術は距離がかなり短いのです。敵の目の前に行かなければ、意味がありませんよ」


 なぜだ? なぜこんなにも早く敵はこちらの堀を埋めるという発想に到った?

 敵指揮官の頭が柔らかいのか?

 いや、もしかしたら俺が、現代知識を使って技術を開発しているのが原因か?

 俺の技術にこの世界の人間が影響を受けたというのか?

 分からない……。

 ただ、この教科書のお手本のような回答を導き出したという事が驚きだ。


「弓兵隊! 敵に対して矢の弾幕を張れ!」


 俺の命令と同時に、ライズが号令をかけて何度か斉射を行った。

 敵は、怯んだ様子を見せずこちらの堀に土嚢を投げ込み続けている。


 火縄銃を出すか?

 いや、ただでさえ火薬が少ないのに、当たるかも分からないこんな距離から撃たせては、すぐ弾切れになってしまう。

 どうすべきだ?

 どうしたら良い?


「……さん、……ドさん! ロイドさん!」


 相当悩んでいたのか、アンドレアが近くで怒鳴った事に驚いて彼を見ると、優しくけどハッキリと忠告をしてきた。


「あなたが狼狽えたり、頭を抱えてはいけません。兵達の士気に関わります。まずは、対応策を考えましょう。幸い敵も堀を埋めるのに苦労していますから、暫くライズさんに弓隊の指揮を一任しましょう」


「あ、あぁそうだな。すまん、少し頭が混乱していた。助かったよ」


 俺がそう言うと、彼は頷いてきた。

 その後、伝令を飛ばし、ワルター、爺さん、アンドレア、俺の四人で作戦会議を始めた。


「まず、現状の整理だ。敵の指揮官は余程冷静なのか、力攻めではなく堀を埋めるという手を使ってきた。堀を今日中に埋めるという事は流石にできないだろうが、明日か明後日には埋まる可能性がある」


 俺の現状説明に、その場にいた全員が息を飲んだ。

 これまで難攻不落の構えを見せていた堀が、落ちる可能性があるのだ。

 そうなると敵軍は、夜も火を焚いて堀を埋めてくるかもしれない。

 

「こうなると、迂回戦術を取るのも1つですな……」

 

「あぁ、爺やの言う通りだ。ここでの防衛施設だけを盾に籠っても危険があるなら、最悪夜襲を仕掛けても良いかもしれない」


 爺さんの提案にワルターが乗っかる形で頷いているが、正直俺としてはあまり良い手段とは思えない。

 まず、夜襲とは高度な訓練を行った兵達で無いとできないと言う点。

 そして、作戦目的を常に修正し、損害を極力減らしながら敵に多大な犠牲を強いる判断をする指揮官の腕が必要だ。

 この二つのうちどちらかだけでも欠ければ、失敗する可能性が格段に上がる。


「夜襲はあまり気が進まない。こちらは基本農民兵だし指揮官が居ない」


「指揮官ならいるぞ、爺はこれでもニュールンベルクの特殊部隊隊長でな。今も現役バリバリなんだ」


「ほっほっほっ、若その様に褒めても何も出ませんぞ」


 あぁ、なるほど。

 なんでワルターが、俺の街に無事についたのか疑問だったが、合点がいった。

 爺さんが抜け道をあちこち知っていて、それを通って逃げおおせたのだろう。


「特殊部隊の隊長は分かったが、部隊員が居なければ意味がない。その当てはあるのか?」


「ロイド様、宛ならございますぞ。先日の捕虜の中にざっと100人程元部下が居りました。簡単な夜襲での攪乱なら十分な人数です」


 おいおい、100人で5000人に奇襲って、どこの鈴付けた川賊ですか。

 ただまぁ、人数が多ければ良いという訳でも無いのも事実だ。

 多すぎれば、恐らく奇襲がバレて逆襲されるだろう。

 そうなっては目も当てられない。

 

「……、爺さん成功率は?」


「そうですな……誰も鈍ってないと考えて7、8割でしょう」


 7,8割か……。

 ここは賭けるしかないな。


「わかった、爺さんの提案に乗っかる。では、作戦目標を決めるぞ」


 それから、俺たちは敵軍夜襲計画の詳細を詰めるのだった。


昨日19時からの日間ランキング~異世界転生、ファンタジー部門~にて、80位に入りました。

ありがとうございます。m(__)m


今後も頑張ってまいりますので、ご後援よろしくお願いします。m(__)m

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