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4-8

残酷回です。

耐性の無い方はお気を付けください。

敵軍 帝国軍第一軍 ゲイル・フォン・エディンバラ


 敵は、魔術を使ってきたが、こちらの石の盾によって防ぐことができた。

 それからは、慌て始めたのか、魔術規模の小さいものを何発も放ってきている。


「これは、かなり慌てているな……」


「敵の攻撃は散発的です! また矢も魔術も石の盾で防げているので、損害は軽微です!」


 損害軽微というのが、何とも言えないが、まぁ石の盾も隙間なくあるわけではない。

 隙間があると、どうしても運の悪い奴が、敵の矢にあたって負傷してしまう。


「さて、敵は慌てている様だ、このまま一気に進みたいが……、これ以上の速度は無理だな」


 この作戦で一番のネックは、速度だ。

 石の盾はかなり厚めに切ってあるため、持って移動するとなると、かなり遅くなる。

 どれくらい遅いかというと、正直言って牛の足くらいだ。

 いや、牛の足は言い過ぎだな。

 蟻の全速力くらいだろう。


「敵軍の魔術師が、今度は一点集中して魔術を使い始めましたが、どうしましょう?」


「そんなもの放って置け、この距離で隙間を通すなんて不可能だ。それこそ、離れた場所にある針の穴に糸を通す様な物だ」


 だが、まぐれ当たりというのは、何故か出てくる。

 敵の魔術師は3人ほどいるのだろうか?

 さっきから線状になった魔術が飛んでくるのが隙間から見える。

 もちろん魔術は全て石の盾で霧散しているが……。

 近づいたらどれくらいの確率で穴を抜かれるのだろう?



 それから暫くの間、こちらはゆっくりと前進を続け、敵はそれに対して矢で応戦するという事を繰り返していた。


「しかし、この砦は一体どうなっているんだ? 前に見に来た事はあるが、ここまで地面を掘って土を盛るなんて発想は、見た事も聞いた事もない」


「密偵の最後の報告では、ここの国主が考えたそうですが、正直、元田舎の村長が考えたとは思えない防衛施設ですね」


「あぁ、これほど人を殺しやすい防衛施設は滅多に見かけない。特にあの『ほり』とかいう施設は、明らかに敵を誘引して殲滅しようとしている形だ」


 凹凸部分に入り込んだら、と考えるとかなりゾッとする。

 実際にその様子は、昨日の先鋒隊を見ていて良く分かる。

 だからこそ、真ん中を通るのが正解だと考えたが、どこまで行けるか……。


「敵が砦から出てきましたぞ! こちらの盾を叩くつもりでは?」


 考え事をしていると、敵が砦から出てきて野戦を挑んできた。

 これは、良い。

 敵をどうやってあの砦から出そうかと迷っていたが、自分たちから出てくれるとは、ありがたい。


「よし!敵が近づいて来たら盾を倒して応戦しろ! 敵はしょせん弱兵! 我らの敵では無いぞ!」


「おぉーー!」


 俺がそう気を吐くと、兵達も雄叫びで答えてきた。

 

「敵兵来ます!」


 見張りの声が響くのと同時に、敵方向に石の盾を倒して応戦を始めた。

 敵はこちらが何の準備をしていないと思っていたのか、槍を突き出されて慌てふためいた。


「見ろ! 敵は慌てている! 今こそ帝国兵の力を見せてやるぞ! かかれぇ!」


 敵兵は、こちらの雄叫びと槍衾に驚愕して、逃げ始めた。

 

「一戦も交えずに逃げるか! 者ども! 敵に続いて砦に入り込んでやれ!」


「おぉーー!」


 命令を聞いた兵達は一斉に走り出し、敵の砦に向かって行った。

 だが、少しずつ追いかけている敵よりこちらの方が遅れてきた。

 理由は簡単だ。

 来ているものの差だ。

 こちらは比較的しっかりした胸当てに兜などを装備しているのに対して、敵は、基本的に皮鎧だけで走っているのだ。

 そうなれば、どちらが早いかなど、火を見るよりも明らか。

 こちらが遅れてくる。

 だが、敵は見落としている。

 いくら我らが遅いと言っても、距離にしてすでに20mを切っているのだ。

 いくら遅いと言え、一緒に雪崩れ込む事くらいできる。


「この距離だ! こちらが砦に入れば勝ちは決まったも同然だ! 走れ!」


 この命令に兵達も気を良くしたのか、より大きな雄叫びを挙げながら砦めがけて走り、入り切った。


「……ん? 入り切った?」


 俺が、どこかおかしいと感じた瞬間、退路を断つように敵の門が落ちてきたかと思うと、上から声がした。

 

「帝国兵諸君ようこそ! 我が砦へ! 今日は君たちに心ばかりの馳走をして差し上げよう」


 俺は、ハッとして辺りを見回すと、それまで目の前に居た敵兵の姿が見えない。

 いや、そればかりか、門すらも土塁で見えなくなっている。

 

 そうやって辺りを見回していると、上から何か降ってきた。


「冷た! ……この臭いは……、まさか!」


 俺がそう思って上を向くと、火のついた縄が落ちて、地面に着いた。

 それと同時に地面が燃え始めた。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 それと同時に辺り一面が勢い良く燃え始めたのだ。

 奴ら、俺達をおびき出して、砦の中で火攻めにしやがった!

 あ、あぁ、い、いやだ!

 こんな、こんな死に方あんまりだ!


「た、助けてくれ!」

「ひぃぃぃ! あ、熱い! 熱いよぉ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 あちこちで阿鼻叫喚の叫びが、俺の聞いた俺自身の最後の言葉でもあった。




ウィンザー国 ロイド


 今俺の居る櫓の下からは、帝国兵達の阿鼻叫喚の叫び声と人の焼ける何とも言えない臭いが漂っている。


 彼らには申し訳ないが、この世から消滅してもらう事になった。

 外には、堀の前で右往左往している兵達が居るが、彼らは指揮官不在となってしまい、どうして良いのか分からないと言った状態だ。


 こうなると軍とは脆いものだ。

 そして、そんな状態の中、アドルフ率いる騎馬隊が突っ込んできたのだ。

 彼らは蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すのだった。


「アドルフさん! いいタイミングで来てくれました! 敵軍の野営地が少し先にありますから、そこを占拠して物資を回収してきてください!」


 俺は、虎口内で叫び声をあげている彼らが死に絶えるまで出入りできないので、アドルフに物資の回収を頼むことにした。

 彼は、ハンニバルの腹心の中ではかなり信頼できる人物だと思っている。

 まぁ、根拠は少ないのだけどね。


「わかりました! ロイドさんはどうされるんですか?」


「こちらは、戦場を綺麗にしなければなりませんから、後ほど間に合うようならそちらに向かいます!」


 俺がそう答えると、兵達を制御するためにアドルフは騎馬で走り去った。


 さて、敵兵たちはどうなったかな……。

 あれから悲鳴が聞こえないという事は、多分もう大丈夫だろう。


「アンドレア、屋根の部分を少し開けて、そこから水を流し込んでくれ」


「わかりました。少し離れておいてください。あと、子ども達は村に返しますか?」


「あぁ、彼らにはもう帰っておいてもらおう。恐らくかなり悲惨な状態になっているだろうからな」


 俺は、子ども達にすぐに村に帰るように伝えると、アンドレアの様子を見ていた。

 指示をしたのは俺だから、どんな悲惨な結果になろうと見届ける義務があると思ったからだ。

 そんな俺の決意を知ってか知らずか、アンドレアは何度も「他の仕事をされては?」と俺を遠ざけようとしていた。

 それでも動かなかった俺に、彼は諦めたのか虎口を覆っていた土を元に戻し始めた。


「はぁ、あまり気分の良いものでは無いですよ。火攻めの後処理なんて」


 彼がそう言うのと同時に、肉の焦げ付いた臭いと同時に、アンモニアや生臭さが辺り一面に漂った。

 流石に覚悟をしていた俺も、その臭いには喉の奥から酸っぱい物がこみ上げてきた。


「う、うぇぇぇ……」

 

 それは、臭いだけではなく、彼らの苦悶の表情や、数千という兵が焼けて死んでいる風景が単純に気持ち悪かったのだ。


「あ~あ、大丈夫ですか? だから気持ちの良いものではないと言ったのに」


 アンドレアは俺の背中をさすりながら、声をかけてきた。


「死体についてはどうしますか?」


「うぅ……、焼けた死体では硝石はほぼ作れない。彼らについては、耳と鼻を削いで首だけ集めて帝国方面へ馬を走らせてくれ。体や削いだ部分は、丁重に弔ってやってほしい。」


 俺の言葉を聞いたアンドレアは、一瞬ギョッとしたものの、俺の指示を兵達に通達したのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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