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9月9日老婆たちが戻ってくる場所を城→村に修正。ちょっと気が早すぎました|д゜)
「行ケ、奴ラヲ喰ッテシマエ」
ゴブリンたちが金切声で鬨の声をあげ、襲い掛かってくる。
こちらは成人男女30名、老人4名、高学年くらいの子供が3名の計37名で迎撃をする。
残りの13名は飯炊きと迎撃の為の槍を渡す係りの子供達に乳幼児が少しだ。
「敵が攻めてくるぞ!入り口のストッパーを確認しろ!閂もして絶対に破らせるな!」
敵は正面から横に広がって攻めて来た。
堀があるのは見えているが、低脳なゴブリンではその意味も解らずただ突っ込んでくるだけだった。
柵の間から槍を突き出して、よじ登ろうとするもの、柵を壊そうとするものを突き殺していった。
「ギャー! 痛イー!」
「ナゼダ!? 上手ク登レナイ!」
「退ケ一度退クンダ!」
ゴブリンたちはこちらの抵抗が予想以上に激しかったからか、距離を取って様子を伺ってきた。
「ロイド村長! 今追撃すれば俺達の勝ちになるんじゃないか!? なぜ追撃しないんだ?」
「無茶言わないでくれ!いくらゴブリンが死んだり怪我したと言ってもまだ20匹も倒してないんだ!今追撃すれば確実に逆撃されてこっちが壊滅だ!」
「うぅ、村長がそう言うなら行かないが、本当に守ってるだけで良いのか?」
「あぁ、大丈夫だ。ゴブリンは元々用心深く小心者な傾向がある。あいつらは無理攻めできないはずだ。それに攻めるとしてもこの正面の門以外は堀で足を取られる。奴らの身長では堀を越えるのすら難しい」
俺がそこまで言うと、追撃を進言してきた村人は黙ってくれた。
俺達が話をしていると、ゴブリン達も次の手を考えついたのか、また攻めて来た。
「村長!次は真直ぐ門を目掛けて走って来やがる! ってあれは倒木を持ってきているぞ!」
その報告を聞いて俺は驚いた。
低脳と言われるゴブリンが原始的とはいえ破城槌を考えて行ってきたのだ。
「不味い! 敵は門を攻略する気だ! 少し早いが門前の罠を使え!」
俺がそう命令すると、門の前に予め設置していた罠が発動し、火柱を上げた。
俺が仕掛けたのは、道に予め油を染み込ませた枯草を配置し、その上からさらに油を撒いたものだ。
枯草だけでは火矢が届かない場合大変な事になるので、油を撒いておいたが、予想以上に良く燃えている。
流石にこの炎を見た破城槌のゴブリンは怯んで足を止めてしまった。その間にこちらは、弓の名手であるライズが、一匹ずつ射殺していった。
ライズが4匹ほど殺した所で、最初に破城槌を持ってきたゴブリンが逃走を開始した。
これを見たゴブリンの司令官らしき個体は、きぃきぃ声でがなり立て、全軍に突撃を指示した。
「敵がまた全軍突撃を開始しました!」
「ライズ! 敵の指揮官らしき奴は射殺せるか!?」
「無理です! もっと近ければ撃てますが、遠すぎて矢が届かないか、届いても威力が弱すぎて殺せません!」
どうやら敵の司令官は弓の飛距離を感覚で分かっている様で、上手く距離を取っている。
「敵の先頭が堀に突っ込んで、後続部隊の橋を作っています!」
「近づく奴から槍で討ち取ってくれ! 手が空いたら下で足場になっている奴を始末して!」
敵の指揮官はそこそこ頭が良いらしく、兵が死んでも足場が確保できる策を使ってきた。
だが、それでも足場が悪いため、素早く動けない個体が居ると、そこを柵から一突きして堀の下に落としていった。
戦端が開かれてから6時間以上が経過した頃、ゴブリンの数が目に見えて減ってきた事がわかったが、訓練も碌にできていない村民達も消耗し、殆どの者が肩で息をし、槍を杖代わりにしている状態だ。
「はぁはぁはぁ……。これ以上来られるとこっちは、そろそろ危ないな……」
「て、敵、がまた攻めてきます。数は、30です」
物見を兼任しているライズから報告が来たが、正直誰も槍を突ける状態では無い。
「皆!後、後一息だ!最後の一突きで、一人一殺で良い、それだけできれば敵は登ってくることもできないはずだ」
俺が最後の檄を飛ばすが、返事は全くと言って良い程返ってこない。
「行ケ、後、少シダ」
敵の指揮官が声の聞こえる距離まで近づいてきたが、ライズの矢筒にはもう矢が無くなっていた。
一応弭槍の様に弓の先端に刃物はつけているものの、正直自衛の為だけで、敵が近くに居ないと意味がない。
そんな事を考えている間にも敵は堀を越え、柵の近くまで来始めていた。
「死んで!堪るかぁ!」
俺が最後の力を振り絞ってゴブリンを突こうとしたが、握力が無くなり、槍を放り投げる形になってしまった。
「あぁ、これで終わりか……? あれ?」
俺の投げてしまった槍は柵の間から通り抜け、放物線を描き、なんとゴブリンの指揮官の太ももに直撃し、刺さってしまったのだ。
「ギャーー! 痛イ! 痛イ!」
指揮官が叫ぶ声を聴いたゴブリンたちは、これまで堪えていた不安と恐怖が爆発し、蜘蛛の子を散らす様に一目散に森へと逃げて行ったのだ。
「待テ、俺ヲ置イテイクナ!待ッテクレ!」
足を怪我して動けなくなったゴブリンの指揮官は他のゴブリンに見捨てられ、1人村の前に取り残されていた。
ただ、こちらも余力も全て使い切ってしまったので、もう立つ事もできなくなっていた。
「だ、誰かあいつに止めを……」
そう俺が呟くと、今まで隠れていた老婆たちが出てきた。
彼女達には最悪の場合に備えて裏山近くで待機してもらい、俺達が負けた時は赤子や幼児たちを連れて山へ逃げ、村の再興が出来る様にしていたのだ。
だが、ゴブリン共が逃げていくのが見えた彼女たちは、幼児を連れて戻ってくると、取り落とされた槍を持ってゴブリンの指揮官の周りを囲ったのだ。
「ベクターの仇じゃ! あまり近づかず、一気に行くぞ! そぉーれ!」
「ギャー! 痛イ! 助ケテ! 痛イ!」
老婆たちは一斉に槍を突いたのだが、彼女たちの弱い力では、一気にゴブリンの急所を突き刺す事ができず、何度かにわたって滅多刺しにする事になった。
その度にゴブリンの指揮官は悲鳴を上げていたが、4・5度目の突きでついに叫び声も聞こえず、動かなくなった。
ゴブリンが動かなくなったのを見た老婆は一応最後の一突きを入れ、槍を突きさしたまま村の中へと戻ってきたのだった。
「村長、どうじゃ? わたしゃらもまだまだいけるじゃろ?」
「アハハ……、お婆ちゃんたちも今度からは予備の戦力に数えないといけないね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
俺の言葉に嬉しそうに頷いていた老婆たちは、疲れ果て、死屍累々といった状態の村民を見回して、にこやかに話し始めた。
「今からとびっきりのスープを作るからね! みんなそれまでくたばるんじゃないよ!」
「ほんに、わたしゃらよりも先に逝くでないよ」
そう言って大笑いしながら、食材の準備をし始めた。
とりあえず、一段落着いた事に疲れ果てた村民と俺は、彼女たちが用意するスープができ上がるまで安堵の眠りにつくのだった。
拙作を今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m