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新年明けましておめでとうございます。
本年も完結に向けて走っていきたいと考えておりますので、よろしくお願いします。m(__)m
簡単な戦場掃除を行った俺たちは、捕虜となった元ニュールンベルク王国兵に話を聞いていた。
「――――という事情で、我らは奴らの先鋒として動いていました。我らはまだマシな方で、酷い部隊の場合槍衾に肉壁として突っ込んだ、と言うのも聞いています……」
「な……、肉壁、だと……。それは確かなのか?」
「はい、その時生き残った奴らが、俺達の部隊に補充要員として来て、怯えながら話していました」
歴史上でもままある事ではあるが、実際に見聞きするのと、本で読むのでは大きな差がある。
なにせ、本には実際の兵達の顔や叫び声は聞こえてこないのだ。
あの叫びは、後方で予備兵力として控えている子ども達に聞かせなくて良かった。
「……あの、ところで我らはなぜ生きているのでしょうか? 確かに雷系の魔術で撃たれたはずですが……」
あぁ、そう言えば彼らの事情を聞く事を優先して、なぜ生きているのかの説明がまだだったな。
「それについては、俺が話そう。君たちに使った雷系の魔術だが、死なない程度に電流を調整したんだ」
「で、でんりゅう? ですか?」
あ、拙いな、電流で止まってしまった。
なんて説明したらわかりやすいかな……。
「電流ってのは、雷の流れる量の事なんだ。これを少なくすることで、一瞬ビリッときて心臓を止める。そして、地面を伝って、雷を流してもう一度君たちの心臓を動かしたんだ」
「は、はぁ?」
まぁ理解できないだろうな、何せこの方法は、AEDの蘇生術を応用した方法だからな。
アンドレアが流す量を間違えたら、即感電死か動き続けてしまう。
かなり微妙な量の調整だったが、どうにか一発で成功してくれた。
もちろん蘇生の時の電気量もかなり微妙な加減をして動かさないと、兵達が黒焦げになってしまっていた。
もっとも、彼らの中には、兜をかぶっていたが為にパンチパーマみたいな髪型になった奴も居るが、その辺は無視しよう。
「まぁ兎に角だ、雷の力で一旦死んで、雷の力でまた蘇ったという事だ」
もちろん全員が全員蘇ったわけではない。
中には深手を負っていて、仮死状態になれず、そのままショック死した者も居る。
こればかりは、兵達の運に頼るほかなく、死んだ者は運が無かったという事だ。
「ロイドさん、彼らについてはどうしますか? このままここで置いておく事も、解放する事もできませんが……」
「彼らについては、ワルターに任せよう。彼の顔見知りは、彼の責任の下指揮をしてもらって、顔見知りでは無いものは、簡易の留置所で大人しくしていてもらう予定だ」
俺の提案を聞いたアンドレアは、やや戸惑った表情をしていた。
恐らく彼は、全員を留置所に入れる方が安全なのではないかと考えているのだろう。
俺もそれは考えた。
だが、敵兵が軽く4倍近く居るのだ。
いくら攻城時の兵力3倍の法則があるとはいえ、少々厳しく、今は猫の手も借りたいのが現状だ。
彼もそれがわかっているので、戸惑った表情だけで、それ以上何も言わないのだろう。
「ワルターなら、多分大丈夫だ。少なくとも近くにいる爺がかなり強いからな」
俺は気休めと分かりながらも、アンドレアにそう言った。
ただ、実際爺はかなり強い。
弓を引けば強弓だし、剣を取ればうちの団長とも互角以上の勝負をする。
徒手空拳になれば、敵なしだ。
唯一の弱点は、年ゆえに持久力が低下しているくらいで、それでも老いて益々盛んな人だ。
「敵軍が野営の準備を始めました!」
そう、物見からの報告が入ってきたのと同時に、今日の戦いは幕を下ろした。
恐らく奴らが来るのは、次の日だろう。
「では、見張りを交代制にして、しっかりと敵陣を見ておいてくれ。それ以外の者は、明日に向けて各々休息をとれ」
俺のこの命令で、その日の戦闘態勢は一旦解かれることになった。
次の日、早朝から敵軍に動き有りとの報告で、全軍が持ち場に着いた。
敵は、左右に少しずつ展開しつつも、中央を抜こうとしているのか、昨日は無かった中央に兵が集まっている。
「なんとも分かりやすい陣形だな」
「まさしく、真ん中を抜きますと言う陣形ですね。如何しますか?」
俺としては、中央に集まるなら敵の出鼻をアンドレアの魔術で挫くのが良いのだが、昨日あれだけ派手に見せた割に敵が怯えていないのが気になる。
「敵が魔術の範囲に入ったのなら、一番大きい魔術で一撃を入れてくれ。系統は水以外なら何でもいいから、任せる」
「わかりました。敵に大きいのを一発入れましょう」
そういうと、アンドレアは櫓の一番見晴らしの良い場所で待機したのと、ほぼ同時に攻めかかってきた。
「敵軍進軍開始! ……奴ら何か盾の様な物を持っています!」
「盾? 盾で魔術を防ぐつもりなのか?」
いくらなんでも普通の盾で魔術は防げない。
あれを防ごうとしたら、かなり大きな被害を受けることになるのは、わかりきっている。
「アンドレアが敵軍に向けて魔術を展開後、弓による一斉射撃を行う! その後、アンドレアは弓兵を風系統の魔術で援護!」
「はっ!」
俺の命令が左右に展開する兵達に伝えられ、全員が固唾を飲んで敵が間合いに入るのを待った。
あと少し、あと少しで間合いに入る……。
そろそろか?
俺がアンドレアの方を見ると、彼は魔術式を展開し始めた。
その刹那、正面の敵主力に対して、風の刃と一緒に火の刃が飛び出した。
風の力で、火の威力を上げる合成魔術で、着弾と同時に敵中に小規模なファイヤーストームが起こる。
そう、起こるはずだったのだが、着弾寸前で魔術が霧散したのだ。
「な! あれは石垣に使っている石と同じ反応じゃないか!?」
しまった! こちらで産出できるという事は、どこか別の場所でも産出できるという事だ。
そんな簡単な事を失念しているとは、迂闊にもほどがある。
「ど、どうしますか? 敵には私の魔術は効きませんよ」
珍しくアンドレアに余裕がない。
恐らく彼自身も、自分の魔術が効かない相手が出てくるとは思ってもみなかったのだろう。
「とりあえず、落ち着け! 敵の盾に必ず隙間はあるはずだ! そこを狙うしかない」
とは言うものの、敵の盾の隙間なんて近づかなければ見えない。
恐らく相手は、こちらが魔術の展開できなくなるところまで、詰め寄ってくるつもりだろう。
「さて、どうしたものか……」
敵はこちらが考えている間も前進を続けて、ついに弓矢の範囲に入ってきた。
だが、石の盾のせいで弓も聞いている様子はない。
もちろんここで銃撃というのも手だが、あの石厚さにもよるのだが、かなり頑丈で貫通する事がほとんどない。
石の性質上、魔術はまず使えない……、そしてこちらの攻撃手段である銃撃も通用すか怪しい所。
ん~これ、止める手段が無いんじゃないか?
俺がそんな事を思って辺りを見回していると、とある物が目に入ってきた。
「……、そうだ! この手があった! アンドレア、敵に疑念を抱かせない程度に魔術攻撃を加え続けろ! バリスも、敵側面の部隊が堀から登ってこない様に迎撃をしろ! そうしながら敵を虎口に誘い込むんだ!」
「え!? 敵を中に入れて宜しいのですか?」
「あぁ、俺に考えがある。これが成功すれば、恐らく敵は攻め手を失うからな」
その後、簡単な作戦の概要を幹部に伝え、敵を誘引する作戦を開始するのだった。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




