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帝国との交渉が物別れに終わってから、約半年。
敵は、経路を二手に分けてハイデルベルク王国へと攻めて来た。
ここまでは、俺としてもわかる。
ハイデルベルク王国も強いが、後背を俺達に襲われては堪らないから二手に分けたのだろう。
だが、その理由に俺は納得していない。
「なぁ、ワルター。今からでも君一人で、敵に投降するというのはダメか?」
「おいおい、ロイド。ここにきてそれはあんまりだろう。それに帝国はそれだけでは多分許してくれないぞ」
そう、この戦争の大義――帝国側のだが――は、「国賊ワルター王子を名乗る不埒者を隠匿している」というものだ。
まぁ、ワルターが国賊ではないし、本人なので名乗るもくそもない。
それに、どちらかというと、帝国の方が彼に生きていられると困るのだろう。
「はぁ、あの時お前が見つかっていなかったら、なんて今でも思うよ」
「いや、その、それは申し訳ないとしか言えないな。」
帝国からの参謀がやって来た帰りに、ワルターとバッタリ出くわしてしまったのだ。
もちろん相手の参謀は、王子の顔を覚えており、その事が帝国に伝わると、ご覧の有り様である。
「敵軍はどれくらいの規模だ?」
俺がバリスに尋ねると、彼は両手の平を空に向けて肩をすくめた。
まぁ、そうだわな。
なにせ見渡す限り敵という状況なのだから。
「概算ですが、5~7千は行くかと思われます」
「ありがとう。アンドレア、彼らに対して魔術攻撃をしたとして、どれくらい潰せる?」
「攻撃だけに集中できれば、恐らく半分は行けるでしょう。まぁ帝国では魔術の利用は、
宗教上異端と言われて迫害されているらしいので、いけると思います」
「それは、良い知らせだな。敵の神に祈りたい気分だ」
俺が祈る様な仕草を見せると、周りに居た幹部は苦笑してみせた。
これで、少しでも気持ちが和らげば良いのだが、正直俺の気持ちが全く和らがない。
「後は、子ども達はどうだ? 最悪戦線に投入しなければならないが、いけそうか?」
「……本当なら巻き込みたくは無いですが、魔術科の子達は防御になら使えるでしょう」
「こちらも、自警団候補の子達は戦略なども叩き込んで頂きましたので、小隊長程度の働きはできるでしょう」
俺は「そうか」とだけ呟いて、深く息を吐いた。
「躊躇って全滅では話にならないからな。あと、火縄銃はしっかりと配置完了しているか?」
俺がそう言うと、バリスが頷いてきた。
「おっしゃる通りに十字砲火ができるように配置しています。空いた穴には弓兵、槍兵を配置して、穴の無い様にしております」
「それで良い。火縄銃は最後の手段だ。相手に気取られないように、しっかりと引き付けてから撃ち込め」
「はっ!」
これで、一応の準備はおわった。
終わったのだが、これ目の前の敵って、先鋒部隊なんだよな?
いったい全体でどれくらいの兵が投入されているのだろう?
敵陣 第一軍 ゲイル・フォン・エディンバラ
敵は、以前向かった事のある街だ。
街の周囲は、何やら地面を掘り返され、盛り土がされている。
掘られた場所は、水すら張っていない状況で放置されていた。
いったい何の意味があるのか全くもって分からんが、敵の罠である可能性は高い。
「さて、敵軍の狙いは何だろうな?」
「この周囲の施設は『ほり』というらしいです。そのほりに落ちた者を、弓矢などで狙って殺すそうです」
ふむ、なるほど。
となると相手は、あの道には来て欲しくないのだろうか?
いや、中の様子を前に見たが、両側が断崖絶壁になっていて、とてもじゃないが登れない道を真直ぐ進まされる。
あんな所を進めば、両側から敵に狙い撃たれるのは必定。
となると、正解は……。
「我が軍の兵は5千、この軍を2千5百ずつ、二手に分けて敵のほりを攻める」
「しかし、それでは敵の罠にみすみす嵌るのでは?」
「なに、大丈夫だ。敵はどっちにしても千人居るかどうかの街だ。その中で戦えるものなんて、8百も居れば良い方だから、必然的にこちらの数の暴力にさらされて、終わりだ」
「なるほど、奴らを壁にして攻略するという事ですか」
「あぁ、ここで役に立たなければ、奴らの存在意義は無いし、奴らの人質も死ぬだけだ。まぁどっちにしても男の大半には、死んでもらうがな」
そう、これは皇帝陛下の為に道を清める行為なのだ。
奴らには、バルハラへの道を用意してやるのだから、感謝してほしいものだ。
「では、明朝、敵に対して仕掛けると言うことで良いでしょうか?」
「あぁ、それで良い。分隊の指揮は貴様に任せる」
「はっ!」
さぁ、楽しい戦争の始まりだ。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




