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手紙が来たのと同時に、エリシアからの報奨である技術者も来訪してきた。
彼女が今回こちらに寄越してくれたのは、石工、木造建築家、兵法家を複数名である。
兵法家以外は、内戦で壊れた住居などの復興もある中で、寄越してくれているので、ありがたいことだ。
まぁ、もちろん彼らは、こちらの技術を盗もうと思ってきている。
特に木造建築家は、今後重要になってくるであろう、天守閣部分の建築に携わってもらうので、ある程度仕方が無い。
何せ俺が持っているのは、あくまで建築様式の知識であって、建築設計できる技術ではない。
耐震性、自重バランス、その他様々な知識と経験で建物は建っているのだ。
俺の生半可な知識で建てては、すぐに崩れる元だろう。
なので、どうしても彼らの知識と経験に頼るほかない。
もちろん、俺自身の知識の中には、宮大工の知識もある。
1つ1つの木材が、ピッタリとくっつき、釘を使わずに建築する方法だ。
この技術は別段秘密にする技術でも無いので、こちらとしては、彼らに教えても損は無い。
むしろ彼らには、この街で後進となる若者を指導してもらわねばならない。
「で、建築はどれくらいで終わりそうだ?」
「そうですね……ざっと3年から5年と言ったところでしょうか? 何せ山に資材を運ぶのは、かなりの手間ですからね。一応山の木材も加工して使いますが、はげ山にする訳にもいきませんので……」
まぁ、コーナーの言う通り、確かに資材を運ぶのに手間はかかるな。
それでも3~5年で完成するのは、アンドレアの存在が大きい。
彼が土台部分を魔術でさっさと作ってくれて、しかも道まで整備しておいてくれたので、かなり工事期間の短縮ができた。
「天守閣以外の防衛施設はどうだ?」
「堀を含めるのでしたら、アンドレアさんを投入して、約1年。彼無しで行くと、2年は確実にかかります。」
まさにアンドレア様様だな。
まぁ、彼の魔術を教えている子ども達も、大分使えるようになったと聞いているので、部分部分では、彼らにも手伝ってもらおう。
悠長に2年もかけていたら、その前に帝国が押し寄せてくる可能性が高い。
時間は、あるようでないのが現実なのだ。
「武器防具の生産はどうだ?」
「鉄を輸入に頼っているので、残念ながら量産できていません。ですが、火縄銃に関しては、先行量産していた甲斐あって、あと少しで1千丁は確保できそうです」
武器防具類が量産不可というのは、きついな。
スフォルツァ商会には、鉄と鉛を大量に輸入する様に働きかけているのだが、残念ながら食糧事情の改善と共に、鉄などが値上がりしている。
ある程度予想はしていたので、それなりに持ってはいたのだが、火縄銃の量産を優先したので、鉄は殆ど空っぽ。
防具は相変わらず、ドレストン男爵家の家紋入りを使っている奴が居る状態だ。
後は、竹束が作りたかったのだが、竹は遥か西にも無いそうで、誰も見た事が無い。
その為、竹束での防御ができないのだ。
「後は、食糧だがどうだ? 籠城したとして、何日分くらい確保できる?」
「そうですね、現在のペースで生産して、暫く輸出を止めたと考えれば、1年以上は持ちます。輸出を今のペースで行えば、切り詰めて4ヶ月持てば良い方でしょう」
街の開発はかなり進んでいるが、食糧事情が大幅にプラスになるという事はまれだ。
どうしても開発と共に、人口増加が起こる。
食料が溢れていると考えた乞食なども来るからだ。
まぁこの街の場合は、少しずつ貨幣経済が浸透してきているので、働かざる者食うべからずという状況になってきている。
「4ヶ月か、かなり厳しいな。それに少しでも負けて焼かれれば即終了だからな……」
この街は、元々の村人が50人とかなり少なく、人口の殆どが流れ者だ。
その為、統一感はなく、負け戦になれば、散り散りになって逃げだすだろう。
そうなったら街どころか、元の村すら消滅しかねない。
「それに、戸籍などを分けて流民を入れてきましたが、もしかしたら敵の間者が入っている可能性もあります。もしそいつらが破壊工作などをしてきたら……」
「確かに、今後の事を考えると、難しい状況だな。流民の流入は2ヶ月をめどに停止させて、予防策を取ろう」
「よろしいのですか? そうなると街の発展が危うくなりませんか?」
「いや、それは無いだろう。戸籍のデータからも若年層が相当数いるし、男女比も男が若干少ないが、問題ない程度だ。このまま開発を進めれば、人口は増え続ける」
中世までの世界で人口が増えない原因は、大きく3つある。
1つ目は、食糧事情。
食う物が少なければ、人はどうしても子を成そうとしなくなるし、子を成したとしても、栄養失調で死んでしまう可能性が高い。
2つ目は、流行り病。
衛生管理をあまりしていないと、どうしても流行り病で、人が亡くなる。
そして、病に対して隔離政策等を取らなければ、蔓延し死者が増加する。
3つ目は、戦争だ。
これは、現代の方が兵器の性能が上がったため、一回の戦争での死者は多いが、中世までは、基本的に毎年のように戦争が起こっている。
1回の戦争での死者が少なくとも、毎年のように戦争を行えば、人口が減るのは道理というものだ。
これらの原因で人が減るのだが、この街の場合は逆だ。
食糧事情が改善し、豊富に食べるものがある。
衛生管理を徹底し、手洗いうがいの習慣化を子供から実現していっている。
そして、戦争は巻き込まれているものの、防衛戦が主体で、全てが今の所勝ち戦となっている。
そのお陰もあってか、どうにか街は人口増を辿っている。
「なるほど、そうおっしゃるならその通りなのでしょう。後、兵法家の方が、子ども達にも教えるのか? と不平を漏らしていましたが、如何なさいますか?」
まぁ兵法家にしてみれば、子ども相手に兵法を教えて、どうするんだという所だろう。
だが、子ども達が兵法を学び、知る事で、大人になった時に考える軍隊ができ上がる。
戦略と戦術を理解し、実行できる散兵は、今後の戦争で必要になってくる可能性があるのだから、今から少しでも多くの子に教えてもらわねばならない。
「兵法は大人相手だけでは意味がないからな。嫌なら帰れと言っておけ。どうせエリシア女王に睨まれない為に残るだろうからな」
「わかりました。ではその様に対処いたします」
さて、帝国が動き出すまで、あと約半年程度、どこまで準備が整うかといった所だろう。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




