3-26
王弟との戦いが終わってから、3日。
王都は、戦場の後処理に追われていた。
ただでさえ少ない兵力を2つに割った今回の内戦は、確実にハイデルベルク王国の国力を落とす結果となった。
その3日間、俺はリンクスに付きっ切りの看護をしていた。
だが、その甲斐なくリンクスは、意識を回復することなく眠るように亡くなった。
それが丁度今朝の事である。
俺は今、王女様からの呼び出しで王城の玉座の間に居る。
俺が来るのと同時に、彼女にもリンクスの死が知らされている。
その為、いつもの様な明るい雰囲気ではなく、どこか神妙な雰囲気を醸し出していた。
「ロイド、今日お主を呼んだのは、此度の王位継承争いの功績を讃えて、褒美を渡す為だが……」
流石の彼女も今の状況で、俺にそんな話をするのは躊躇いがあるようで、言い澱んでいる。
ただ、ここで止めて後回しにしては、他の者への褒美もしっかりと決まらなくなってしまう。
そう思ったのか、意を決して続きを話し始めた。
「お主が以前、私に言っていた褒美、『完全な独立』意外にも褒美を与えることになった。その褒美だが、何が良いか考え、2つの案を出した。大臣」
彼女そう言うと、60くらいの白髪の老人が書類を2つ持って俺の前に立った。
「1つは、技術者の貸与だ。お主が建設を進めている城の建築に必要そうな人材を貸し与える。もう1つは、領地の下賜だ。今回反乱に加わった貴族の領地を一つ召し上げている。それを一部下賜する用意があるが、どちらが良い?」
正直、考えるのも億劫だったが、彼女が真剣に考えた末のもう一つの褒美なのだろう。
俺は少し考えてから答えを出した。
「……では、技術者の貸与をお願いします。これ以上の領地は、開発の関係で辞退させて頂きます」
俺がそう言うと、玉座の間に集まっていた他の貴族などから、安堵のため息が漏れた。
恐らく貴族たちは、自分の取り分が減る事と、俺が力を持ち過ぎるのを恐れたのだろう。
特に独立した勢力が国内に誕生したのだ、あまり肥大化させたくはないからだろう。
その思いは俺にもあった。
領地の開発以外での拡大は、王女派の中に俺の排斥派を産むことになる。
そうなっては、せっかく円満に独立を勝ち取った意味が無くなってしまう。
そういう事情もあって、今後の開発の手助けになる人材の派遣と言うことにしておいた。
「うむ、それではロイド・ウィンザーの独立と技術者の貸与を持って、此度の報奨とする」
彼女はそう言って、周囲を見回すと、貴族たちから大きな拍手が沸き起こった。
これで恐らく満場一致、と言う意味なのだろう。
その後も論功賞は続いた。
今回の戦功第一位は、ハンニバルだ。
というか、彼以上の戦功を挙げた者が居ない。
彼の褒美は、領土の拡大と今後起こるであろう、帝国との戦での司令官職だ。
ちなみに今回の論功賞には、王弟派の貴族も参加していた。
彼らは、内戦と言う愚を犯さないように王弟を、説き伏せようとして投獄されていた。
処刑を待つ身だったが、その前に王女派に助けられたので、今回の論功賞に参加している。
彼らの褒美は、領地の安堵である。
この処置については、彼女から俺に打診があった。
彼らの事を許すべきか罰すべきかと。
もちろん俺は、許すべきだと言った。
理由は色々とあるが、何よりも重要視したのは、風聞だ。
見るべき所があれば、しっかりと評価するという器。
降伏した者には寛大な処置をするという点。
こういった風聞を作っておきたかったのだ。
こうする事で、彼女に対する評価は確実に上がるし、今後の軍事行動で相手に降伏を促した時、決断してくれる可能性が高くなる。
これは、強引に攻めるよりも遥かに効果的で、戦力の温存ができ、後々楽になるのだ。
論功賞が終わって、俺とハンニバルと王女様の3人は、彼女の部屋に集まった。
「リンクスの件、残念だった。私としては彼が無事に回復してくれると、思っていたのだがな……」
「死のうは一定 忍び草、忍び草には何をしよぞ、一定 語り起こすよの」
「それは一体どういう意味なんだ?ロイド」
「死は誰にでも訪れる。死後語られるため何をしよう、後の世の人が語り継いでくれるだろう。って意味の歌でな、リンクスの事は残念だったが、彼のした事を子ども達が語り継いでくれたら、彼の死は無駄には……なら、ないと……うぅ……」
「なるほど、何を成して死ぬか、か……。彼は立派に仲間を守った、それを語り継いでいこう、という事だな?」
「あぁ、そうだ」
「なら、私からは立派な碑を作って、街、いや国へと運ばせよう」
「ありがとう」
俺はそう言って、彼女に頭を下げた。
「さて、俺は明後日には、国へ戻ろうかと思っている。それまでにしなければならない事を片付けないといけないな!」
俺はそう言うと、立ち上がって、肩を回しながら部屋をあとにした。
その日と、次の日はできる限りの草案を作るって行く事にした。
俺が作った草案は、まずは学校の創設について。
幼年学校を創設し、貴賤関係なく子どもを集めて学習させる場所とする事。
学習にかかる費用は全て国で賄う。
孤児に関しては、国営宿舎にて寝泊まりをさせ、卒業までに仕事を斡旋する事を提案した。
そして、これと同時に行うのが、戸籍調査である。
誰の家にどれだけの子供が居るのか、また誰が無くなったかなどである。
これを行うことで、国の人口を把握しやすくなるうえ、商家が故意に子どもを捨てたりする事や、貴族の落胤などができにくい様にする方法だ。
もちろん貴賤を問わず、誕生・死亡届を出さなかった場合は、罰せられる様に法で縛る事も提案した。
この二つの草案を二日で纏め、文章を考え、奏上した。
これで、俺の役目は完全に終わった。
後は、子ども達をどうするかだ。
こればかりは、俺の一存では決められないので、彼らに付いてくるか、残るか選択してもらう。
俺は王家の別邸に着くと、子ども達を集めて話し始めた。
「さて、俺は明日、自分の住んでいる場所に戻る為に、ここを出る。そこで、君たちには俺についてくるか、王女様の元で生活するかのどちらかを選んでもらう。俺と来たら、ここでの生活の様に贅沢はできない。時にはつらい事もあるだろうし、大変だ。逆に王女様の元に残るのであれば、王家が、君たちが大人になるまで責任をもって育ててくれるが、どっちがいい?」
俺の突然の話に、子ども達は困惑した表情をした。
まぁいきなり言われれば困るわな。
「あぁ、言葉が足りなかったな。どちらも何人来ても構わない。俺の方へ全員来ても良いし、王女様の所へ全員が残っても良い」
俺がそう言うと、メリアが俺の方へと歩いてきた。
「ロイド、いっしょ」
彼女はそう言って、俺の横に立った。
それから子ども達は、残る子はその場で、一緒にくる子が俺の近くに来た。
まぁ数としては、俺に15人、王女様に4人というところだ。
「それじゃ、君たち4人は残るんだな? 王女様に明日言っておくから安心してここに居れば良い。一緒にくる子は、本当に良いんだな? 俺の方は以前の暮らしよりマシ程度の場所だからな、それが嫌だったら変えるのは、今の内だぞ?」
俺が笑ってそう言うと、どちらの子も笑顔で頷いてきた。
納得しているなら、大丈夫だろう。
次の日、俺は子ども達15人と共に、王家の用意した馬車で帰るのだった。
次回で3章終わります。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m