3-25
本日は、少し長い目です。
どうにか王城まで到着した俺たちは、王女様とハンニバルの居る王座の間へと、案内された。
「おぉ、ロイド無事だったか。子ども達の方はどうだった?」
「あぁ1人、意識不明の重体だが、どうにか他の子達は助ける事ができた。ハンニバル、助かったよ」
俺はそう言って、ハンニバルに頭を下げると、彼は俺の肩を叩きながら「どうと言うことは無い」と言ってくれた。
「ところで、重体の子は大丈夫なのか?」
「今、王城の客室を一つ借りて、看病をしてもらっている。容体が急変したら……、もう、どうする事もできないんだけどな」
俺がそう言うと、神妙な面持ちでこちらを見ていた王女様が口を開いた。
「ロイド、もし、その、お主が望むなら今ここで、子ども達を連れて逃げても良いんだぞ?」
「ありがたいお話だけど……、この状況下でどうやって逃げろと言うんですか? 王女様」
「ん、いや、まぁ一般人としてなら、逃げられるかもしれんじゃないか?」
「それは、無理でしょう。というか、あれだけの子どもを連れていたら、すぐにバレてしまいますよ」
それに、俺はもう表舞台に顔を出している。
俺の事を覚えている奴はそれなりに居るだろうから、検問で引っかかるのが落ちだ。
「そうか……、すまぬな。まさか穏健派の王弟が、こんな暴挙に出るとは思っていなかったのだ」
まぁ、どっちかって言うと、仕掛けるのは王女派の方だと、俺も思っていたからな。
なにせ、王女派の支持母体は、強硬派の多い軍部なのだ。
これまで暴走しなかったのが奇跡に近い。
俺達が話していると、ハンニバルが終わりとばかりに手を叩いて話し始めた。
「とりあえず、この内戦を終わらせましょう。幸い相手は王城を支配できずに終わっています。そして、街の中で終結しつつある」
「となると、恐らくそこに本営が置かれるか……。ハンニバル卿、勝てるか?」
王女様に問われたハンニバルは少し考える素振りを見せた。
恐らく兵数、兵の練度、地理的要因、将器などを計算しているのだろう。
「……そうですね。やりようによっては勝てるでしょう。その為には、王女様にご出陣いただくのが一番かと」
「ほう、私が出れば勝てると? どういった理由で勝てると踏んだ?」
「まずは、正当性です。我らからは仕掛けていないと言う点と、王女様が持っている槍です。それを掲げて頂くだけで、我らに正当性が着きます。そして、王弟を誘い出す罠です。我らの将たる王女様が前線に立っている状況で、王弟が前線に立たなければ、相手の士気は一気に下がるでしょう。そうなっては拙いと、王弟も前線に出てきます。そうすれば、我らの標的が見える状態になるので、勝つ事が容易になります」
王女様を餌に王弟を釣る。
なるほど、確かにそれなら王弟の居場所も分かって丁度いいだろう。
「良かろう。私が前線に出て、敵を倒せば良いのだな」
「いえ、前線には出ないでください。それは俺の役目ですから」
この王女様、やっぱり血の気が多いな。
まぁハンニバルが突っ込むのもどうかと思うが。
「ところで、私はどうしていれば良いのかな? ハンニバル」
「ロイドは、…………どうしよう?」
俺はズッコケそうになるのを必死にこらえて、ハンニバルを睨んだ。
「いや、本当にどうしようにもならないんだ。君が戦場に来ても正直、役に立たない。防衛戦では強いかもしれないが、それは君じゃなくて、君の作った施設が強いと言うだけの話で、君個人ではないからね。だから、できれば子ども達とここで大人しくしてくれ」
うん、こいつめ俺の事を役立たずと言ったな。
俺だって役に立てるんだぞ…………。
少し考えてみたが、確かにそのままズバリ役立たず、と言う結論が俺の中でも出てしまったので、反論できなかった。
「うぅ、まぁ、確かに俺は役立たずだからな。分かった王城に籠って待っているよ」
なんだか、王女様と立場が逆なような気がしないでもないが、致し方ない。
諦めて待つ事にしよう。
「では、これから準備を整え、終わり次第敵を迎え撃ちます」
「うむ、卿に任せる」
こうして、俺は王城での留守番が決まった。
一応、名目上の守備隊隊長という役職はあるが、まぁお飾りともいえる。
王都一角 ハンニバル
王城で準備を終え、敵が集結している表通りにこちらも布陣した。
表通りは、両側を建物が隙間なく埋めており、脇道がなく、一本道となっている。
もちろん王都の表通りだけあって、かなり幅広く作られており、横幅は、軽く30人程並ぶことができる。
敵の規模は予想通り3~4個師団。
敵の総大将である王弟は……、いた。
敵中央に一人華美な鎧を着た人物がいる。
恐らくあれが王弟だろう。
こちらは、というと。
王女があまりにも小さいので、馬だけでは人の影に隠れてしまう。
そこで、緊急で輿を作らせ、担がせている。
彼女には、そこで立って演説をしてもらう予定だ。
「王女様、用意の程は宜しいでしょうか?」
「うむ、大丈夫だ」
「では、よろしくお願いします」
俺がそう言って、所定の場所――味方の最前線――に移動すると、王女が輿の上で立ち上がり、演説を始めた。
「我が名は、エリシア・ハイデルベルク! 汝らは何故矛を向けてくるか! 王弟は――」
それから王女は、相手の非難と自分の正当性を訴えた。
もちろん相手からも野次が飛んでくるが、そこは気にしない。
眉間にしわが寄っているが、気にしてないはずだ。
「――そして! 王弟、ハインツよ! そなたは正当な王ではない! 我が国の王は、この槍を持ち、戴冠式を終えたものの事を言う! 汝はこの槍を力尽くで奪おうとした! それが何よりも重い罪だ!」
王女が言い切ると、相手も反論を始めた。
「何を言うか、小娘が! その至宝たる槍を持ち出しているのは、お前こそ簒奪の意思があるのではないか!? 我はそんな者からこの国を守る為に立ち上がったのだ! 全軍! 目標は、あの子娘だ! 前進開始!」
まぁ、そうなるわな。
相手からすれば、これ以上言い合えばボロが出るかもしれないし、王女が槍を持ち出した時点でその事を避難できるわけだから仕方ない。
自国民同士で殺し合いなど狂気の沙汰でしかないが、致し方ない。
「全軍! 敵を迎え撃つ! 我に続け!」
俺がそう言って走り出すと、後ろから副官が何か叫んでいる。
叫んでいるが、今は聞いていられない。
俺がここで走らねば、全軍の士気に関わるのだから。
「撃て! 一番前の一騎をやれば後は勝手に崩れる! あいつにだけ集中するんだ!」
俺が突進する事は、敵も流石に分かっているのか、対応が早い。
今回は、槍ではなく魔術攻撃できやがった。
それも、火、水、雷、風とレパートリーに富んだ内容だ。
もちろん俺自身も簡単にやられるわけにはいかない。
「簡単にやられるか!」
俺は、跨っている馬の手綱を巧みに操り、魔法攻撃を避けて行った。
「げぇ!? あの集中砲火を避けるのか!?」
「ちょ、大将! ついていけないですよ!」
「やっぱり大将は化物だ!」
なぜか味方から非難の声が挙がっているが、気にする余裕が無い。
なにせ、集中砲火を避けたら、目の前には敵が来ているのだ。
相手は、流石に魔術の雨を降らせば俺を殺れると思ったのだろう。
明らかに慌てふためいて、陣形がかなり乱れている。
この好機逃す手はない!
「我こそは! 鷹なり! 死にたい奴は! かかってこい!」
俺は、一言いうたびに敵に一太刀浴びせ、屠っていった。
ある物は、胴から物別れになり、またある者は、首が吹き飛び、手や足が飛んだ奴もいた。
「さぁ! 反乱軍に漢は居らんのか!」
俺が剣の血を一振りして振り払いながら言うと、敵は尻込みしたのか、明らかに腰が引けている。
そして、俺を見過ぎている。
俺に注目が集まれば、他に目が行かなくなる。
そうなれば……。
「後ろからきているぞ! 迎撃をしろ!」
「と、止まりません! ギャー!」
「ちくしょー!」
後ろから我が軍の精鋭たちが、敵の混乱に乗じて傷口を広げる。
そして、広げた傷口は、他の戦線にも影響を及ぼし始める。
「左右の軍も崩壊しかけています! ご指示を!」
こうなっては、そう簡単に巻き返す事など不可能だ。
それこそ、王や私、ニャスビィシュくらいでないと立て直せない。
それを王弟ができるかと言ったら、無理というもの。
俺の予想は当たり、敵は徐々に下がってきた。
もちろん俺も追撃の手を緩める気は無い。
降る者は無視して進んでいくと、慌てふためく王弟らしき人物が見えた。
らしきと言ったのは、俺があまり王城に顔を出していなかったせいで、王弟の顔を知らないからだ。
だが、知らぬなら聞けば良い!
「そこに見えるは、王弟殿下とお見受けいたす。我と勝負して死ぬか、神妙にお縄を頂戴するか、どちらになさりますかな?」
俺が不敵に笑いながら近づくと、王弟は剣を抜いて俺の方へと走ってきた。
「そうか、死を選ばれるか……。御免!」
王弟とのすれ違い様に、俺は剣を一閃して、首を落とした。
「これで、終わったな。ハンニバル・タラスコンが王弟を討ったぞ! 者ども! 勝鬨をあげよ!」
「おぉー!」
この勝鬨を聞いた瞬間、それまで必死に耐えていた敵が、崩れ、次々と降伏し始めた。
後ろの方は、それと同時に四散して逃げ散っていくのだった。
後1、2回ほどで3章が終わります。
長かった...( = =) トオイメ
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m