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王城 ハンニバル
王城を占拠される、という事態を阻止した俺は、王女に謁見していた。
今回の事で今後の相談をしたいという事だった。
俺が王女の居る玉座の間に行くと、彼女は王家の至宝である「勝利と栄光の槍」を持ち出していた。
「王女殿下、その槍は王家の至宝では?」
「うむ、その通りだ。此度の奴らの狙いは恐らくこれであろう。なにせこれが正当な王が持つべきものだからな」
「それを持ち出して王女殿下は、自分が正当だと言うのですか?」
俺は、自分の中に在る最悪の事態を考えて、口に出した。
俺の言葉を聞いた王女は、意外な表情をしてから笑い始めた。
「ぷ……、ハハハハ。流石に私でもそれが下策である事くらい分かっておるぞ。安心しろ、事が終わったら元の場所に安置する。心配はないぞ」
「でしたら、良いのですが……。では、今後の事について相談させて頂きます」
俺が切り替えてそう言うと、彼女はゆっくりと頷いた。
「現状の我が軍ですが、敵に対して数的不利にありました。ですが、その点については、王城の兵を手に入れた事でほぼ互角となりました。ですが、依然として状況は良くない事に変わりありません」
「敵がこちらの議員を手中に納めている、という点か?」
「それもありますが、敵の拠点が分からないのです。こちらは王城以外に場所は無いのですが、敵方の王弟邸宅は偵察兵の話では無人との事です」
俺の報告に王女の表情が若干くもる。
理由は、敵の居場所が分からないのに、こちらは敵から丸わかり、と言う情報の不利があるからだ。
流石に戦略に明るい王女は、すぐさまこちらの不利を悟ってくれた。
こういう時、トップが戦略に明るいと言うのは助かる。
「事態はかなり深刻、と言えると言う事か?」
「えぇ、かなり深刻でしょう。敵の規模は、現在確認できているだけで、3個大隊規模から4個大隊でしょう。後はその戦力がどこに配置され、どこから指示が飛んでいるかですが、それがわかりません」
「そうなると、偵察を増やして敵方の動きを探るか?」
「いいえ、ここは敵の集まっている場所を一気に強襲、制圧してしまいましょう。それから相手の居場所を聞き出せばよろしいかと」
「わかった、卿に全てを任せる。兵の配分から何から全てだ。よろしく頼んだぞ、ハンニバル伯爵」
「はっ! 姫の信頼に身命を賭してお応えしましょう」
こうして、軍権を握った俺は、まずロイドの所に行った小隊を合流させるために使者を送った。
王家別邸 ロイド
俺は今、リンクスの治療をするためにメイドを使って準備をしている。
リンクスの容体は、かなり悪い。
正直助かる見込みはかなり低いと言える。
「とりあえず、お湯と綺麗な布もしくは、包帯、太めの針と糸、酒を用意してくれ」
「お湯や布はわかりますが、針は一体何にお使いになるのですか?」
俺の言ったものを、他のメイドたちに用意する様に伝えた後で、メイド長が訊ねてきた。
まぁ、この時代の医療だと外科手術なんてまずしないから分からないのも当然だ。
「最悪、リンクスの裂けた部分を針で縫い合わせる」
「針で、縫い合わせる!?」
メイド長がそんな事できるのか? という表情で俺の方を見てきた。
もちろん俺は、前世でも医者ではない。
ただ、助けられる可能性を信じてする以外に無いのだ。
「無茶ですお辞め下さい! この子は既に死の淵に立っています。どうあがいても無理です!」
「そんな事わかるか! リンクスを助けられる可能性が万に一つでもあるなら、俺はその可能性に賭ける!」
俺がそう叫ぶのと同時に、用意が整った。
手術なんて俺自身した事ない、これでリンクスが助かるかなんてわからない。
でも、身を挺して他の子達を助けたこいつを、まだ息のあるこいつだけでも助けないと。
俺の手が震えはじめた。
肩に圧し掛かっているのは、リンクスの命だ。
そして、俺の手で止めを刺してしまうかもしれない。
そんな考えが、ほんの少しよぎっただけでこのざまだ。
そんな俺の足元にギュッと抱き着く感覚があった。
下を見ると、メリアが俺の足に引っ付いて、俺を見上げていた。
「ロイド、だいじょうぶ」
まったく、この子は本当に俺の心が読めるんじゃないだろうか?
そして、俺の欲しい言葉を良く分かっているよ。
「あぁ、行ってくる。入るなよ」
「うん、行ってらっしゃい」
俺はメリアに見送られてリンクスの待つ部屋へと入っていった。
その後の事は、正直よく覚えていない。
無我夢中で彼の背中の傷を縫い合わせ、終わったのと同時に精根尽き果てて、メイドに包帯を巻く様にお願いして部屋を出たのだ。
ハンニバルからの使者が来たのは、そんな大変な事が終わってしばらくしてからの事だった。
「――以上がタラスコン伯爵からの言伝です。ご準備を」
「わかった。負傷兵を移送する。降伏した兵にも手伝わせろ、槍の穂先を隠して二本の間に布を巻いて担架を作って移送するんだ。元の小隊の隊員は、武器を携帯して周囲の警戒にあたってくれ」
俺は疲れた頭を最後の一絞りと思って、指示を飛ばした。
「ロイド様、後は我らが遂行します。今はお休みください」
「あぁ、後はすまないが、小隊長にお願いす、る……。スースースー」
俺はそのまま意識を手放し、近くの椅子で寝てしまった。
内戦はまだ続きます。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




