3-23
事態が動き始めます。
事態が動き始めたのは、3人で話し合いをしてから数日後の事だった。
それまでの王女と違い、硬軟織り交ぜた政略に現実的な政策。
そして、なによりも侯爵の加入により、情報面でのアドバンテージが広がり、王女派が優位に展開していた事もあり、王弟派が暴発したのだ。
「現状はどうなっている?」
「はっ! 敵方は議会を占拠! 王城、王女派議員の自宅を占拠しつつあります」
私兵からの報告を聞いたハンニバルは、すぐさま命令を下した。
「すぐにでも王女派を助けたいが、ここは王城を優先する! また、兵力の一部を王家別宅に向かわせろ! 恐らく30人も居れば十分だ!」
「はっ!」
ハンニバルの命令を聞いた私兵は、すぐさま全軍に伝え、一個小隊が王家別宅へ、ほぼ一個中隊が王城の開放へと向かった。
かく言う俺は、丁度ハンニバルの所へ今後の話をしに来ていたので、難を逃れた形にはなっているが、本部として機能している王都のタラスコン邸が、もぬけの殻になるので、小隊に着いて行く事になった。
「それでは、ロイド! 王家別宅は任せたぞ! 小隊長の指示に従えばどうにでもなる」
そう言い残して、ハンニバルは王城へと大隊を率いて出発した。
「……俺はどうしていたら良いかな? 小隊長」
「とりあえず、中隊の中央で私と一緒に居てください。比較的安全なはずなんで」
比較的ね。
まぁ「絶対安全」と言われるよりは、幾分か正直に言ってもらう方がマシか。
「では、出発します。小隊前進! 目標は王家別邸!」
「おぉーー!」
流石は、ハンニバルの私兵。
鍛えられているだけあって、全速前進で行軍しても殆ど乱れていない。
俺はそんな事を考えながら小隊を見渡していると、異変に気付いた。
この中隊、他の編成に比べておかしな点があるのだ。
「小隊長、この小隊の編成はどうなっているんだ?」
「小隊の編成は、魔術科小隊になりますが」
あぁ~、それで魔法使いみたいなローブ姿の兵が多いのか。
小隊の規模は、30名前後で、隊長1名、副隊長1名、下士官が3名と残り兵卒なのだが、兵卒の半分くらいが魔術師なのだ。
もちろん他にも、剣盾兵や槍兵も居るが、圧倒的に魔術師が多いので、違和感を感じたのだろう。
そんな事を考えている間に、王家別宅近くまで来た。
俺達は、別宅から見えない位置に陣取り、状況を窺った。
そして、別宅の方はというと。
やはりと言うか、なんというか。
敵方の兵が壁をぐるりと取り囲み始めたところだ。
門の前には、攻防の跡があったが、固く閉ざされている。
なんとか占拠される前に到着できたようだ。
「小隊長、ここは一気に敵を蹴散らして欲しい所だが、いけるか?」
「任せてください。今なら敵の虚を突き一気に殲滅できるでしょう」
小隊長の力強い言葉に、俺は頷いて下命した。
「攻囲陣を敷こうとしている敵に向かって、突撃ー!」
「おぉぉぉーー!」
後方から突然襲い掛かられた敵は、攻囲しようとしていた所を背後から襲われ、必死に抵抗しようとしているが、慌てていたのと、そこに複数の魔術弾を着弾させたことで、混乱が広がり、思う様に抵抗できていなかった。
もちろん、この好機を別邸側の守備隊が見逃すはずもなく、瓦礫などを敵の背後に向かって投げたり、槍で突いたりと嫌がらせを始めてくれた。
「良いか! 敵の士官を狙え! 兵卒だけならどうとでもなる!」
小隊長の的確な指示の元、味方は徐々に戦果を拡大していった。
戦闘開始からしばらく経った頃、敵の士官が白旗を掲げてきた。
どうやら、先導していた中隊長、小隊長が死傷してこれ以上動けなくなったのだろう。
「よし! 勝鬨をあげよ!」
「おぉーー!」
この戦いで、敵方は50人以上の犠牲と20人程度の負傷者を味方は10人程の死傷者を出しての勝利だった。
相手を奇襲したとは言え、こちらもそこそこの被害が出たので、これ以上の軍事行動はできなくなってしまった。
まぁここを死守して後は、ハンニバルに託すしか無いだろう。
敵が武器を捨て降伏したことで、別宅に入った。
まずは、子ども達の無事を確かめないといけない。
俺が別宅に入ると、子ども達が屋敷の地下の隅の方で、固まっていた。
「みんな! 無事か!?」
俺が声をかけると、何人かの子が血を流して倒れていた。
その中には、出会った時に話しかけてきた最年長の子も居た。
「リンクス、死んじゃった……」
「僕たちを庇って、敵に切られたんだ……」
そう言って、子ども達はすすり泣き始めた。
俺は、リンクスの傍によって、彼の脈を測ると、まだ生きていた。
「リンクスはまだ生きているぞ! メイドは綺麗な布と酒精の強い酒を用意してくれ! 子ども達で無事な子は瓦礫をのけてベッドを一つ空けるんだ! 兵達で手の空いてる者は、そこにリンクスを運んでくれ!」
死なせない、まだ生きているんだ! 最後の最後まで諦められるか!
王城付近 ハンニバル
ロイドと別れてから、しばらく走ると王城が見えてきた。
王城の周りからは、黒い煙と剣と盾による戦場音楽が鳴り響いていた。
「伯爵様、どうにか間に合ったようです」
「あぁ、後は王国の双璧の名を落とさぬよう、しっかりと王城を救い出すぞ!」
「おぉぉーー!」
俺は掛け声とともに、王城の周囲を攻囲している軍団へと突き進んだ。
「我こそは、戦場の鷹! ハンニバル・タラスコンだ! 死にたい奴から前に出ろ!」
「っ! た、鷹だ! 鷹が来たぞ!」
俺の名乗り一発で、敵は……、崩れてはくれないか。
敵は俺の姿を見るや、対騎兵陣形を整え始めた。
「鷹め! 串刺しになりやがれ!」
敵兵たちが一気に槍を俺に向かって突き出してきた。
もちろん俺も、簡単に串刺しになってやる訳にはいかないので、馬の背を蹴って飛び上がった。
槍は完全に前方に向いていたので、空中を越える俺には当たらず、敵兵達の唖然とする表情を見ながら、無事着地する。
着地と同時に俺は、旋回して斬りつけた。
「ハハハ! 周りは敵だらけだから気にせずに斬れるな! さぁ! 俺を止められるなら止めて見ろ!」
俺はそう言いながら、槍兵達を後ろから斬りつけまくっていた。
槍は、前方への攻撃はめっぽう強いが、横と後ろは脆く、簡単に崩れてしまう性質がある。
なので、ずっと俺のターンで攻撃ができる!
「この悪魔め!」
俺の後ろから、異変に気付いた剣盾兵が斬りつけてきた。
ただ、殺気が出過ぎていて、バレバレだ。
俺は、後ろから来た斬撃を横にいなし、すれ違い様に首に一撃を入れた。
「な、嘘だろ……、後ろからの攻撃を避けるなんて……」
まだまだ甘いな。
ハリスの坊やの方が、殺気の消し方がうまいぞ。
そんな事を考えながら敵を斬っていると前から声が聞こえてきた。
「伯爵様~! また勝手に突っ込んで! 何かあったらどうするのですか!?」
槍兵を崩したことで、前方から味方の一団が突っ込んでこれた。
おっと、副隊長のお小言がまた始まりそうだ。
「副隊長! 今は戦場だ! 小言は後にしろ!」
俺はそう言って、誤魔化しながら、再び敵陣目がけて突っ込んで行った。
「あ、ちょ、伯爵様! また突っ込まないでください!」
戦闘開始から1時間ほど暴れまわると、敵は撤退を余儀なくされたのか、引き始めたので、散々に追い立て戦果をあげてやった。
どうにか、王城までは守れたものの、王女派貴族の内、これまで引き抜いてきた政治閥の貴族を全てと、軍閥の貴族数名を捕虜もしくは、殺されてしまった。
ツギクル大賞、残念ながらAI賞のみとなりました。
ですが、これも応援してくださった皆様のお陰で取れた賞です。
Twitterにて賞の解析結果を公表しています。
興味のある方は覗いてみてください。
今後も頑張っていきますので、ご後援よろしくお願いします。m(__)m




