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3-21

少し長い目です。

王都 侯爵邸 侯爵


 拙い、非常に拙い事になってしまった。

 まさか、指示を出してこれから作戦要員を送る、と言う時に好機が来るなんて誰に予想ができる?

 そして、その好機を逸してしまうなんて考えても居なかった。

 このままでは、早晩、私が企てた事だとバレてしまう。

 そうなってからでは遅い。

 今からできる事を考えねば……。


 私がそう思って機密書類などの用意をしていると、玄関が騒がしくなってきた。


「旦那様! ハンニバル卿が私兵を率いて屋敷を囲んでおります!」


「なに!? もう来たというのか? 早すぎる! ……まさか、私は最初から疑われていたのか?」


 その瞬間、私の思考はどこで疑われたのか、でいっぱいになった。

 邸宅で晩餐会を開いた時か? 議会で他の議員と談話していた時か? 一体いつだ? いつ疑われたんだ!?


 そんな事を考えていると、荒々しい足音と共に数人の男が部屋に入ってきた。


「侯爵殿、随分とお急ぎの様だが、どこへ向かわれるのですかな?」


 そう言ってきたのは、金の鷹、王国の双璧と言われた男。

 ハンニバル・タラスコン伯爵が立っていた。


「いや、なに、ちょっと、領を任せている家宰から、呼び出しがあってだな……」


「それは大変な時に申し訳ない。ですが、姫様からもお呼び出しがありましてな。申し訳ないがご足労願います」


 ハンニバルはそう言うと、両側に居た屈強そうな男たちに私の両脇を掴ませて連れて行き始めた。


「な、何をする!? 歩くくらいできるわ! おい! こら! 放せ!」


 この後、何度か脱出を試みようとしたが、両脇の男たちは私の抵抗などものともせず、ゆっくりと連れ去っていくのであった。




王家別宅兼孤児院 ロイド


 つい先ほど、ハリスが無傷で騎士を捕獲したと聞いて驚いたが、それから数時間もしないうちにハンニバルから侯爵を確保したと知らせが入った。

 侯爵邸では、ハンニバルには書類などを押収して欲しいと頼んでいたので、侯爵よりも後で来ることになるそうだ。


 そして、侯爵の処遇だが、有用な情報を持っていた場合は、その情報を取引材料として交渉する。

 もし何も持っていないなら、脅しの材料を作って王女派に引き込むしかない。

 

 とは言っても、できる事なら彼自身に選ばせたいものだが。

 甘い事は、言っていられない。


「ところで、王女様には使いは出しましたか?」


「えぇ、先程一人向かわせましたよ。恐らく夜には到着なさるでしょう」


 俺の質問にメイド長が不服そうに答えた。

 メイド長の機嫌がなぜ悪いのかというと、まぁ、彼女が嫌っていた孤児が手柄を立てたから、としか言いようがない。


「なら後は、彼女の到着を待ってから話を進めましょう」


 俺がそう言って話を切ると、近づいてくる影があったので振り向くと、ハリスが居た。

 

 俺と目が合ったハリスは、どこかぎこちない感じで俺の方を見てくる。


「どうした? ハリス。何かあったか?」


「うん、その、ね……」

 

 こうして、モジモジとしている仕草を見ると、10に満たない子どもだと思えるのだが、あれだけの離れ技をやってのけるのだ。

 末恐ろしいとはこの事かもしれない。

 ただ、何か用事があって来たのだろう、と思って待っていると、ハリスが続きを話し始めた。


「えっとね、僕、頑張ったからさ、その……」


 うん、じれったいなこれ。

 見た目もそこそこ可愛らしく、中性的な顔立ちなので、女の子がモジモジしている様にも見えるが、それでもじれったい。


 ハリスが何時まで経っても用事を言えず、俺もただ待つだけだったのだが、俺の隣にメリアが来て囁きかけた。


「あたま、ぽんぽん」


「ん? メリアのか?」


 俺がそう言いながらメリアの頭に手をポンポンと当てると、目を細めて喜んでいるが、突然、ハッと目を見開いて首を振ってきた。


「メリア、ちがう。ハリスのあたま」


「え? あぁ、ハリスの頭をか? ハリスはそれで良いのか?」


「え? あ、うん!」


 ハリスの頭をポンポンすると、ハリスも嬉しそうに目を細めていた。

 俺がハリスの頭をポンポンしている間、メリアは俺の背中によじ登って、定位置になりつつある俺の肩に勝手に乗っかってきた。


 そんな束の間の休息を楽しんだ後は、えぇ地獄でした。

 まずは、ハンニバルの私兵に護送された侯爵に部屋をあてがい、周りを見張らせ、ハンニバルが帰ってきたら、集めた膨大な資料から使えるものを探す為に片っ端から読み、王女様が来てからは、現状報告と侯爵の尋問に付き合い、王女様が帰ってからは、明日までに資料を纏めなければならないので、徹夜で読み、纏めの作業を行った。

 くそう、コーナーを連れて来たら良かったと、これ程後悔したことはない。



 翌日の朝、俺とハンニバルは侯爵を伴って、王女様の私室を尋ねた。

 もちろん、昨夜徹夜して仕上げた資料を持参してだ。


 ちなみに資料は、なぜか朝早くから待ち構えていたメリアが、大事そうに抱えている。

 時々こけそうになっているのは、見てて微笑ましい……というよりも正直不安と恐怖でしかない。

 ここで資料がバラバラになれば、また拾い集めて順番に直してと、面倒な作業をすることになるからだ。

 一応ナンバリングは振ったが、今はそれよりも早く帰って寝たいので、余計な手間だけは増えない事を願うしかない。



 王女様の部屋には、いつもより物々しい雰囲気が漂っていた。

 それもそのはずである、俺たちは鉄の胸当てに、短めの槍を持ったメイドに取り囲まれているのだから。

 まぁ、侯爵を精神的に追い詰める為には、仕方が無い。

 

 案の定、武人として名をはせた訳では無い侯爵は、泡を食っている。

 対してメリアは、堂々としている。

 たまにメリアの中身は、俺と同じように、精神年齢の違う誰かが入っているんじゃないか? と思ってしまうくらいの堂々たる立ち姿だ。

 

 だが、まぁ、その、なんだ。

 いかんせん姿かたちは5~6歳程度の女の子なので、どうしても可愛さや微笑ましい感じの方が強い。

 メリアのその姿には、メイドたちも物々しい雰囲気を出す為に、厳めしい面をしているのだが、メリアを見た瞬間だけ物凄く表情が緩んでいる。


「さて、ロイド、ハンニバルご苦労であった。此度の事について、報告を頼む」


 そう言われて、俺はメリアに持たせていた資料を手に取りながら、子どもの誘拐未遂が起きた事、その犯人が侯爵の騎士である事、侯爵が裏で王弟派と繋がっていた事を報告した。

 もちろん、昨日の時点で報告は済ませているが、一応確認の為だ。


「では、ロイド何か証拠などはあっただろうか?」


「そうですね。まず、侯爵から王弟派の大公宛に手紙が書かれていました。中身はこちらの内情や誰が献策しているか、どういった人たちが王女派かの詳しいやり取りが書かれています」


「ふむ、その事について侯爵、何か言い訳はあるか?」


「…………」


「だんまりか。ロイド続けよ」


 王女様は、侯爵を興味なく見下ろしながら俺に指示を出してきた。


「では、続けます。侯爵の資料などを精査していた所、街の大商人との間で密売や賄賂などが入っている事がわかりました。これは、王国の法律では禁止されている事ですので、十分に逮捕できる案件です。また、王弟派の貴族も同席していたという情報も書かれておりますので、これを使って、何名かの議員をこちらに引き入れる事ができるやもしれません」


「なるほど。他にはどうだ?」


「他には、王弟派の人間の名前が何名か挙がっているので、これを元に切り崩しを計っていけばよろしいかと存じます」


 俺の報告を聞いた王女は、フーッとため息を吐き出してから侯爵を見た。

 侯爵はというと、相変わらずだんまりだが、幾分か顔が青ざめている。


「さて、文治派のそなたが、我が陣営に加担してくれると助かるのだが、如何だろう? これまでの不正の資料は私の手の中にある。私が女王になる事に賛同し、即位したあかつきには、この資料を破棄してやらんでもないが、どうかな?」


 王女は、まるで悪役の様な悪い笑みを浮かべながら、侯爵に迫った。

 

 まぁ急場で練習した割にはよくできている。

 よくできているのだが、若干口元が震えているぞ。


 俺は内心ハラハラしながらもその様子を見守っていると、侯爵が観念したのか、頭を下げた。


「わかりました。非才の身ではありますが、王女殿下のお役に立てるよう、頑張りましょう」


「そうか、わかってくれると信じていた。ただ、暫くの間は、私の陣営の信頼のおけるものと行動を共にしてもらいたい。なに、信頼していないのではない。他の者がそうでもしないと納得せんからな、許してくれ」


「かしこまりました。変節漢ですので、そのくらい大したことではありません」


 こうして、どうにか侯爵を味方の陣営に引き入れる事ができた。

 もちろんこれだけでは足りない。

 まだ後、何人かリストに残っているので、その辺りの人物をあたりながら、引き抜き工作をしなければならない。


さて、今後どう動くのでしょうか?

こうご期待。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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