3-20
「さて、今日はみんなで外遊びをしよう!」
俺の提案に子ども達は元気よく「はーい」と返事をしてきた。
なぜこんな提案をしているかというと、この子達は基本的に遊びというものを知らない。
それはこれまでの人生で遊んでいるだけの余裕が無かったからというのもある。
その為、俺が連れてきて2日目で既にあちこちで喧嘩が勃発している。
それも刃物を出す喧嘩だ。
いや、刃物が出ている時点で殺し合いと言っても過言では無い。
そう言った事もあって、子ども達に遊びを教える為に外へと行く事にした。
もちろんこれは、出かける為の建前である。
対象となる子供には作戦の内容は伝えられているが、正直不確定要素が多すぎてどうなるかわからないのが現状だ。
「それじゃ、みんな行くぞー!」
「「おぉー!」」
俺の掛け声に子ども達は元気良く応えてきた。
暫く歩けば、遊べる開けた場所があるのだ。
そこまで行ってしまえば恐らく拉致は起きにくくなる。
理由は簡単だ。
見晴らしが良すぎるのだ。
少なくとも100メートル四方に建物が無いので、不審な人物が居れば一発でわかってしまう。
となると、仕掛けてくるのは、行き帰りの道だろう。
出発してから10分後、1人の少年が列からはみ出て歩き始めた。
小学生くらいの子供、まして学校などで集団行動をした事が無い子どもだ、列から離れるなんてよくある事。
そうよくある事なのだ。
その一瞬の隙をついて、敵は子供に近づいて拉致していった。
「ロイド! ハリスが連れ去られた!」
後ろから最年長の子どもが、俺に報告をしてきた。
ここまでは予定通り、後は子どもを無事確保するのと、他の子達を家に戻すだけだ。
戻すだけだが、ここからが大変なのだ。
子ども達は、喧嘩はすれど、お互いこれまで肩身を寄せ合って生きてきた仲間である。
その仲間が連れ去られればみんな必死に探そうとする。
それを制して、連れ帰らねばならないのだ。
作戦の概要を知っているのは、最年長組の3人とメリアと連れ去られたハリスの5人だけ。
後の子ども達は何も知らせていないので、憤る者、狼狽える者、突撃しようとする者と三者三様の反応を示している。
「落ち着け! 大丈夫だ。ハリスは金ぴかの人の部下が助けてくれる。みんなは家に戻ってハリスの帰りを待つんだ」
俺の声掛けに、少し落ち着いてきたのか、飛び出す子は出なかったが、それでもやはり心配そうな表情で俺の方を見てくる。
俺はそんな子達を安心させるために、できる限りの笑顔を見せ、少しでも安心できるように振る舞っていた。
馬上 ハリス
ロイドに頼まれて拉致される役になった僕は、今敵の騎士の腕から、騎士の膝の中に納まっている。
飛び降りて逃げようかと思ったけど、どうやっても無事ではすまなさそうな速さで走っているので、逃げる機会を失っているのだ。
さて、どうやって逃げようか。
僕がそんな事を考えていると、上から声がした。
「大人しくしていろよ。そうすりゃ命までは取らねぇからな」
「…………」
拉致しておいて何を言っているんだこのおっさんは。
呆れてものが言えない、と昔親に聞いた事があったが、こういう状況の事を言うのかな?
しかし、このままじゃ拙いな。
逃げたいけど逃げられない……。
逃げられないなら…………、倒しちゃえ。
後から考えると、自分でもなんでそんな発想に到ったのか分からないが、まぁ結果が良ければ生き残れる。
下手をすれば死ぬか、動けない体になるだけだ。
動けなくなれば、誰かに殺してもらえばいい。
そう考えると、スッと頭の中が軽くなり何をしたらいいのか、どうすれば一番いいのかが分かってきた。
騎士は、腰に剣を帯びているが、正直これは重過ぎる。
僕が扱えるような物じゃない。
となると、僕が何時も携帯しているナイフを使えばいい。
じゃ、ナイフでどこを刺そう、どこを切ろう。
手綱? いやバランスを崩すだけで騎士は捕まえられない。
騎士を刺す? いや痛いだけだし、下手したら死んでしまって意味がない。
馬を刺す? 痛そうだけど、馬に放り出された騎士を下にすれば僕は助かるし、上手く行けば騎士も命は助かる。
よし、馬を刺して放り出される事を目指そう。
僕は、頭の中で考えを纏めると、懐からナイフを取り出してすぐに行動に出た。
刹那、馬が前足を跳ね上げ、僕と騎士は宙に放り出された。
「な!」
「……」
騎士は、よしうまい具合に畑に向かって落ちて行っている。
そして、僕もうまい具合に騎士のお腹めがけて落ちている。
ただ、鎧が尖ってて痛そうだから、足から落ちよう。
昨日にロイドに貰った「くつ」のお陰で痛くなさそうだから。
僕はそんな事を宙に浮きながら考え、そして体勢を捻って調整して、足から着地した。
騎士も、背中から畑の土の中に落ちたが、僕の着地の衝撃で泡を吹いて気絶した。
「……死んでないよね?」
うん、すごく痛そうな感じがするけど、血は出てないし、一応息もしてそうだから死んでない。
一方馬はというと、僕が刺したことで完全に暴れ馬になって暴走して、城壁に激突していた。
少し離れた場所であるここまでその衝撃音が伝わって来たので、恐らく死んじゃっただろう。
まぁ可哀想だけど、仕方が無い。
そんな感じで下を見ていると、周りに金ぴかの人の部下がやって来た。
「おい! 大丈夫か?……おぉ! 捕まえたのかお手柄だな」
「うん! これで、ロイド褒めてくれるかな?」
僕は、馬の血で血まみれになったナイフを気絶している騎士の服で拭いてしまいながら話しかけた。
すると、さっきまで笑顔だったのに、少し微妙な表情をしていた。
僕は、何かおかしなことをしたのだろうか?
「あ、あぁ。あの人はきっと褒めてくれるさ」
部下の人の微妙な顔は放って置いて、僕はロイドに褒められるのを想像してニヤニヤしていた。
謀略はまだ続きます。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




