表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/134

3-19

 王女様の部屋から出た俺は、その足でハンニバル伯爵の元へと向かっていた。

 王城のホール近くまで行くと、そこに金色の如何にも貴族、という服装の男が立っている。


「おぉ、ロイド……その後ろにくっついているのは何だ?」


「あぁ、この前の孤児のメリアです。どうも懐かれてしまってどこに行くのにも背中にくっついているんですよ」


「それは、良いのだが……今日の話聞かせる気か?」


 お? 流石のハンニバルも子供に話す話ではないと忠告してきたか。

 まぁ実際に今日話す内容は、彼らを危険にさらしてしまうかもしれない話なのだから仕方ない。


「まぁ、俺としては帰っていて欲しいのですが、どうもこの子は俺以外を全く信用してないみたいで、離れてくれないんですよ」


「なるほど、まぁ流石は女たらしというところか」


「ちょ、誰が女たらしですか。失礼な」


「…………」

 

 そこで黙るなよ、確かに少し心当たりはあるけど、あんまり良いものじゃないよ?

 特に女の扱い知らない俺には。


「まぁ、そんな事は良い。仕方ないからそのままで話そう。馬車を用意した」


 彼はそう言うと、王城から出て比較的大きめの馬車に乗り込んでいった。

 俺もメリアを背中にくっつけたまま乗り込んだ。


 出発して暫くしてから、ハンニバルが口を開いた。


「さて、今回の件だが。逃げる時に曲がるべき道で妨害されたのだな」


「あぁ、俺がまだ曲がるそぶりも見せてないのにナイフが飛んできた。相手がそのナイフを拾っているほんのわずかなロスで、この子達に助けられたがあのままでは今頃死体かどこぞの貴族に監禁されていただろう」


「ふむ、という事は考えたくないが、侯爵が王弟側に着いたという事だな」


「あぁ、君の話から考えるとそう思うしかない」


 侯爵が持ってきた計画は、実は事前にハンニバルから侯爵に打診をしてもらっていた。

 俺としては誰が誰か分からないというのと、王弟派がどこまで侵食しているか分からなかったので、彼と王女様にギリギリのラインを考えてもらっていた。

 そして、そのラインは見事に大当たり。

 危険を冒した価値はあったという事だ。


 もちろん相手は俺達が疑っている何てこと考えていないだろう。

 理由としては、王女派で何人か同時に同じ内容の手紙を送っている事。

 この事で相手は、自分は王女派だと思われていると感じさせ、尚且つそれを逆手に策を弄せるように仕向けたのだ。

 そして、その何人かの策の中から侯爵の策が一番だという体で打診し、実行した。

 こうする事で、誰かほかの奴が疑われる可能性を相手に植え付け、尚且つ実行に移させるというのが成立したのだが、実行段階になって連絡が上手く行かず俺は袋小路に追い込まれてしまった。

 全くもって、メリア達が居なければ俺は本当に死んで……あ、今更ぞわっとしてきた。

 

 俺が身震いしていると、膝の上に居たメリアはギュッと俺のお腹辺りにしがみついてきた。

 そのお陰もあって、恐怖が幾分か和らいだので、頭を撫でておいた。


「侯爵で間違いないのは分かったが、次はどんな手で来ると思う?」


「恐らくだが、奴は孤児を狙ってくるだろう。拉致してしまえば少なくとも君はいう事を聞かざるを得ない。そうしてから王女をミスリードさせて破滅させる。悪くない手だろう」


「なるほど、そうなると子ども達が危ないか……街に移すというのも手だが、俺が一緒じゃないと行かない子も出てくるだろうからな……どうしたものか」


 このままでは、子ども達が危ないのだが、現状打てる手があまりない。

 そして、打てる手はどちらかというと対処療法になる。

 攫われない様に警備を強化する。

 攫われた際にすぐさま追いかけられる様にする。

 現状打てるのは、この二つくらいだろう。


「攫われる状況下で機転を利かせられる子どもは居るかな?」


「いる」


 ハンニバルの何気ない一言に、俺の腹にしがみついていたメリアが、ハッキリとした口調で答えてきた。


「ほう、誰がそういう子だ?」


「みんな」


「みんな? みんな危ない状態でも冷静で居られるのか?」


 俺とハンニバルの質問にメリアはコクンと頷いた。


「みんな、いきるためにした」


「生きるためにした?」


「うん、あぶないこと、いっぱいした」


 なるほど、孤児が生きていく為には、技術が居る。

 それは盗みであったり、脅しであったり様々だ。

 そして、それらの技術を彼らは持っていたのだろう。


「なるほど、確かに頭の良い子でないと無理だな……」


 そう、スリや盗みの技術とは馬鹿では使えない。

 相手の視線、仕草を盗み、自分に向いてない一瞬を捉えなければならないのだ。

 しかも見つかれば即終了。

 死と隣り合わせで常に成功しなければならない。

 そんな事、馬鹿にはできないのだ。


「……わかった。君たちに協力を要請しよう」

 

「な、ハンニバル! 子どもを使う気か!?」


「それしか今は策が無いし、相手の油断を誘えない」


「…………俺は、嫌だ。彼らは子供じゃないか! もうそんな事を、危ない事をさせたく、ない」


「ロイド、だいじょうぶ」


 メリアは俺の顔をジッと見つめてきた。

 それは、子どもの目ではなく、1人の仕事人の目。

 そして、彼女は続けて話し始めた。


「ロイド、力になる」


「……ぐっ!」


「ロイド、ここは彼女たちに任せよう。最悪の場合に備えて俺の私兵を周囲に配置しておくから、な?」


 悔しい、力のない、知恵の無い自分が悔しい。

 この子達に危険を冒させないといけない自分に腹立たしい。

 しかし、この状況下で駄々をこねている時間はない。

 王女様の地盤固めの為に貴重な時間を使ったのだ。

 後は、なりふりかまってられない。


「わかりました。メリア達に協力をお願いしましょう」


「分かってくれたか……」

「ただし、彼らの安全、命、絶対に守ってください。お願いします」


 俺は、揺れる馬車の中で、ハンニバルに精一杯頭を下げるのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ