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3-17

少し長い目です。

 走り続けてどれくらいが経ったのだろう、正直時間の感覚も距離の感覚も全くない。

 ひたすら走り続け、ひたすら路地を行ったり来たりしていたのだが、ついにと言うかなんというか、辿り着いてしまった。

 そう、行き止まりである。


 見事な袋小路に追い込まれた俺は、どうする事もできず、後ろから追いかけてきているであろう暗殺者を探した。

 

「流石に不味いな。袋小路とかどうするんだよ……えっ!?」


 俺が愚痴を零していると、壁の隙間からにゅっと手が出てきた。

 そして、その手は、俺の方に向かっておいでおいでと手を振って来たのだ


 罠かもしれない。

 いや、今の状況を考えるに罠にはめる必要性はかなり少ない。


「……仕方ない。賭けに出るか」


 俺は、敵が待ち構えているかもしれない事も考えながら、人一人がやっと通れるくらいの隙間を通り抜けると、そこには小さい子ども達が俺の方をジッと見ていた。


 年の頃は、大分ばらつきがあるが、大体10~4歳くらいと言った感じだ。

 そして、その目には狂気や殺意と言ったものは無く、そこにある〝物〟をただ眺めていると言った感じだった。


「すまない、助かったよ。後、どうやったらこの街から出れるか教えてくれると助かるんだけど」


 俺がそう言うと、1人の女の子が手を出してきた。

 金か食糧が欲しいのだろうか?

 とりあえず、俺は今持っているだけの金の入った袋を渡した。

 といっても中身は銀貨数枚と銅貨が入っているだけだ。


「…………」


「お金は今持っているのは、これだけだ。後は街に置いてきているから、今すぐには渡せない。屋敷に帰ったら必ず礼をするから助けてくれないか?」


 俺がそう言うと、少女はこくんと頷いて歩き出した。

 着いて行くのかどうかわからず迷っていると、少女は振り向いてジッと見つめてきた。


「こっち、金ぴか。あっち、銀ぴか」


 少女はそう言って両側を指さした。

 金ぴか……、まぁ確かにあの人は金大好きだからな。


「じゃぁ金ぴかの方に案内してくれるかな?」


 俺がそう言うと、少女はまた頷いて歩き出した。

 そして、俺がその後ろに続くと、他の座り込んでいた子ども達も後ろについて歩き出した。

 これじゃ、まるでハーメルンの笛吹きだな。

 などとくだらない事を考えていると、少女は俺に話しかけてきた。


「かね、取られる。めし、欲しい」


 そういうと、彼女はお金の入った袋を戻してきた。

 もちろん、空いてる手には、銀貨が数枚握られていたけど。


「あ、あぁ分かった。じゃぁ助かったら君たちを食べ物に困らない様にしよう」


 俺がそう言うと、後ろに居た子ども達が驚いた表情で俺の方を見ていた。

 

「……それ、嘘じゃないよな?」


 恐らく一番最年長だろう少年が俺の方を睨みながら言ってきた。

 それは、まるで信用なんて一切しないと言っている様な眼だ。

 俺は、彼の眼をジッと見つめ、力強く頷いて約束した。


「あぁ、絶対に、だ。約束する」


 俺がそう言うと、少年らは少し戸惑う様な表情をしたが、それ以上何も言ってこなかった。



 暫く歩くと、金ぴかの目立つ鎧を着たハンニバルの姿が見えた。


 彼は、俺の姿を確認すると、すぐさま子ども達を捕まえようと動き始めた。


「ちょっと待ってください! 彼らは敵じゃありません! 私を助けてくれた命の恩人です」


「え? あぁ、それで君はそんなにいっぱいの子供に囲まれていたのか」


 俺が声を挙げるのと同時に、ハンニバルの私兵は拘束しようとした動きを止め、元の配置に戻り始めた。

 流石に戦上手で鳴らすだけあって、個々人の練度は本当に見事だ。


「金ぴか、敵?」


 いつの間にか俺の後ろに隠れていた少女が顔を少しだして、俺に尋ねてきた。


「敵じゃないよ。変な人だけど、悪い人じゃないからね」


 俺がそう言うと、警戒していた周囲の子ども達も少し緊張を和らげた、とはいえ、信用できないのだろう、手には未だに石などが握られている。


「ところで、ロイド。彼らは一体何人いるんだい? 見たところ両手では数えられそうにないのだけど……」


 そう言えば、確かに何人いるのか分からない。

 まぁとりあえず、俺は王都滞在時に貸し与えられている王家の別宅に彼らを連れて行く事にした。




 連れて帰ってまずした事は、メイドなどに湯を沸かさせ、風呂の支度をさせ始めた。

 彼らの殆どは、何年も風呂に入っていないのだろう、髪は油でべったりと張り付き、衣服は黒くボロボロになり、体は垢とフケでとんでもない臭いを放っていた。


「まず、全員風呂に入る。まずは女の子から入ってこい。その後男の子が入る。家の中では、女の子はメイド服の余りを貰って着るように、男の子は執事服があるからそれを着ておいてくれ。明日にはサイズに合った服を買ってきてもらう。それまでは大きいが我慢してくれ」


 俺がそう言うと、庭先に集まった子ども達は一斉に頷いた。


「あ~あと、もし大切なものがあったらそれは一旦預けて欲しい。着替えが終わったら各自返すから、名前が分かる子は名前をそこのお姉さんに告げて並んで渡しなさい」


 名前という言葉が分からないのか、数人は首を傾げていたが、どうやらそこまで多くは無いようだった。

 もちろん名前の無い子は不便なので、その場でメイドたちに子どもができたとしたらどんな名前が付けたいかという無茶ぶりをして、即興で命名された。


 命名された中には、あの少女もいた。

 彼女については、俺の方で名前を考えてやった。

 幾つか気に入りそうな名前を言うという方法ですると、「メリア」というのが気に入ったのか、嬉しそうに頷いていた。

 

 そこから先は、メイドたちは戦場の様に慌ただしく動き始めた。

 まず、衣服の用意と風呂の用意を始め、同時に食事の用意もしだした。

 

 食事については、味よりもまず量を優先する様に伝え、兎に角満足させることにした。

 なにせ、子ども達の人数は、約20人。

 とんでもない人数が押しかけているのだ。

 味にこだわって悠長に作っていたら倒れだしかねない。


「ロイド様! こんなに連れて来られては困ります! ここは孤児院では無いのですよ!」


 そう言って文句を言ってきたのは、メイド長だ。

 彼女は恰幅の良い体系をこれでもかと揺らしながら俺に迫ってきた。

 確かに、王女様から借りているだけの俺がこんなことをしたら怒るのも無理はない。


「いや、その、この子達が居たから俺は助かったのだから、礼くらいさせて欲しいんだけど……それにつれてきて追い出すわけにはいかないでしょ?」


「確かに連れて来たのは仕方ないですが、今度からはもう少し後先を考えて約束をしてくださいね!」


「は、はい……」


 俺がそう言うと、彼女はフンっと鼻息荒く厨房に戻っていった。

 そんな俺の様子を心配そうに見ていたメリアは、俺の方に寄ってきてぎゅっと腰に抱き着いてきた。

 

「……めいわく?」


「ん? 迷惑じゃないよ。大丈夫、今度は俺が君たち全員守ってあげるから安心しな」


 俺はそう言って、彼女の頭をポンポンと撫でてやると、嬉しそうに笑って風呂に入りに行った。

 きっと元はあんな風に笑っていたんだろうな、と思うと少しこみ上げるものがあった。


 風呂が終わって、全員がさっぱりすると食事の時間である。

 用意されたのは、スパゲッティの様な麺と、野菜のスープ、そして黒いパンだ。

 黒いパンは別に焦げている訳では無い。脱穀などが上手くできず、小麦を白い粉にしきれていないから黒くなっているだけだ。


「それじゃ、全員俺がやっている様にして。手を合わせて、いただきます!」


「「いただきます!」」

 

 そこから先は、凄まじかった。

 パンやスパゲッティを手掴みで掴んだかと思うと、直接口にほおばり、スープをズルズル音を立てて飲み干しすなど、メイドたちが驚いているのも気にせず無我夢中で食べ始めたのだ。

 よく兄弟が多いと食事は戦争だ、などと聞いた事があったが、正に目の前で繰り広げられているのは、戦争と言っても過言では無いだろう。

 同時に同じパンを掴めば引っ張り合いをし、スパゲッティの端が一緒であればすすり切ろうとお互いに息を吸い込み、スープのお替りがあるとわかると、矢のような勢いで皿をメイドたちに差し出していた。


 そんな戦争も、開始から40分ほどが経過すると、流石に腹がいっぱいになって来たのか、何人もの子が、臨月かと見まがうような大きなお腹をさすりながら椅子にもたれかかっていた。


「全員食べ終わったか? なら、最後の挨拶だ。そこ、挨拶しなかったら明日の朝ごはんなしにするぞ」


 俺がそう言うと、先程まで、挨拶に対して不満顔だった子も、大人しく言う事を聞いて手を合わせていた。


「では、ご馳走様でした」


「「ご馳走様でした!」」


 子ども達の賑やかな声が響き渡るのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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