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ツギクル大賞の1次選考突破しました! これも皆様のお陰です! ありがとうございます。m(__)m
議会が閉幕して、会場を後にすると、出口に一人の男が立っていた。
そのいで立ちは、金の装飾をふんだんに使った派手なものであるはずなのに、本人の顔も派手なせいで、全く見劣りせず、むしろ似合っている印象すら感じさせるものだった。
その男は、俺が会場から出て来たのに気づくと、傍に歩み寄り、握手を求めてきた。
「やぁ~ロイド、王都に行くと聞いてね。俺も馬車を飛ばしてきてしまったよ」
「これは、ハンニバル伯爵。こちらからご挨拶せねばなりませんところを――」
「何を畏まっているんだい? いつものようにハンニバルと呼び捨てで良いんだよ」
そう言うと、彼は俺に対して意味深な視線を投げかけてきた。
……あぁ、演技をしろと?
「いや、申し訳ない。流石に王城だからいつもの様に声をかける訳にはいかないと思ってね」
「ハハハ、柄にもない。君はそんな遠慮する様な奴じゃないだろう?」
「そう言われると言い返しようがないな」
俺はできる限り大きい声で、彼と親しげに話した。
そして、話している声は、俺達だけに聞こえる訳では無く、議会から出てきた議員にも聞こえている。
そう、王弟派の議員にもだ。
「な、あれは王城嫌いで有名なハンニバル伯爵じゃないか?」
「一緒に会談しているのは……あ、あいつは反逆者じゃないか! いったいどういう事だ?」
まぁ、そら驚くわな。
先日矛を交えて、一応交易をスタートさせたといっても、関係は確実にギクシャクしているはずの二人が、なぜかここで笑い合っているのだ。
王弟派からすれば、不思議な光景だろう。
もちろん、王女派も不思議そうな顔をしているが、なんとなく察したのか、俺たちの話の輪に入ってきた。
「これはこれは、ハンニバル伯爵。王城に来られるとは珍しいですな」
「おぉ、お久しぶりです、侯爵。今日は、友が来ていると聞いたので、応援に駆け付けたのです」
それからハンニバルと侯爵と呼ばれた議員は2人で話し込み始めた。
少し邪魔するのも悪いので、辺りを見回してみると、エリシアの姿が見えなくなっていた。
……あの王女様、俺にハンニバルを押し付けて逃げやがったな。
などと考えていると、急に小声でハンニバルと侯爵に話を振られた。
「ところでお主、少し釣りの餌になってみる気は無いか?」
「……釣りの、餌ですか?」
「うむ、餌じゃ。お主を餌にして、王弟派の口を閉ざしたいと思っておるのじゃよ」
「まぁ要は、俺が少し目を離したすきに暴漢に襲われてくれって事だ」
「ストレートすぎるでしょ、その表現は……」
「いや、ハンニバル伯爵が言っておる通り、暴漢に襲われて来てほしいのじゃ」
「…………」
「手はずは、この通りじゃ。よく読んで暗記して実行してくれ。ではさらばじゃ」
手はずは整っているのか…………、ってそれは俺が来た時から餌にする気だったって事かよ!
俺が1人自分の心の中で突っ込んでいると、ハンニバルが続きを話し始めた。
「とりあえず、王女様の許可は取らずにやるぞ。あの人加減知らないし、化かし合いには向いてないからな」
そう言って人のことを棚に上げて笑い出すハンニバルだった。
王都の夕暮れ時は、多少の活気が戻ったとはいえ、未だに不気味な静けさがあった。
議会が終わったのは昼過ぎ、それからすぐにハンニバルに昼餉と称して馬車で連れ去られ、街の高級レストランに連れて行かれた。
そして、その場で散々ワインがどうとか、この肉の焼き加減がどうとか、デザートがどうとウンチクをずーっと聞かされ続け、疲労困憊となった所で、作戦が始まった。
作戦の方法は、二人で散策している間に俺が周りに見とれたふりをして、路地を曲がってしまう所から始まった。
もちろんすぐに釣れるなんて考えていなかった。
いなかったのだが、運命とはよくよく人を裏切るのか、俺の目の前に3人のフードを被った男たちが居た。
「……ロイド・ウィンザーだな?」
男の声は、とても低くそして何とも言えない冷たさがあった。
「……そうだと言ったら?」
俺がそう答えると同時に、フードの男たちは、それぞれ得物を取り出した。
左の男が持っているのは、ショーテルの様な半月状の剣。
右の男が持っているのは、ククリナイフの様な刃の厚い短剣。
そして、真ん中の男が持っているのは、後ろ手に隠されているせいで、良く分からない。
「大人しく付いてくるか、ここで死ぬか選べ」
「……、どっちも嫌だと言ったら?」
「死ね!」
男はそう言うと、俺の方に向かって猛然と走ってきた。
もちろん俺もボーっと見ていない。
奴が来る前に手近にあった物を投げつけて反対方向に逃げ出したのだ。
「ちっ! お前は右から回り込んで退路を狭めていけ!」
俺は男の声を背中に聞きながら、狭い路地を必死になって走った。
ここで捕まっては意味がない、奴らをハンニバルの待ち構えている場所まで連れて行かなければならない。
「居たぞ! 追え!」
右手からは、先程ショーテルを構えていた男が、後ろからはククリナイフの男が追ってきていた。
右と後ろを気にしつつに逃げるのは、正直難しい。
だが、この1年程度はずっと徒歩で山だろうが、どこだろうが歩いてきたのだ。
簡単には追いつかせない。
少しの間死と隣り合わせの追いかけっこをして、やっとポイント近くにきた。
後は、あの角を曲がれば……。
俺が左に曲がろうとした次の瞬間、顔を掠めるギリギリの所をククリナイフが飛んできた。
ちょっとまて! ククリナイフの使い方じゃないだろ! それ!
俺は心の中でツッコミを入れながらも、曲がるはずの道を曲がれなかった。
そう、曲がれなかったのだ。
地理に不案内な俺が、決められてない道を走る。
これほどまでに不安な事があろうか?
1年前の戦場から逃げ出した時と同じくらいの恐怖が、いやより強い恐怖が俺にのしかかろうとしていた。
いや! 怖くない! 怖くない! 怖くない!
恐怖を感じた瞬間足が竦みそうな気がした俺は、必死になって頭の中から恐怖を振り払い、走り続けた。
千岩黎明さんにイラストを書いて頂きました! とても素晴らしい絵です。絵の雰囲気に合わせて「2」にて公開しておりますので、是非ご覧ください!
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m