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2017.1.23マリー視点で内容を追加。

 前村長であるベクターさんの葬儀を行った後、俺達は村の再建に取り組むために地区の代表者で話し合いを始めた。

 だが、ここで大きな問題がある事がわかった。

 

「恐らく魔物は、またこの村を襲ってきます」

 

 そう言ったのは、村一番の狩人であるライズ・ヘクマティアルだ。

 彼は山に入る関係で魔物の生態にも詳しく、今回の騒動についても1つの仮説を立てていた。

 それは、爆発的増殖だという。

 魔物は基本的に周囲の山の恵みを食べて成長し、山道等で人を襲い始めるのだが、前年に大量の人を襲う事に成功した魔物は食料が豊富になり爆発的に増えるそうだ。

 そして、次の年になると増えた魔物を山の恵みや山道の人を襲うだけでは賄いきれず、近くの人里を集団で襲い、食料を確保しようとする。

 しかも、一回だけでなく、討伐されるまで何度も彼らは襲ってくると言うのだ。


「何度もか?」

 

「えぇ、残念ながら何度もです」

 

 このライズの一言に、集まった村民は一様に暗い表情となった。

 かく言う俺もこの厳しい現実を前に、どうしたものかと悩んでいた。

 

「それで、街へ援軍要請に行くわけにはいかんのか?」

 

「残念ながら次の襲撃は持って行った食料と襲ってきた魔物の数から恐らく1週間後、援軍を要請して受理され、派遣されてくるのは、軽く見積もって3週間後です。間に合いません」

 

 となると、村を放棄するか、立て籠もるかのどちらかか、幸いなことに村の柵は意外に頑丈にできていた様で、入り口を直せばまだ使える状態だった。

 それに、ベクターさんに託された村だ、放棄するなんて選択はしたくない。

 俺が悩んでいるのを皆が心配そうに見つめていた。

 

「……よし、ここは防衛戦をしよう。明日、村民全員を中央に集めてくれ、今後の方針を話したい」

 

 俺がそう言うと、集まってきた代表者は、お互いに顔を見合わせてから質問してきた。

 

「ロイド、何か策があるのか?」

 

「あぁ、俺の知る限りの知識を使って、この村を守る」

 

 俺の力強い一言に安心したのか、村民はそれぞれの地区の住民に明日の朝集合する様に伝えに帰っていった。

 

 

 

 

 

 次の日の朝、村民約50人が広場に集合した。俺は皆の前で方針を伝えた。

 

「みんな聞いてくれ、昨日の会議の結果、この村で防衛戦をする事に決定した。そこで今日は役割分担をお願いしたい」

 

 俺がそう言うと、代表以外の村民がざわざわと不安そうに話し始めた。

 その話が終わるのを待って俺は自分の方針を話し始めた。

 

「まず、村の柵の前に堀を作る。これは男手と子供を使って行いたい」

 

「ほり?ってのは何だ?」

 

 どうやらこの世界では利水という考えがあまり無いようで、堀について説明しなければならなかった。

 

「堀と言うのは、敵の侵入を防ぐための言わば見える落とし穴だ。一段低い場所を作って敵の勢いを止めるんだ。それにここに川の水を流せば、平時には水を村内に行き渡らせる役目もある」

 

「なるほど、それは良いな。で女手はどうするんだ?」

 

「女手は修繕できる家屋を直し、荒らされた田畑から食べられるものを見つけて加工してもらうのと、槍などの武器を作ってもらいたい」

 

「私らは武器なんて作った事ないよ?出来るのかい?」

 

「武器づくりに関しては、狩人のライズに指導してもらう。彼なら弓矢や罠も作れるし、矢を作る方法から武器も作れる。武器の作り方は彼に昨日教えているから聞きながらやってくれ」

 

 ここまで話し、俺は一息入れ肝心の部分を伝えた。

 

「さて、ここで一番重要な事だが、誰か馬に乗れる奴に街まで援軍要請をしに行ってもらう。これは失敗できない任務だ。援軍が無ければいくら防御が硬くても意味は無い。正直ジリ貧になって俺達は負けてしまうだろう。後、援軍が来るまでは村の全員で戦ってもらう。老婆は飯炊き、子供はその手伝い。後は男だろうと女だろうと槍を持って戦ってくれ。敵をある程度叩けば、暫くは襲ってくる事は無くなるはずだ」

 

「俺はこの村の生まれじゃないが、前村長である義父さんに頼まれた。全力で村を守りたいと思っている。だから……だから俺に力を貸してくれ!」

 

 俺は必死になって頭を下げた。

 

「……はん、何言ってんだよ。そんなの当たり前じゃないか! 俺はお前に着いて行くぞ! ロイド!」

「あぁ俺も!」

「私もよ!」

 

 村民たちは俺の願いを快く聞き入れてくれて、賛同の言葉を次々とかけてくれた。

 その言葉に俺が涙を浮かべていると。

 

「ロイド村長! 早く指示をしてくれ! 急がないとダメなんだろ?」

「そうだ! そうだ! 早くやろうぜ!」

 

「……あぁ、そうだな!全員これから頑張ってやるぞ!」

 

 俺の掛け声に全員が大声で答えてくれた。

 涙ぐみそうになるのを必死に我慢して、俺はすぐに堀の作り方について説明した。

 

「まず、堀の作り方だが、出入り口の所以外は全て掘る。掘る深さは、できれば腰まで欲しい所だが、今回は急ぎの仕事になるから膝まででいい。後広さは、人2人が十分作業できるくらいの広さを、確保しながら掘ってくれ、掘る場所だが、入り口から左右に向かって進むのと、端っこから進むのと、その中間点から左右に進む合計8か所からスタートしてくれ」

 

 俺の指示に掘り進む予定の男たちが頷いた。

 

「そして、子供と待機している男手は掘って出た土を柵の内側で一か所邪魔にならない所に固めて置いておいてくれ。これはもしかしたら後々使えるかもしれないから取っておく」

 

 子どもと老人等の掘り続けるのが難しい人が頷いた。

 

「では、行動開始だ。頑張ってくれよ」

 

 こうして、村の防衛力向上の突貫工事が始まったのだった。




村 マリー


 ロイドが、村の皆の前で今後の展望を話していた。

 彼は、もうすでに〝次〟を見ているのに、私は未だに前に進めていない。

 それどころか、この村人集合の時も、私は後ろめたい気持ちがいっぱいで、みんなの輪に入れずに居た。


「……ロイドは、すごいな……。それに比べて、私は何もできないどころか、村長さんを……」


 ダメだ、また泣けてきた。

 もう、なんて言ったら良いのか、どうしたら良いのか分からない。

 どんな顔して、彼に会ったら良いのだろう?

 どんな顔して、彼と話したら良いのだろう?


 それに、村の皆も今は何も言ってこないけど、きっと私の事嫌いになっている。

 お父さんは、『大丈夫』って言ってたけど、私が大丈夫じゃないよ……。


「はぁ~、また、泣きそう……」

「泣いたら良いんじゃない?」

「ひゃっ!? ロ、ロイド!? いつからそこに?」


 振り返るとそこには、ロイドが心配そうな顔をして立っていた。


「どうせ、『ベクターさんが死んだのは、私のせいだ~。村の皆にどう言おう、どんな顔したらいいんだろう』って悩んでるんでしょ?」


 うっ……。

 なんでそんなに、私の心の中が分かるんだろう。


「そう言う時はね、何が原因だったのか、何をしたら防げたのかを考えるんだ。そうすれば、次に活かせるし、マリーの心も少しは晴れるよ」


「そ、そうなの?」


「あぁ、そうさ。それに今のままマリーを放って置いたら、心の病気になってしまう」


「心の、病気?」


 なんだろう? 体がしんどいとか、体の病気は聞いた事があるけど、心も病気になるのかな?


「そう、心の病気さ。PTSDって言ってね、心に大きな衝撃を受けた時、なってしまう病気さ」


「ピーテー、エスデー?」


 な、何の病気だろう、何が起こるんだろう?


「まぁとりあえず、話をしっかりとしよう。本当は昨日のうちにしたかったんだけど、できなかったからね」


「う、うん……」


 それから私は、ロイドになぜ母の形見を大事にしていたのか、なぜ逃げなかったのか、それをどうしたら防げたのかを話し合った。


「……なるほど、だけどマリー。君がお母さんだったら、『命と形見』どっちを大切にして欲しい?」


「……命、かな?」


「うん、そうだよね。命に代えられるものはない。逃げなきゃならないなら、命を選ぶべきだったよね?」


「ベクターさんは、私のドジで死んだのかな……」


 私の問いかけに、ロイドは目を瞑って考え始めた。


「ん~、それは違うかな? ベクターさんは誰であっても助けたし、もしかしたらゴブリンが山を登ってきたら、1人進んで犠牲になったかもしれない」


「でも……」


「うん、今回はマリーの責任だよ。だけどマリー、君はベクターさんが命を懸けて思いを託した一人なんだよ? ベクターさんの為にも頑張らないとね?」


 その言葉を聞いた時、やっと胸につっかえていたものが出始めた。

 私は、その場で涙を流し、大声を挙げて泣けたのだ。

 そして、そんな私を彼は優しく頭を撫で続けてくれたのだった。

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