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3-15

 王都フィリッツオイゲンに到着したのは、出発してから3日後の事だった。

 街から王都までは普通に走れば1週間かかる場所だが、そこは王女様。

 途中の村や街で替えの馬車馬が用意され、とっかえひっかえで走りっぱなし。

 最初は馬車のひどい揺れで、ゲーゲーやってた俺も、途中から胃の中の物も出なくなって死体の様にぐったりしていた。


「ほれ、いつまでくたばっているのだ? 王都に着いたぞ」


 そう言われて馬車の窓から見た景色は、どことなく活気のない人々と、路地で丸く蹲っている子供達だった。


「王都、という割には活気が無いのは気のせいですか?」


「うむ、その点は間違ってはおらん。今の王都は正直活気ある状況とは言えないからの」


「飢饉のせいかな?」


「そうじゃな。それと合わせて政争をずっと続けているせいもあるな」


 なるほど、王弟派としては、格好の攻撃材料だから頑張って足を引っ張っているって訳か。

 まぁ国政が滞ればそうなるわな。

 

「そうなると、まずは街の方をどうにかしないとな……」


「ん? 街の方を? 王弟が居るのになぜじゃ?」


 エリシアは心底分からないという顔をしている。

 まぁ彼女の頭の中は、いかにして王弟を排除して自分が王位に就くかという事でいっぱいなのだろう。


「はぁ~、それじゃ王弟と一生化かし合いを続けるのか?」


「む、そう言う訳では無いが……なぜ街を優先するのかが分からんのだ」


「……じゃあ王女様。王様ってのは、なんですか?」


「それは、王位継承権のある者から、議会が承認した者の事を王という」


「じゃあ、その議会を支えているのは?」


「貴族じゃ、議員は貴族で構成されている。ってそんな事くらい知っているぞ?」


 エリシアはこれくらい当たり前だ、とばかりに俺の方を睨んできた。


「それじゃあ最後です。貴族を支えるのは?」


「それは……領土か?」


「…………」


 あまりにもトンチンカンな返答に俺はしばし言葉を失いながら、一緒の馬車に乗っていた衛兵の老人に目配せをすると、彼は明後日の方を見て視線を合わせてくれない。

 マジか? マジなのか? この王女本気で分かってないのか?


 俺の微妙な表情と、老人とのやり取りに自分が間違っているかもしれないと、不安になってきたエリシアは、しきりに瞬きと俺たちの顔を見てオロオロとしていた。


「な、わ、私は何かおかしなことを言ったのか?」


「あのですね、王女様。いくら領土があっても民が居なければ意味がない。民あっての国であり、民あっての王なんですよ?」


 俺の言葉に彼女は、何か気づいたのかハッとした表情になりながらも黙って聞いていた。


「民の居ない王は、裸の王様と一緒だ。単なるホラ吹きなんだよ。だから、民を優先するんです」


「しかし、決めるのは貴族だぞ? 貴族を取り込まなければ意味が……」


「確かに決めるのは貴族です。ですが、貴族だって自分の領地の民を無視はできない。民が王女様を支持すれば、彼らも渋々でも支持せざるを得なくなるはずですからね」


「……なるほど」


「まぁ圧政をしている貴族も居るだろうから、皆が皆寝返るとは思えないけど、議会の運営はしやすくなるはずです」


 この辺は、どうなるかは分からないが、それはそれで別の崩し方を考えるか、最悪排除してしまうしかない。


「で、何をすれば良いのだ? 基本的な事は議会の承認が無ければできないのだが」


「それなら考えがあるから任せてもらいましょう。そちらの懐事情とかを教えてくれるとやりやすいので、その辺の情報も宜しくお願いしますよ」


 




 王都に到着して3日後、王都の居住区の一角に立て札が立った。

 この立て札を見た国民は、半信半疑の者が大半だったが、実際に書かれた事が行われた事で、疑いは信頼という感情に変わり、信頼は支持に変わった。

 この変化を受けて、王都の議会も動きを加速し始めた。


「どういうことだ! 王女殿下が議会を通さずに政策を行うなど前代未聞だぞ!」


「そうだ! 勝手に政策を展開するなどあってはならないではないか!」


 議会の王弟派議員は、口々に議会を蔑ろにしたと王女を罵っていた。


「何を言うか! あれは王女殿下が私財をなげうって行った慈善事業だ! 効果があるから議会でもやってみてはどうか、と提案してくださっているのだ! どこに問題がある?」


「そうだ! しかも王女殿下は、議会で承認が得られないなら、自らの財産で続けるとおっしゃっている! これほどのお気持ちに対して議会軽視だというのは、愚の骨頂!」


 もちろん王女派の議員も黙っては居られない。

 今回の事に関しては、王女の独断ではあるものの、やっている内容自体は、慈善事業以外の何ものでもないので、考えが分からずとも支持を表明するしかない。


「しかし、議会の承認を事後に取るなど――」

「我々が何も決められないから業を煮やされたのだ! 私財を使っているのだから何が悪いのだ!」


 そして、慈善事業の内容自体がしっかりとしているので、その事を議員も批判できず、議会軽視という言葉だけを連発するしかない状態だった。

 

「それも確かに問題だが、王女殿下は何故あのような不埒者を登用するのだ? 聞けば今回の政策もあ奴の献策だという」


「確かに奴は反乱した村の長だが、女王殿下が直臣として取り立てられたのだ。素晴らしい事では無いか。才ある者であればどんなものでも使うという、まさに王者の度量といえる」


「何を言うか! 王女殿下が王城を出てから早3ヶ月、その間に奴に丸め込まれたという可能性もあろう! 大体武辺者の王女殿下にそんな取引……」


 流石に言いかけた内容が、王族批判になりそうだと気が付いて口を濁したが、王弟派の議員は基本的に、「王女に政治は無理」と判断しているので、口をついて出てしまいそうになるのもわかるというものだ。


「それに、奴を捕らえる絶好の機会ではないか! この機会に捕らえれば、反乱を起こした村を殲滅し、元に戻せる!」


「なぜそうなる! 王女殿下が直臣にお加えになった時点で、反乱について沙汰無しとなったのだ! それを蒸し返してどうするか!」


 喧々諤々とはまさにこの事であろう。

 誰かが挙手して意見を発言するのではなく、議長を無視して各々で意見を飛ばし合っている。

 それも、当の本人である俺と、王女の前でだ。


 これだけ紛糾しているのは、俺のうった政策のせいだ。

 現在の王都の状態は、控えめに言っても活気がない。

 というか、住民の目が死にかけているといっても良い状態だ。

 

 理由としては幾つかあるのだが、一番の理由は、2級国民の居住区でかなりの死体が放置され、流行り病が出ている事だ。

 この事に危機感を抱けない議会に対して、俺はエリシアに2つの提案をした。

 1つは、2級国民の死体の埋葬だ。

 流行り病の温床となっているので、通常は土葬にするところを、火葬で一気に燃やす事にした。

 もちろん2級国民には、遺品を1つ取る事の許可と、碑を立てる事を約束して行った。

 通常、国家主導の葬儀の場合、2級国民には財産権がほぼ無いので、埋葬時に金目の遺品は全て没収されるのだ。

 そこを、俺は最低1つ遺品を持つことを許可して、葬儀代として、残りの遺品を頂戴するという形を取るように献策した。

 これは、2級国民に驚きと称賛をもって迎えられた。

 そして、2級国民の死体の埋葬は、1級国民の間でも称賛の声が響いた。

 その理由は、どれだけ議会に陳情しても始まらなかった事を、王女が王家の財産で行い、街の衛生状況を改善させたからだ。

 この事で、まず国民は王女支持に傾いてきたので、更に一手進める事にした。


 それは、食の確保である。

 現状王都では、食料の生産がほぼ無い。

 理由は色々とあるのだが、王都周辺に麦の栽培に適した土地が少ないという事と、未だに森に対する打開策が無いことが原因と言える。

 この森に関する点を、俺は王女様の財産を使って解決に乗り出した。

 それは、中級魔術師の雇用だ。

 彼らの大半は国家に雇われる形を取り、残りの少数が傭兵の様な生活をしている。

 その傭兵の様な生活をしている魔術師たちに、報奨金という目に見えるものをぶら下げて、木々の伐採をさせたのだ。

 報奨金は、1日働いたら銀1枚、切り倒した木は、樹齢で変わるが1本銅10枚~銀3枚までで取引していった。


 そのお陰もあってか、王城周辺の森が一気に無くなり、土地が広がったのだ。

 まぁ防衛上これが良いかと言われると微妙だが、今は防衛よりも国民の食を確保する方が大切なので、無視する事にした。


 とまぁ、食の確保はまだ途中だが、やっている事は、無断開発に近いのでその点を議会はさっきから話し合っているという訳だ。

 

 ある程度話が尽きて来たのか、徐々に議論の熱が下がって来たのを見計らって、先程まで口を挟まなかった議長が声を発した。


「どうやら、少し様子を見る必要がありますな。私からは、一時議会を中断して各々が考えをまとめるというのでどうでしょうか?」


「異議なし」


 議長の提案が議会の一致で通り、王女の行動については、暫く様子見という名の黙認が決定された。

 議会が終了を宣言されるのと同時に、議長が王女の元へと歩み寄ってきた。


「仔細は後ほど報告書にてお渡しします。ですが、今回のようなことは余りなさらないでください。私が困りますゆえ」


 そう言って、議長は王女だけに見える様に笑って見せた。

 なるほど、議長までは王女派という訳か。


 それを受けてエリシアは、もっともらしく頷いてから、話し始めた。


「うむ、その事については申し訳ない。私としては早く国民に救済をと思って行った。行った事に後悔は無いが、少々拙速であった事を詫びよう」


 こうして、議会の追及は一旦止まったものの、結果が出なければまた叩かれるので、どうにかして結果を残さないといけない。


色々と思う所もあるかと思いますが、今後もご後援頂ければ幸いです。m(__)m

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[気になる点] > 喧々諤々とはまさにこの事であろう。  誰かが挙手して意見を発言するのではなく、議長 ーーー 『喧々囂囂』と『侃々諤々』が混ざってます。 誤字報告機能〜ry
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