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3-14

 石垣作りが始まって2日後、一騎の早馬が街のエリシアの家に駆けこんできた。


「ご注進! ご注進でございます! 姫はどこに居られますか!?」


 あまりの大声に驚いた街の民は、畑仕事の手を止めて騎馬の行く先を見送っていた。

 丁度午後の昼餉の時間と言う事もあり、家で食事をしていた俺も、騒ぎに驚いて飛び出していた。


「なにごとですか? 騒々しい」


 早馬に慣れているのか、エリシアは家の門前に文句を言いながら出迎えた。


「姫! 一大事でございます! すぐさま王城へお戻りください! 仔細はこの手紙にございます」


 どうやらかなり緊急の用事であり、また秘密裏にしたい情報らしく、手紙を渡されたエリシアも少々慌てて手紙を読んだ。

 

「――ッ! そんな……すぐさま移動の準備を! 後、ロイド! ちょっと話があるので我が家に」


 その真剣な表情から、今までのどこかふざけた様な様子も無かったので、つい従ってしまった。

 

「さて、呼び立てたのには訳があります。まずは手紙を読みなさい」


 そう言って手渡された手紙を読むと、そこにはニュールンベルク王国との戦争で敗戦が濃厚になった事、エリシアの父であるキング・ハイデルベルク王が敵中で孤立している可能性がある事が記されていた。


 ってかこの手紙読んだら拙い手紙じゃないか?

 俺がそう思ったのと同時にエリシアは、今まで絶対に下げなかった頭を下げてきた。


「ロイド、読んだ通り父の身が危険じゃ。そして私が頭を下げているのは、一時的にでも良い私の配下として王城についてきて欲しいのじゃ」


「な、ちょ、王女様? まず頭を上げてください。そして、事情をもっと分かるように説明してもらえませんか?」


 俺が懇願すると、彼女は頭を下げたまま話し続けてきた。


「お前がそう言うのもわかるが、私にも話せない事がある。あえて一言理由は、王弟としか言えないのじゃ」


 彼女が懇願する理由が、「王弟」要するに叔父の事……。

 彼女の叔父は、確か政敵になっていたと少し前にハンニバル伯爵から聞いている。

 その叔父が出てくるという事は……。


「なるほど、私を調略したという王弟派を切り崩す成果が欲しいのですね」


 俺のその一言に、彼女は顔を下げたまま、びくりと肩を震わせた。

 まったく、本気でこの子は政治に向いてないな。

 なんて、俺が言える事でもないか。


「どうして……、わかったのだ?」


 彼女は恐る恐る俺の顔を見てきた。

 それはまるで何か悪いことをした子どもが、母親に怒られるのではないかと心配する様な表情だった。

 その様子につい笑ってしまいそうになりながらも、俺は理由を説明した。


「そうですね。以前タラスコン伯爵から手紙で教えられる範囲の情報を頂いたんです」


「な!? あの男王家の情報を漏らしたのか!?」


 エリシアが俺の一言に驚きに怒気を含ませて言ってきたので、俺は慌てて否定した。


「いや、ちょっと待ってください! 彼が教えてくれたのは、王都で流れている噂話程度ですよ。いくら王城の人間がかん口令を出しても、そういう話はどこからでも漏れ出るものです。目くじらを立ててたら切りがない」


「うッ……。確かに、お父様の様子も何故か市井では知られていたからな」


 おい、この子サラッと王城の外を出歩いたと言ってるぞ。

 どんだけ無茶苦茶してるんだよ。

 俺が、少し心配そうにエリシアの後ろに居る護衛の老人を見ると、もう諦めたとばかりに大きなため息を吐くジェスチャーをしてきた。

 あ、これは相当なんだ。

 

「ところで、返事の方はどうじゃ? 王城に帰っている間だけでも良いのだ。できれば、豊作になる方法などを教えてくれれば、もっとありがたいのだが……」


「……はぁ、まぁ良いでしょう。ただし条件があります」


 俺の条件という言葉にまた彼女がびくりと震えたが、もう気にしない。


「条件は、王城へ付いて行き、貴女が王位を得たあかつきには、正式に街の独立を許して頂きたい」


「……え? それだけで良いのか?」


 どうやらもっと無理難題を出されると思っていたのか、彼女はホッとしたような、気の抜けたような表情で俺を見てきた。

 まぁ今の段階でも、独立状態にあるのだが、このまま無茶な独立戦争に突っ込むよりははるかに平和的で、お互いに得の多い結果になる。

 本来なら戦争するよりも、街をもっと大きく広げたいのだ。


 俺が頷くと、彼女はゆっくりと顔をほころばせていた。


「そうか、了承してくれて助かった……。ん? なら結婚という事にした方が――」

「それとこれとは話が違いますよ」


 何か良からぬ方向へ思考が飛びそうだったので、俺は慌ててその先を考えないように遮った。


「むぅ……。少しくらい夢を見させてくれ。私はあの商人の様にいき遅れたくないのじゃ」


 まぁこの世界では、結婚適齢期は15~18と言われている。

 人間50年か60年程度の時代ではまぁ、当たり前と言えば当たり前だ。

 そして、ドローナがいき遅れであるというのもこの世界の常識から考えれば、当然の感想なのだが。

 俺としては、彼女は彼女で十分魅力的だと思うし、嫁の貰い手は十分あると思う。


「そんな事を言ったら、また喧嘩になりますよ」


「まぁもう喧嘩をする必要もない。少なくとも、この村にきた意味はこれであったのだから」


 ん? って事はあれか?

 俺は彼女からはモテていたのではなく、ただ単に家臣として欲しかったから言い寄られていたのか?

 そうなると……、ちょ、俺が思い上がり野郎になっちゃうじゃないか!?


「ん? なんじゃ? 結婚も満更でも無かったのかの?」


「そりゃ、マリーが居なければそう思いましたよ。王女様も大人しくしていれば本当に愛らしいので……」


 俺がつい思っていた事を言ったら、エリシアの顔が急に赤くなり始め、しどろもどろになった。


「ななな、何を今さら、わ、分かり切った事を、よよよ、ようやっと理解したか?」


 その後、顔を真っ赤にしたまま、うわ言の様に何か言っていたが、聞き取れなかったのと、支度をしていたメイドや騎士たちが、用意が整ったと報告にきたので、即日出発する事になった。


 俺は、コーナーに石垣を何段まで積むのかや、その後の街の施設建設の段取りを彼に任せる事を伝えて、馬車に乗り込んで出発した。


次回から王都です。

ちょっとこの章長いですけど、このまま行きます。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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