3-12
キングさん視点です。
ちょっと短い目になっています。
ニュールンベルク王国 国境 キング・ハイデルベルク
開戦してから3日、敵の動きは相変わらずの中央突破の姿勢を崩さず、愚直に来ている。
もちろん、こちらもその愚直さに負けないように、ニュールンベルク王率いる部隊が堅守し、余が側面を脅かすという形ができ上がってきた。
開戦4日目、突然の轟雷と共に嵐がやって来た。流石にこの嵐では、敵も味方も身動きが取れない。
というよりも、動いたら少々危険な状態である。
「どれくらい降るかの……」
「さぁ? これで撤退してくれれば一番なのですが」
余とニャスビィシュの二人で窓の外の景色を見ていたが、まるで水瓶をひっくり返したような大雨と、空の上で雷神が猛り狂っているのではないかと思う程の轟音に早期決着の期待を寄せていた。
正直、この遠征かなり食糧事情的に厳しいのだ。
余の国はどうやら一番旱魃がひどかったらしく、他の国に比べてもひどい状況だった。
「ご報告します。ニュールンベルク王より、書状が届きました」
雷の音が激しすぎて、全く気付かなかったが、近衛の兵が近くに手紙をもって近づいていた。
その手紙を受け取り読み始めると、雷よりも大きな声で怒鳴り散らしたくなるような内容だった。
「な、あ奴め! なんでこんな重要な情報を今になって……」
「如何されたのですか?」
そう言って話しかけてきたニャスビィシュに手紙を押し付け、読ませると、彼も唸り始めた。
手紙の内容はこうだ。
1つ、敵勢力が外海から首都に向けて進んでいるという事。
2つ、我々が陣取っている場所のすぐ近くは、本来なら大河が流れている事。
この2つだけだが、厄介な事になってしまった。
まず1つは、外海の方にも軍を差し向けるので、2正面作戦を取らされたこと。
こちらが今の状態で拮抗しているので、少しでも減ってしまうと敵方が勢いづいてしまう可能性が高い。
そして、もう1つの大河の件だ。
この川は、ずいぶん前に河川工事で出来たのだが、少し前から水量がほぼなくなり、余が陣取る前には完全に干上がったのだ。
それだけなら、干ばつの影響か地下水が枯渇したのだろうで終わるが、問題は川の上流がどこに繋がっているかだ。
この川の水源は帝国側にあるらしい。
となると、川が干上がったという理由にもう1つ、水を堰き止めているという可能性があるのだ。
「もし、川の水を堰き止められていたとしたら、このままここに居るのは危ない! すぐさま後退の準備をさせろ!」
「はっ!」
余の命を受けた近衛の兵が急いで、下士官などに話を通達しに走った。
「間に合えば良いのだが……」
「水攻めを考えているなら、恐らく雨が上がってからでしょう。今のうちになら大丈夫です。ただ、兵達には負担になりますが、全滅するよりはましですからな」
水攻めが、雨が上がってからというのには根拠はあまりない。
ただ、基本的に雨の間に堰を切ると、自国側にもあふれる可能性があるからと、あまりしたがる奴が居ないだけの話だ。
「そうだと、良いのだがな」
後退を開始して3時間後、近くの高台に全軍を避難させることができた。
後退が完了したのと同時に、雷とは違った、大地を揺るがすような音と共に、余が元居た場所の辺りが山津波によって押し流されるのが見えた。
「危なかったですね。後少し判断が遅れていれば全員死んでいました」
「うむ、そうだな。そうなのだが、ニュールンベルク王がもう少し情報をしっかりと出して居れば、こんな雨の日に逃げんでも良かった」
「それは、まぁ確かにそうですが。如何なさるのですか?」
そこが悩みどころである。
このまま同盟を続ける事にはなるだろうが、正直安心しては居られん。
前日までの様な連携はできなくなるだろう。
「兎に角、敵をどうにか撤退させることが、第一だからな。それを果たしてから考えよう」
「はっ!」
敵船団接近の一報が入ったニュールンベルク王国は、周辺貴族を招集して対応させた。
敵船団は10、対して王国軍は漁船のみだったこともあり、鎧袖一触で蹴散らされてしまい、あっさりと上陸を許す羽目になった。
敵は10隻の船に兵を1万程度乗せ、近くの村々から略奪、強姦を繰り返し、全てを奪うと、火を点けて回り怨嗟が広がる。
この報を受けたニュールンベルク王は、直ちに救援の部隊5千を編成し、敵上陸点の再奪取を命じるも、兵力差もあり、中々進展しないままであった。
そればかりか、ここ暫くの戦闘で多数の死傷者を出していた王国軍は、敵の攻勢を徐々に受けきれなくなっていた。
そして、先日の水攻めなどもあり、ハイデルベルク王国軍との連携が上手く行かなくなってきた事もあり、国境の街を放棄、撤退の方針を固めるのだった。
次回から視点はロイドに戻ります。