3-9
エリシア第一王女の衝撃的な発言から、1ヶ月。
俺の家の隣には、これでもかと言わんばかりに大きな豪邸が、建っていた。
「エリシア殿下、これは一体どういう事でしょうか?」
「これとは?」
俺の問いにエリシアは、とぼけた様子で返してきた。
「この壁ですよ! なんで家まで囲っているのですか!?」
「あぁ~これね。私が貴方を気に入ったから、と言うのではダメかしら?」
気に入った? 俺を?
いったいこの王女様は何を考えているのか分からない。
俺が怪訝な表情をしていると、彼女は笑いながら続きを話し始めた。
「わかってなさそうね。私はね、貴方の事が気に入ったの。それは、私と言う権力を必要ないと言い切る所、そのくせこの村では権力を高めようとしている所。そして、金の鷹を一時的にとは言え撃退してしまった所、なのに、貴方は戦争が嫌いだと言う所。全部が矛盾している。それも綺麗に全く正反対なのよ。おかしいじゃない?」
「…………」
確かに、俺は権力を忌避しているが、今コーナーとやっている事は権力を高める事だ。
また、戦争を嫌っているが、俺の知っている知識は、戦争で勝つための知識が多い。
ただ、この点だけは言い訳をしたい。
歴史とは結局のところ、戦争史なのだ。
繰り返される戦争が歴史を作り、歴史を壊す。
俺が知っている知識とはそう言う物なのだ。
「で、私としては、貴方という人物が欲しいの。奴に勝つためにも……」
「奴?」
「あらいけない、つい口が滑っちゃったわ。忘れてちょうだい」
そう言う彼女の顔は、先程までのふざけた表情から、少しだが真面目な王女らしい真剣な表情になっていた。
「兎に角、壁を作りなおしてください。これでは家に用事のある村民が入れませんし、出入りが不自由です」
「……別に村民くらい通しても良いのよ? あの失礼な村娘と女商人以外なら」
そう、ここ1ヶ月の間、彼女はマリーとドローナの二人と、かなり険悪な雰囲気になっている。
なぜ険悪な雰囲気になったのかと言うと、事は3週間ほど前にさかのぼる。
彼女が俺の家の隣に屋敷を立てはじめた頃、村を見たいと言う彼女に対し、俺は仕方なしに村の案内をしていた。
「ふむ、地方の村と言うからどんな田舎かと思ったら、存外街の整備、道路の整備もされているのね。それにあの鍛冶場、あんな設備見た事も無いんだけど?」
「あぁ~あれは俺が考案した設備ですから、知らなくても当然でしょう。詳しくは教えられませんが、あそこで作る鉄は、現在の鉄に比べておよそ3倍は硬い物ができ上がります」
「3倍の硬さ!? ムムム……それが確かならそうとうね……。ところで、剣や鎧はわかるのけど、あの筒は何?」
彼女が指さしたのは、鉄でできた筒だ。
製鉄する際に丸くなる様に加工して作らせたものだ。
もちろん本当の事など教える気は無いので、適当に誤魔化す。
「あぁ~、あれは余り物の鉄です。一度溶かしてしまったから、何かの形にして残そうとしたらあぁなっただけですよ」
「それにしては、丁重に扱っている様に見えるのだけど……」
こいつ意外に鋭いな。
俺は舌打ちしたいのを我慢して話を続けようとした、その時。
急に左隣に柔らかい感触と共に腕を掴まれた。
咄嗟の出来事に驚いて横を見ると、マリーが腕に必死にくっついていた。
「ちょっ!マ、マリーどうかしたの?」
俺が訊ねると、彼女は俯いて何も言わずに腕に力を入れた。
あ、そんなに押し付けると、ちょ、マリーさん! マリーさん! それ以上は俺の免疫が持ちません!
「なんなの? その娘は? ロイド、貴方のこれ?」
そういってエリシアは小指を立ててきた。
まったく、どこのオヤジだこいつは。
ただ、そんな事を思っていても初めての事で――前の人生でも一回も無いから――どうして良いのか分からずに狼狽えていると、右の腕にもしがみつかれる感覚がきた。
「おぉ、これは、なんというか結構恥ずかしい……。けど、悪い気はしないわね。ロイドどう?私の感触は」
そう言ってニヤニヤと笑いながら俺の方を王女も見てきた。
ただ、その、なんていうかね。
確かに柔らかそうな物には当たっているんだけど、如何せん成長が悪いせいか、装飾が華美なせいか、当たってる場所がちょっと痛いんだよね。
俺が微妙な表情でいると、彼女は視線をずらして、自分の装飾品が邪魔な事に気が付いてたのか、ブチッと千切ってしまった。
「「あぁ―‼」」
俺が驚きの声を挙げようとしたら、後ろから殺意と言う名の視線を送っていた護衛の人たちが大声を挙げた。
「姫様! その御衣裳は女王様の物ですぞ! それを、それを千切るなんて」
「煩い! 確かにこれは母様の物だが、これを着てたのは母様が10になるまでじゃ! 今さら私がどうこうしたとして何が問題ある!?」
「あ、いえ、その、ございません」
護衛? の老人の訴えを彼女は一喝で沈めたが、ちょっとかわいそうな気がせんでもない。
そして、その問答の後、うん、ありがとうございます。
「ほれほれ、どうじゃ? 私のも良かろう」
まるでどこかのエロオヤジの様な事を言っているが、まぁこれはこれで嬉しいのは男の性だろう。
ただ、左側で目が吊り上っていく子が居なければ、と言う条件は付くのだが。
「ロイド~。なに鼻の下を伸ばしているのかしら?」
「あ、いや、その、ソンナコト、ナイデス、ヨ……?」
マリーが、こ、怖い。
あぁ、角が生えるのが見えてきそうだ。
「ん? なにをそんな女に尻に敷かれて、私なら旦那を立ててやるし、これくらいの事他の女がしても目くじら立てないわよ?」
ちょ、そこでマリーを煽るの辞めて!
俺の左腕が、幸せと不幸せで大変なことになってるから! 痛だだだだだだ!
それからしばらくして、やっと二人とも腕を開放してくれたのだが、この二人の間に挟まれるのは、生きた心地がしないです。
二人は俺を挟んでひとしきり睨みあった後、俺の方を向いてきた。
「で、ロイドとしてはどちらが好みなんじゃ? もちろん私に決まってるじゃろ?」
「な、ちょっと、後からしゃしゃり出てきて図々しい事言わないで、もちろんロイドは私よね?」
「そこは、私も入れて欲しい所ですね。お二人には無い魅力が私にはありますから」
いつからそこに居たのか、ドローナまで入ってきた。
まぁこの三人はそれぞれタイプが違うと言えば違う。
妖艶なドローナ、健康美溢れるマリー、小さいながらも人形の様に整った顔立ちのエリシア。
うん、俺……モテてるはずだよな?
なんだろう、憧れてたのと、ちょっと違う……。
というか、これならモテなくて良かったとさえ思ってしまっている。
「「「さぁ! 誰なの!?」」」
二人から三人になり、睨みあった後で同時に話しかけてきた。
それと同時に村の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「村長~アンドレアさんが帰ってきたぞ~」
「あぁ!わかったすぐに行く!」
「「「あっ! 逃げた!」」」
俺が呼ばれた方に走り出すと、三人はまた同時に同じことを言っている。
本当は仲良しなのではないかと疑ってしまいたくなるのは、気のせいだろうか?
俺はそう思って後ろを少し振り返ると、暫く睨みあってから、三人ともそれぞれ別方向に顔を背けていた。
これ以後、ドローナとマリーはどうやら協定を結んだのか、以前よりも仲が良くなったように見え、対するエリシアは、財力にものを言わせて、俺の家も一緒に壁で囲ってしまうのだった。
この三人、いつか仲直りしてくれると良いのだが、どうなる事やら。
……。なんか、ラブコメ化してきたな。...( = =) トオイメ
今少し3又状態(意図せず)をお楽しみください。
近いうちに戦争描きます。
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m




