2‐12
今回は少し短いです。
H28.10.24長い文に句読点を足しました。同時に細部を多少変更。
ドレストン男爵邸 ドレストン男爵
つい2ヶ月ほど前に、ロイドとかいうふざけた村長のいる村を攻めたのだが、予想外の反撃を受け、予想外の人物まで加担している事がわかってしまい、手出しができなくなっていた。
その間、どうにかして奴らの弱点を探ろうと、必死になっていたのだが、なんと奴ら街道沿いに柵と櫓を立てて、あの〝穴″までまた作り出したのだ。
どうにか妨害工作をしようとしているのだが、なんと工事現場に元騎士達が警戒しており、不審者が近づけなくなっていると、報告がきた。
「どういうことだ! 奴らは儂の騎士をなぜ働かせておるのだ!? それにそいつらを使って妨害工作はできんのか!」
儂は大声で家宰を怒鳴りつけたが、家宰は恐縮しながら言い訳をするばかりで、何の役にも立たない。
そうこうしている内に、ついに恐れていた使者が我が屋敷にやって来た。
そう、寄り親であり、我が領土と隣り合わせているタラスコン伯爵家だ。
前当主であるスキピオ・タラスコン様には、大変世話になったのだが、現当主であるハンニバルの若造は、どうも儂を見下している所があり、気に食わないのだ。
そのハンニバルからの使者である。
儂としては居留守を使いたかったのだが、生憎身分差が大きいため、バレた時に下手を打てば打ち首になる可能性もある。
それだけは嫌なので、致し方なく会うことにした。
「我が主、ハンニバル・タラスコン伯爵様からの書状である。ドレストン男爵におかれましては、領土境にある村の対処に苦慮されておられる様に見受ける。よって寄り親として私自ら指揮をして村を取り返して差し上げよう。この事について異論は認めぬものとする。……以上である」
屈辱だ。
まだ30にもならぬ奴に上から命令されるだけでなく、馬鹿にされるなど屈辱以外の何ものでもない。
だが、身分差があり過ぎる。
儂がもっと位が上であれば抵抗できたものを、口惜しいが奴の言う事に頷くしかない。
「はっ!某の未熟故の失態を、尻拭いさせ……申し訳ないと、お伝え、くだされ」
気持ちを抑えて、何とか丁寧な言葉遣いで返事が出来たが、正直はらわたが煮えくり返る思いだ。
「男爵様の言葉、しかと伯爵様にお伝えいたします」
「よろしくお頼み申す」
そう返事をすると、長居は無用とばかりに、使者は急いで伯爵の元へと帰っていった。
使者が帰ったのをしっかりと、見送ってから儂は手近にあったものを壁に向かって思いっきり投げ、大声で叫んだ。
「畜生! あの若造め! 毎度、毎度、偉そうに上から言ってきやがって!」
儂が暴れている様子を、家宰たちは近くで震えながら見守っていた。
その様子に余計に腹が立ってしまい、また更に物を投げつけるのだった。
タラスコン邸 タラスコン伯爵
ドレストン男爵へ最後通告を、行いに行った使者が帰ってきたのは、出発してから約2週間後の事だった。
「ずいぶんと時間がかかったが、ドレストン男爵が何かごねたのか?」
俺の目の前で跪いている使者に、視線を落として話しかけると、彼は額に汗をかきながら釈明してきた。
「遅くなりました事、誠に申し訳ございません。実は、ドレストン男爵邸へ向かう道の途中に、賊が関所を作っており、迂回せざるおえなくなったので、遅れてしまいました」
「賊? それは例の村のものか?」
「はっ! 恐らくは」
なるほど、奴ら自分たちの防衛ラインを、街道のすぐそばに作った様だ。
その話を聞いた俺は、自然と笑みがこぼれた。
なにせ、久しぶりにしっかりと戦略を組み立てて戦う事ができるのだ。
これが嬉しくない訳がない。
「敵はどれほどの規模かわかるか?」
俺の質問に使者の男は首を横に振って答えた。
「申し訳ございませんが、敵軍の規模は全く分かりません。何せ私が遠くから確認した時には、門ができ上がり、その近くには三日月型の穴がありましたので」
「三日月型の穴?」
「はい、それも細長い穴です。恐らく防衛施設か何かだとは思うのですが、遠目からではハッキリとした事はわかりませんでしたので……」
そこまで話すと男は、また俯いた。
まぁ偵察兵でもない、単なる文官なので仕方があるまい。
俺はため息を吐きたいのを我慢して、男にねぎらいの言葉をかけた。
「わかった。その件に関しては偵察兵を送って調べさせるとする。ご苦労だった。下がって良いぞ」
俺の一言に、一瞬安堵の表情を浮かべた男は、そそくさと部屋から退場していった。
男が出て行くのを見送ってから、俺は1人考え込んだ。
穴か、まぁ、使者の男が言っていた様に、恐らく防衛施設であっているだろう。
ただ、その穴をどうやって使うのかは正直わからない。それに門もあると言う事は、柵か壁があると言う事だ。
たったの2ヶ月で、既にそこまでの防衛施設を完成させていると言うのであれば、生半可な作戦では手痛い反撃を受けるか、一方的にやられるだけだろう。
「さて、楽しくなってきた。どうやって攻めようか……」
俺の軍略がどこまで通じるのか、早くも試したくなっていた。
次回から戦争です。
城壁の形が明らかになります。




