2‐11
幕間みたいな話ですが、一応本編です。
本日はマリー視点です。
初めに言っておきたいのだが、私はロイドの事が好きだ。
これは絶対に揺るがないし、私の心に正直な思いなのだが、肝心のロイドが私の心に全く気付いてくれない。
彼には幾度となくアピールしてきた、はずなのに。
それに最近うかうかしていられない事情が出てきた。
それは、村に人が増えた事で、年頃の女の子が増えている事だ。
これまでは、規模の小さい村だっただけに、年頃と言えば私か、幼馴染のエリスで、そのエリスには立派な彼氏がいるので安心していた。
しかし、最近増えた子達は、流民生活を送っていたのをロイドに救われ、しかもドレストン男爵の軍勢を相手に、一歩も引かずに撃退した武勇伝まである。
どこからどう見ても彼女たちにとっても英雄であり、憧れの人なのだ。
そして、それだけではない。
最近ドローナさんが、あからさまに服や化粧を変えてきている。
それもかなり高価なはずの口紅まで付けているのだ。
あんなものを付けてくるなんて、どう考えてもロイドを狙っている。
と、私の女の勘が告げているのだけど。
どうもロイドは、〝にぶちん〟らしく、これだけのラブコールに対して全く見当違いの事を思っているらしい。
「らしい」というのは、以前最大限の勇気を振り絞って、彼に尋ねたのだ。
村の女の子の事、ドローナさんの事を。
そうしたら彼はシレッとこういった。
「え? ドローナさんが口紅してたって? ん~商売上手く行ってるだけなんじゃない?」
これだけなのだ。
あの潤んだ瞳も、口紅まで塗った唇も、少々露出の多目の服も全く目に入っていなかったのだ。 (胸には目が行っていたようだけど)
当然、村の若い子達の事も、「まぁ生活助けてもらって嬉しかったんじゃない?」と無自覚もいいところなのだ。
まぁこれだけ無自覚なので、彼が他の女の子に靡くという可能性は極めて薄いのだが、逆に強硬手段に――裸で迫るとか――出られたら多分コロッと落ちてしまいそうで不安でしかない。
「さて、私にはドローナさんみたいな胸も無いし、口紅買うお金もない。あるのは、彼を初日に拾ってきたと言う出会いの早さと、そのお陰で気兼ねなく話せる事だけなのよね……」
我ながら現状を整理してみると、大分、いえ、かなり不利な戦いをしている気がする。
ただ、どうやって彼を私に振り向かせるか、そしてどうやってゴールインを目指すかなのよね。
「……。どうしよう、全く浮かばないわ。どうやってもスルーされる可能性が高すぎるわ」
これまでに私がやってきた事と言えば、焼きもちをやいてみる。
できる限り一緒に居る。
どこかに出かけて何かあった時や危ない所に行った時は、ハグしてお出迎え。
後は、できる限り彼のお手伝い……。
駄目だ、ハグ以上の事で、彼が私を見る可能性が、限りなく0にしか思えない。
「どうしようかな……」
「何を?」
「ひゃぁ!びっくりした。……ってロイド! いつからそこに居たの?」
ため息を吐いた瞬間に彼の顔があったので、ビックリしてしまった。
一瞬彼の顔が悪戯っ子の様にニヤッと笑ったのが見えて、そんな顔もまた……って見惚れてたら駄目じゃない!
「えっと、『スルーされる可能性が』とか、なんとか言ってるところからだけど?」
良かった、彼には本題の部分は聞かれていなかったようだ。
いくら自分の家の近くだからって、今度からは外で考え事をするのは、特にロイドの事を考える時は家の中でしよう。と今更ながらに誓っていた。
「えっとね、その、と、友達の恋愛相談よ。最近彼氏が見てくれなくてどうしようって言ってたから作戦を考えていたの」
「マリーの友達って、確かエリスとかっていう背の小さい可愛らしい子の事?」
ロイドの放った「背の小さい可愛らしい子」という単語に、私は敏感に反応してしまった。
そうだとしたら、私にもチャンスがあるはずなのだ。
「そ、そうよ。って可愛らしいって彼女には彼氏が居るんだから、略奪したらダメだからね」
「いやいやいや、流石に俺、村長だからね。そんな事して村に確執作りたくないよ。それに……マリーの方が可愛いし……」
ん?何か最後の方にゴニョゴニョ言ってたけどよく聞き取れなかったわ。
「ねぇ? 最後の方なんて言ったの? 聞き取れなかったんだけど」
「え、あ、いや~なんでもないよ。なんでも。あ、あは、あはははは」
あ、笑ってごまかしてきた。
何か良からぬことを口走ったのかしら?
「えぇ~言ってよ。気になるじゃない」
「いやいや、気にしないで、それよりもエリスの事は良いのかい?」
もぅ! そうやって都合の悪い事はすぐに話を逸らすんだから。
まぁ咄嗟に出たとはいえ、エリスの話も本当なのだ。
特に最近、他所からの流入が多くなったことで、若い女の子が増えたのが原因なのかもしれない。
「まぁ、その辺は、私は相談にのるだけだし、あまり手助けできないと思うわ」
「そうか、まぁそれならそれで仕方ないか……。上手く行くと良いんだけど、良かったら俺の方で彼氏と話してみようか?」
このお人好しは、忙しい身の上にまだそんな厄介ごとを抱え込もうとする。
まぁ、そんなお人好しを好きになった、私も私なのだけど。
「良いの? 最近特に忙しそうにしてたじゃない? 新しい防衛施設の設計だの工事だので、別にロイドじゃなくてもゴードンさんとかでも良いのよ?」
「あぁ、心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。工事はアンドレアに監督を任せたから後は村の今後を考えるくらいだから、誰かの恋愛相談くらいなら乗れるよ。全く経験ないけど……」
最後の方を自分で言って、自分で少し落ち込んでいる彼を見ていると、なんだか笑えてしまう。
楽しませるためにそこまでしなくて良いのに。
「……ほんとお人好しだ」
「え?何か言った?」
しまった、最後の方がつい口から出てしまった。
慌てて私は顔の前で手を振って「何でもない」と言うと、彼は「そっか」とだけ言って下を向いた。
「まぁ、任せてよ。どうにかしてみせるから。それに彼氏の方は話聞くだけだから大丈夫だよ」
そう言って、顔をあげて彼は自信満々とまでは言えないが、笑顔でそう言ってきた。
「うん、それじゃあ彼の方はロイドに任せるわね。何かあったら教えて」
「おう、任せろ」
そう言って、ロイドは意気揚々と自分の家に戻っていった。
後日、エリスの彼氏が上の空だったのは、流入してきた男を警戒していただけだと言う事がわかり、私とロイドの二人で大笑いをしたのは、二人だけの秘密となった。
やっとヒロインらしい事が少しできた気がします。
今までが、焼きもちと心配してハグだけですから^^;
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m